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第七王子に生まれたけど、何すりゃいいの?  作者: 籠の中のうさぎ
幼少期編

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39話

俺の言葉にマリアもキュリロス師匠も口を噤んでしまった。

何を考えているのか、二人とも表情が暗い。

そのあとは特に会話もないまま、東の回廊にたどり着き、俺の部屋についた。

でもまだ言いたいことがありそうな二人のために、マリアとキュリロス師匠を部屋へと招き入れた。


そこで意を決したようにキュリロス師匠が俺の腕を掴んで口を開く。

「私では、殿下をお守りする盾にはなれませぬか。」

「盾、ですか………。」

正直その申し出はすごくありがたい。

俺の絶対的味方に、誰よりも信頼するキュリロス師匠がなってくれるのであれば、それ以上に心強いことも嬉しいこともない。

しかしそれは駄目だ。

俺が市井に下ってもいいと思った理由の一つがキュリロス師匠のその経歴を知っているからだ。

キュリロス師匠はもともと平民、冒険者上がりだ。

確か世界でも一握りしかいないSランクの冒険者だったのだ。今はその剣の腕を王族のために役立てているから貴族で破格の待遇で一代貴族とはいえ侯爵か、ともすれば名ばかりの公爵家にも引けを取らないほどの力を持っている。

でも、俺個人に付くと言うならば話は変わってくる。

「でも、キュリロス師匠はこの国の名誉貴族でしょう?俺個人の味方には……、」

「ええ。ですが元々は冒険者です。アブラーモ様に剣術の腕を見込まれこの国の貴族となり、王宮に仕えておりますが、今更平民に戻ろうと私は構いはしません。私が生きるために都合がよかったまでのことです。あなたが本当にフェデリコ殿下を貶めようとしているのであればまだしも、子供の時からお守りしていたライモンド殿下のためならば惜しくもない。」


「それで、国賊にでもなりますか?今は俺が子供だからいい。そのうち俺が成長すれば親の名を冠したマヤ派とカリーナ派ではなく、ライモンド派とフェデリコ派に分かれますよ。その時俺の側にいるのがただの礼儀習いのマリアだけならまだしも、キュリロス師匠もいれば俺がフェデリコ兄様を王太子の座から引きずり下ろすなんて言う荒唐無稽な説だって真実味を帯び始める。下手を打てば打ち首です。」

「そうならないように行動なさっているでしょう?」

「俺の策じゃ、せいぜい時間稼ぎにしかなりません。俺はベルトランド兄様みたいに頭がいいわけでも、アンドレア兄様みたいに立ち回りが上手いわけでもない。」

「ならばそれで結構。ライモンド殿下が稼いだ時間で私も己を磨きましょう。あなたとマリア殿を守れるほどに。」

終わりの見えない言葉の応酬に、頭が痛くなりこめかみを手で押さえる。


「俺は………、キュリロス師匠を自分の盾にしたいだなんて思わない。」

「では剣はいかがでしょう?」

何を言っても引く気がないことがこの短時間でよくわかった。

でも、俺としてはキュリロス師匠の命を預かるような真似はしたくないのだ。

考えてもみてほしい。現代社会で他人の生殺与奪の権利を握る機会がどれほどあると言うのか。

少なくとも俺は一度もなかった。だからこそ踏ん切りがつかない。

俺の発言、行動によってキュリロス師匠のその後が決まるのだ。生死さえも、左右する。

そんな権利くそくらえだ。


「………俺には剣も盾も必要ありません。そんなものでキュリロス師匠を危険に晒すくらいなら、自分一人で死んだほうがましですよ。でも、キュリロス師匠が俺のために死ぬんじゃなくて、俺のために生きる覚悟を決めてくれるなら俺もキュリロス師匠を俺の懐刀にする覚悟を決めましょう。」

