ネズミ駆除
「よし、じゃあ僕とイアンで、ジャイアントラットを引き付けるから、レダ頑張って。」
「わ、わかったわ。」
レダは酷く緊張していた。
「大丈夫よ、失敗しても私が居るんだから。」
本当に大丈夫か心配でたまらないのだが、こうなったらやるしかない。
レダは覚悟を決めた。
レオースとイアンが、ジャイアントラットを挑発する。巣を作っているからだろうか、直ぐに1匹が2人を追い掛け回す。
が、残り1匹は動かない。
仕方なく頑張る二人。
そうして、逃げ回っているうちに、もう一匹も二人を追い始めた。
「準備はいい?」
アナスタシアは、レダの肩にそっと手を乗せた。
「いいわ。」
「二人ともこっちよ。」
アナスタシアの合図で、二人はアナスタシア達の方に向かって逃げ出した。
先頭はレオース、次がイアンで、ジャイアントラット2匹が続く。縦列で走る二人と2匹。
「今よっ!」
アナスタシアの合図で、左右に散らばるレオースとイアン。
「ウィンドカッター!」
今までレダが見たこともないような、風の刃がジャイアントラットへと向かう。
大きな風の刃は、真っすぐにジャイアントラットへ向かい、2匹をあっけなく真っ二つにした。
「レダ、やればできるじゃない。」
「う、嘘でしょ?」
自分の放った魔法の威力が信じられないレダ。
レオースとイアンも、真っ二つになったジャイアントラットを見て、ぽかーんとしていた。
「二人とも街の人を呼んできて。私達だけじゃあ、処理できないでしょ?」
「は、はい。」
レオースが返事をして、レオースとイアンは街へと戻って行った。
「あなたの力、本当だったのね。」
レダがアナスタシアに言った。
「何?疑っていたの?」
「だって、こんなに魔法の威力が上がるなんて。」
「私の言葉には力があるって言ったでしょ?」
「言葉にあるのかな?」
戦闘中、アナスタシアは掛け声をかけていたが、それほど喋っているわけではなかった。
「そうよ?私の掛け声で魔法を発動させたでしょ?」
「そ、そうよね。アナスタシアは凄いわ。」
「ふふふ、もっと言ってちょうだい!」
人からの称賛は心地よい。
というか、称賛されたのは初めての事だった。
その日の夕食時まで、称賛され続け、アナスタシアは超絶いい気分になっていた。いわゆる有頂天に。
「今日は、俺の奢りだ。」
そう言って酒場の親父が、テーブル一杯の食事を用意してくれた。
レダは、未だに手のひらを見て、今日放った魔法の感触を思い出していた。
「明日からも、この調子で行くわよ!」
有頂天のアナスタシアが、食事をしながら言った。
「あのう、アナスタシアさん。」
言いにくそうにレオースが言う。
「何?」
「僕たち明日から、バイトがありまして・・・。」
「冒険者なんでしょ?」
「なあなあ、アナスタシアさん。掲示板を見てきたらどうかな?」
イアンが言った。
「掲示板?」
アナスタシアは掲示板を見に行って、戻ってきた。
「依頼がないわっ!」
「元々、この町って依頼はないんですよ。」
レオースが言った。
「まあ1、2週間もしたら、どこからともなくジャイアントラットが出てくると思うけどね。」
イアンが言った。
「何で、ここに居るのよ。あんたたちっ!」
「僕は荷受けの仕事、イアンは教会の手伝い、レダはパンとランチのお店と仕事があるんで、ここに・・・。」
ようは、食いっぱぐれない仕事が都合よく見つかったので居ついたパターンだった。
「それで・・・冒険者?」
「底辺の冒険者ってこんなもんだよ。稼げるわけでないからね。そりゃあ上を見たらキリはないけど。」
イアンが冒険者の底辺事情を説明した。
「まあいいわ。あなた達にはあなた達の事情があるんだろうし、3万ゴールドを4人で割ったとして、無駄遣いは出来ないわね。ねえ、安い宿を紹介してくれない?」
「よかったら、僕たちの家に来ますか?」
「は?家なんて持ってるの??」
「空き家を安く借りて3人で住んでます。部屋が空いてる訳じゃあないですがレダの部屋でよければですが?」
「お願いするわっ!」
ここんとこ野宿ばかりで、ちゃんとした寝床で寝ていないアナスタシアは直ぐに飛びついた。
