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料理道

「いいだろう。お前の弟子も少し痛い目見ないとわかんないみたいだしな。」

「どうして私が痛い目に?」

「・・・。どう育てたら、こんなにプライド高い弟子が出来上がるんだよ、まったく・・・。」

「この私が、山に引き籠ってるような無能者に負けるわけがありませんわ。」

「無能者ちゃうわっ!不能者だっ!たく、見せてやるよ。黒龍を倒した舞踏術をな。」

「さっさとしてくれませんか?暇じゃないので。」

立ち上がり、既に戦闘態勢になっていたアナスタシアが言った。

「この小娘がっ!」


フールが使う舞踏術とは、もはや知る人も居ない埋もれた武術で、ナイフを2刀で扱うフールにとって相性がいいものだった。

舞うように回転し、相手を切り裂く舞踏術。

最初の一撃を、アナスタシアは難なく扇で防いだ。

【あれ?俺ってこんな速さだったか?】

イマイチ、調子が出ない気がするフールだったが、初撃が防がれるや直ぐに、逆回転し2撃目を放つ。

それすら、扇で容易く防ぐとアナスタシアは、一歩前進した。

【や、やばっ。】

間合いを詰められたフールは後退しようとしたが。

胸元に、扇の強い一撃を食らった。

尻もちをついて倒れるフール。

見上げた先には、不気味な笑いを浮かべるアナスタシアが。

そして、アナスタシアが、必殺技を繰り出した。

扇を開き、口元を隠す。

「フフフ、私の事を誰だと思っていますの?かのブラッディフッドの弟子とは私の事ですわ!」

決まったと言わんばかりのドヤ顔をする。

精神的に大ダメージを受けたフールは、がっくりと項垂れる。

私の名前をそんな風に使うんじゃないと思いながらも、ブラッディフッドは、そこまで悪い気はしなかった。


「何なんだ、お前の弟子は?」

精神的ショックから立ち直ったフールは、ブラッディフッドに詰め寄った。

アナスタシアはというと扇を広げたまま、笑い続けていた。

「何だと言われてもなあ。私の教えの賜物かな。」

ちょっとしたブラッディフッドのドヤ顔にフールはイラっとした。

「教えとかそういうものじゃないだろ?俺の動きが阻害されたんだぞ。」

「気のせいだろ?」

「気のせいであるかっ!」

「山に引き籠ってるから運動不足なんじゃないのか?」

そんな事を言ってブラッディフッドは誤魔化した。

「運動不足とかいう問題じゃあねえだろっ!」

「フフフ、まあまあ引き籠りの人、落ち着いて。」

アナスタシアが上から目線で言った。

「お前は一体何なんだ?」

「私の言葉には力がありますの。かの伝説の歌姫のようにね。」

「何言ってんだコイツ・・・。お前には伝説の歌姫のような巨大な魔力を微塵も感じねえよっ!」

「むっ!」

「まあ、魔力は置いといてもだ、同じような効果があるのは身をもって体感しただろ?」

ブラッディフッドが言った。

「くっ、大した動きも出来てねえ奴に、負けるのは、こんなにも癪に障るんだな。」

「フフフ、負け惜しみを。」

「おい、お前の弟子どうにかしろよ、超舞い上がってるぞ?」

「お前が負けるからだろ?」

「くっ。しかし、ようやくここへ来た目的がわかったぞ。俺の舞踏術を教えろって事か?」

「(。´・ω・)ん? いや、料理の修行に来ただけだが?」

「マジだったのか?」

「そうだが?」

「・・・。」

「別に教えたいなら、教えてもいいぞ?」

「なんだ、そのついでみたいなのは?」

「私としては、アナに教えときたいのは料理だけだ。」

「・・・。」

フールは、ジーっとアナスタシアの方を見た。

武器は扇。

舞踏術との相性は悪くない。

「く、くそっ!お前の思惑通りに進むのは腹が立つが、教えてやるよ。舞踏術をな。」

「だから、私は・・・。」

「何言ってるんですか?この人。私より弱いのに何を教えるって?」

「・・・。」

ガチで、舞踏術は不人気だった。