「いいでしょう。ですが、懐刀と言うのだから余計そばにいないのでは意味がないのでは?」

「まさか!」

懐刀は別に常に側にあるから懐刀なんじゃない。

己の身を守る何もかもがなくなって、最後に残った命綱。

命だけじゃない。時には持ち主の名誉すらも守り抜く。

「俺がもしも他の誰かの策にはまってどうしようもなくなったら、その時には全部を捨てて俺の剣になってください。その時は、俺もキュリロス師匠と死ぬ覚悟をしましょう。」

「………ええ。その時は、必ず。」

言っても引かないならいっそ願い通り引き込んでやりますよ。

その代わり師匠に俺の側へ来てもらうのは、本当にどうしようもなくなったときだ。

「だからといって、命を捨てるようなら俺はキュリロス師匠を切り捨てますよ?俺の仲間じゃない!って。意地でも、俺のために死なせてなんてやりません。」

「ふふっ。承知いたしました。」


ともかくキュリロス師匠はこれでいいとしても、問題はマリアだ。

俺の懐刀として王宮に潜むことになったキュリロス師匠はいっそ晴れがましい表情だが、マリアは先ほどよりもいっそう落ち込んでいる。

女で、しかも学園に通っていないというマリアだと俺の側にい続けることは難しい。

それこそ、行かず後家になることを承知で俺の側付きとなるくらいしか一緒にいられる術はないのではないだろうか。

理解のある夫を見つけることも手かもしれないが、そもそもマリアは公爵家の娘だ。

俺につくことでグリマルディ公爵家に不利益になるのであれば、マリアの父、グリマルディ公爵がそれを許しはしないだろう。

母上の側付きを経て俺の世話係になっている今でさえ、自ら宣言したわけでもないのにグリマルディ家はマヤ派についたと噂されているくらいなのだ。

そもそも家のために結婚することを前提に育てられているのだから今結婚していないことの方が奇跡に近い。

だから、俺が成長すれば必ずマリアと別れなければならない時が来る。


「ねえ、マリア。」

「っ、はい。ライモンド様。」

マリアの手を取ると、彼女は俺と視線を合わせるように膝を折ってくれる。

「マリアは、俺にとって母であり、姉であり、先生だから。だから、もしもこの先俺が苦境に立った時、何もできないって思わないで。今まで、全部マリアにもらったんだから。」

マリアがいなければ今の俺に選択肢など与えられなかっただろう。

俺の世話係も、母上の側付きも、マリア以外は一年もしないうちにいなくなっていた。

誰も俺に必要以上に話しかけようとはしない。世界のことを教えるなどもってのほかだ。

部屋から出ないからキュリロス師匠にも会わなかっただろうし、ジャン兄様やジョン兄様と会うこともなかったはずだ。

他の兄様たちと話すなど、夢のまた夢だっただろう。

そして、おそらくはマヤ派の貴族が俺の後見人になっていた。

「今の俺があるのは、全部マリアのおかげだから。」

人も知識もこの命さえ、マリアのおかげなんだ。


泣きそうに顔をゆがめたマリアが、俺のまだ小さい手を握り締め、額に当てた。

「マリアは、ライモンド様のお世話ができたこと、誇りに思っております。」

「うん。」

「私は、キュリロス様のようにライモンド様をお守りすることはできません。ましてや隣に立つことも、後ろから支えることもできません。いつか大人になられれば、きっとご自身で帰る場所を見つけられるでしょう。そうなれば、そこに私は必要なくなります。」

祈る様に額の前で両手を握っていたマリアがそっと手を離して俺をまっすぐ見つめた。

「ですが、ライモンド様の名誉はわたくしがお守りいたします。あなたが何か道を違えたのならば、この命を懸けてお止めします。無実の罪を着せられるのであれば、誰よりも先に、誰よりも大きく、そして最後まで、声をあげましょう。これはライモンド様の最初の教育係となったわたくしの責務です。たとえ父に咎められようと、私は私の責務を全う致します。」

強い意志の宿ったまっすぐの瞳。


ああ、ほんと。


「最高の女性ですね。」


惚れそうだ!


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