「ねえ、ずっと、ぼーっとしてるけど大丈夫?」
アナスタシアは隣のベッドに座ってるレダに言った。
「だ、大丈夫よ。」
未だにあの魔法の感触が手に残っている。
魔力が少なく、魔法の才能があったわけではない。普通にどこにでもいる少女、それがレダだ。
偶々、村に立ち寄った魔術師に魔法を習ったのが、魔術師になったきっかけだ。才能が無いのは最初に言われたから判っている。
「明日は、パン屋で早いんじゃないの?」
「そ、そうね。」
早くに就寝したが、興奮状態は続き結局、寝不足になってしまった。
アナスタシアが起きた時には、家には誰にもおらず、1階のテーブルには、一人分の朝食が置かれていた。
朝食を食べ終わると、町中をふらついた。
そんなに大きい街ではないが、活気にあふれたいい街だった。
あの3人が居ついているのも納得が出来た。
まだ、朝だというのに酒場が開いており、アナスタシアは酒場に顔を出した。
「おー、アナスタシアか朝から酒場とは、やるじゃねえか。」
昨日のジャイアントラット討伐は、町中の誰もが知っており、アナスタシアの名は、町中に広まっていた。
「おじさん、何で朝から酒場が開いてるのよ。」
「そりゃあ、冒険者が訪れて、開いてなかったら困るだろ?」
アナスタシアは掲示板を見たが、寄合いのお知らせや、紛失物と言った依頼とは、一切関係が無いものしか貼ってなかった。
「って、依頼が一件も無いじゃないっ!」
「そりゃあそうだろ?そんなに依頼があるような街だったら、冒険者だって居ると思わないか?」
「冒険者ならレダ達がいるでしょ?」
「あの3人は冒険者というより、街の期待の若手ってとこだな。」
「何それ?」
「冒険者にも色々あるだろ?冒険者になりたくてなった者、生まれた場所で仕事がなく仕方なく冒険者になった者とかな。あの3人は後者だ。」
「仕方なくなったとしても、冒険者としてやっていけてる連中だっているでしょ?」
「まあな。アナスタシアは冒険者になりたくてなったのか?」
「私は生きる為に冒険者になるしかなかったのよ。」
「じゃあ、3人と似たようなものか。」
「そうね。」
「ただな、あの3人は冒険者としてやっていくには、力不足だ。」
「それは、わからないでしょ?」
「いや、わかるね。」
「なんで酒場の親父にわかるのよ?」
「俺も元は冒険者だからな。」
「は?」
「冒険者としてやっていける人間は、オーラが違うんだ。あの3人は向いてないよ。」
「オーラ?」
「そうだ。冒険者と呼ばれる人間はな。みんな、独特なオーラを持ってるんだよ。そういう意味じゃあアナスタシアからもオーラを感じるから、冒険者としてやっていけそうだな。」
「そりゃあ、どうも。」
「ジャイアントラット討伐だって、アナスタシアが力を貸してやったんだろ?」
「もちろんよ。」
「あの3人の実力じゃあ無理だからな。」
「人は成長するものでしょ?」
「全員がそういうわけでもないさ。それにオーラってのは生まれ持ったものというよりも、自分がどうありたいかって思いが強い奴ほど発するものなんだ。」
「どういうこと?」
「アナスタシアは思ってるんだろ?上を目指したいと。」
「冒険者なら当然でしょ?」
「そりゃあ冒険者になりたいと思って冒険者になった奴はそうだろうな。しかし、冒険者になるしかなかった奴らはそうじゃない。」
「私だってなるしかなかったんだけど?」
「まあそういう奴も居るがね。あの3人は上を目指していない。まあこんな依頼も少ない街に住み着いているんだから、仕方がないがね。」
「生きる為には、そういう時だって必要でしょ?」
「まあな。アナスタシアは、この街に長く居る気はないんだろ?」
「ええ。」
「まあ、それが普通の冒険者なんだろうな。」
二人が話をしていると、酒場の扉が開いた。
新たな冒険者の登場と思いきや、入ってきたのはレダだった。
「い、居た。アナスタシア。大変なの。あなたの力を貸して。」
血相をかえ、息を切らしているレダ。
その必死な形相にアナスタシアは、快く答えた。
「私に任せておきなさいっ!」