「いいか筋は大事だからな、そこは気をつけろ。」

「すみません、ちょっと黙っててもらえますか?」

「これ位で集中を切らすなっ!」

そう言い残して、フールはダッシュで外へ駆け出して行った。

「何で俺が料理教えてんねんっ!」

外の椅子で優雅にくつろいでいたブラッディフッドに突っ込む。

「お前、教えたがってたろ?」

「俺が教えたいのは、舞踏術だっ!料理はお前が教えるんだろ?」

「料理なんて、誰が教えても一緒だろ?」

「こ、このクソあまあ、知らんぞ弟子が俺に懐いても?いいのか弟子を奪われても?」

「それはない。」

ずぱっと言い捨てた。

「た、大した自信だな。見てろよ。アナスタシアに俺がお師匠様って呼ばれるようにしてやるからなっ!」

それ以降、フールは口うるさく、みっちりと料理と舞踏術を叩き込んだ。

その甲斐あって、アナスタシアは、フールの事を口うるさい、おっさんであることを認識した。


「そろそろ、ここも飽きたな。」

ブラッディフッドが言った。

「お、おまっ、何もしてないだろうがっ!」

「何言ってやがる。味見してたのは誰だと思ってるんだ?」

「ただ食ってただけだろうがっ!」

「アナ、こいつから学ぶものは、もう無いか?」

「はい、まったく。」

「アナスタシア、お前もお前だ。俺が料理と舞踏術を教えてやったろ?」

「ただ口うるさいだけでした。」

「くっ、師匠も師匠なら、弟子も弟子だな。」

「まあ、多少は世話になったな。」

「多少じゃねえだろがっ!」

「さて、アナ。新たなる旅へ出かけるか。」

「そうですね。」

そうして二人は、感謝の念もなくあっさりと、旅立つ。

その背を見ながらフールは叫んだ。

「おい、アナスタシア。お前の決め台詞なっ!あれ、俺の名前使ってもいいからなっ!」

フールは大声で叫んだ。

「お断りしますっ!」

即座に大声で返事が返ってきた。

「十回に一回、いや、二十回に一回でいいからっ!」

それに対する返事はなく、二人の姿は見えなくなった。


「最悪だな・・・あの師弟コンビは・・・。」

フールはぽつりと、そう漏らした。


その後、暫くアナスタシアとブラッディフッドは二人で旅を続けていたが。

「アナ、このまま私とずっと二人で居てもいいが、そうなるとお前の物語が出来ることは無い。」

ブラッディフッドの名前は絶大で、一緒にいては単なる添え物でしかないのは、アナスタシアも理解していた。

「そこでだ。冒険者パーティーを紹介してやってもいいがどうする?」

「冒険者パーティーですか?」

「そうだ、一流の冒険者パーティーに途中から入ったって、その他でしかなくなるからな、これから将来有望な中級者パーティーを紹介してもいいぞ?」

「ほう、そうすると、私が加入したことによって、一流の冒険者パーティーになるわけですね。」

「まあ、そう簡単には事は運ばないだろうが、そうなればいいなって事だ。」

「なるほど、なるほど。いずれは魔王を倒し、私が物語の主人公になるわけですね?」

「う、うん・・・。」

それは無理だろう、とは言えなかったブラッディフッド。

「わかりました。是非、紹介してください。私が伝説になる為に。」

「そ、そうだな・・・。それとな、アナ。人間には気が合う人間と気が合わない人間が存在する。」

「確かに。」

「だからな、もし気が合わなかったら、直ぐに戻ってくるんだぞ?」

「お師匠様も心配性ですね。私も大人ですから。その辺はそつなくこなしますよ。」

そう言って笑うアナスタシア。

果たして紹介するパーティーがこいつの性格に耐えれるかどうか、それだけが心配だった。

「まあいいか、行ってこいアナスタシア。お前の新たなる伝説の幕開けだ!」

「はい、お師匠様。」

こうして、アナスタシアの冒険が今、始まろうとした。

第一話へ続く!


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