29話
「ねえ、ちょっと!フェデリコ兄さんとオーリーもこのわからずやになんか言ってやってよ!」
「兄上もオルランドもこいつに耳を貸す必要はない。どうせいつもの癇癪だ。」
「はぁッッ!!?なにその言い方、すっごいむかつくんだけど!」
「あ、アンドレアもベルトランドも、落ち着いて………っ。」
「あ、そうだ!アンって流行に敏感だったよね?今度フランに何かプレゼントしようと思うんだけど、何がいいかな?」
「オーリー!今はその話良いから!!」
カオスかな?
もう帰りたくなってきた。
「ねえルドさん。これもう俺帰ってもいいかな?」
「えー。もうちょっといてくださいよ。ライ様がいなくなったら本格的に収拾つかなくなるじゃないですか。」
「俺がいても収拾つかないと思うんですけど。」
「じゃあ言い換えますね。面白くないんで一緒にいましょ?」
「うわ、ルドさんのほんねがひどい。」
結局カオスな兄様たちを見る俺の反応を楽しむ愉快犯なルドさんによってこの茶会から離脱することを阻止された。
ちょっと、いや、かなりげんなりしてそのやり取りを見ている間もフェデリコ兄様からは助けを求めるように視線を投げられる。
知らん。お兄ちゃんなんだから頑張って。俺に振らないで。
そんな俺の視線の意味に気が付いたのか、フェデリコ兄様の顔が悲壮に染まる。
……………っ。そんな見捨てられた犬みたいな目を向けないでほしい。
「もう!兄様たちいい加減にしてください!!喧嘩しに来てるんですか!それともお茶会しに来てるんですか!?」
「えー、おれはフランのプレゼント何が良いか聞きたいんだけど。」
「オルランド兄様は自分で考えなさい!フラン様の好みを一番知っているのはオルランド兄様ですし、フラン様もオルランド兄様が自分で選んだものの方が嬉しいに決まってるでしょう!?」
「えっへー、そうかなー?」
俺の言葉に言い合いをやめ、再び視線でにらみ合うことに留めたアンドレア兄様とベルトランド兄様。
そして口を噤んで今度は必死にフラン様へのプレゼントを考え始めたオルランド兄様。
そして俺に対して憧憬の視線を向けるフェデリコ兄様。
もはやその姿が大型犬に見えてきた。
アンドレア兄様は小型犬だな。ポメラニアンだ。
愛くるしい姿で愛想を振りまき外交をうまく進めるが、プライドも高くベルトランド兄様にはキャンキャン吠える。
ベルトランド兄様は猫。多分メインクーンとかその辺。
一人でその辺ふらふらしながら気ままに生きる。ポメラニアンのことは可愛げがないしうるさいなー、くらいに思ってそうだ。
オルランド兄様はラグドール。ふわふわ人にかまってもらうの好きそうだし、でも猫らしく気ままな性格。
ちなみにルドさんは100%猫。しかもいたずら好きなやつ。
愉快犯だし。
癒しが、ほしい。癒しが欲しいです。
若干目が死にかけた時、フェデリコ兄様の私室の扉をコンコンと控えめにノックする音が聞こえた。
ルドさんから目くばせが送られたフェデリコ兄様が頷くと、ルドさんが朗らかな声をかけた。
「はい。どうぞお入りください。」
「し、しつれいします。」
「失礼いたします。」
聞こえてきた声は、俺もよく知る人物だった。
「おや?ジャンカルロ様にジョバンニ様?珍しいですねー。お二人がフェデリコ様の部屋に来るなんて。どうかなされたんですか?」
「あの、ライがフェデリコ兄上とお茶をしていると聞きまして…………。」
「その、招待状もなく参加することは無礼だとは承知しています。ですが、少し参加しても構わないでしょうか………?」
ちらりとフェデリコ兄様の方を見ると、心なしか嬉しそうに見える。
具体的に言うと、眉間のしわがいつもよりも一本少ない。
しかし、その視線を向けられているジャン兄様とジョン兄様の表情は硬い。
「ジャン兄様、ジョン兄様………っっ!」
すかさず二人のところに走り寄って、ぎゅっとジャン兄様の懐に飛び込んだ。
「うわっ。ライ?どうしたの?」
「ジャン兄様補給です………。あとでジョン兄様も補給します………。」
俺の行動にはじめはきょとんとしていたジャン兄様だが、俺の発言にふっと表情を緩めてぎゅっと抱き返してくれた。
「ふふ!じゃあいっぱいぎゅってしてあげるね。ぎゅーっ!」
「ぎゅーっ!!」
どうだ、これが六歳児の無邪気さだ!
しばらくジャン兄様に引っ付いた後、今度はジョン兄様に抱き着くためにジャン兄様から体を離した。
「……………ほら、次は僕を補給するんだろう?」
ちょっと気恥ずかし気に頬を染めながら、腕を広げてくれるジョン兄様はイケメンだと思う。
これは女性にモテますわー。シェンの弾き手とかそんなの関係なくモテますわ。
ぎゅっとジョン兄様にも引っ付いておく。
しかもジョン兄様のぎゅーは背中ポンポン付きだ。
そうやってSAN値を回復していたら、部屋の中が妙に静かなことに気が付く。
「え、なんですかその顔。」
全員信じられないものを見るような表情をしていた。
「あれ?ライ様が普通に六歳児している…………?」
「………私にはあんな風に甘えないのに………?」
「ジャンカルロも、ジョバンニも、ライとは仲がいいのだな…………。」
「うっわ………。わかってたけど、俺も弟に甘えられたい…………ッッ!もう、ジョバンニもジャンカルロも羨ましい!」
ダンッと再びこぶしを机にたたきつけたアンドレア兄様を、ベルトランド兄様も今度は締め上げることができなかったらしい。
ていうか。いや、
「俺も甘える時は甘えますよ。まだ子供ですし。」
六歳児だぞ。前世の記憶はあるけどこれでも六歳児だからな?
俺が兄弟間の潤滑油の役割する義務なんて本当はないんだからな?
「ベルトランド兄様は魔法のことになるとそれ一辺倒になるでしょう?」
「ぐっ。その、通りだ。」
「アンドレア兄様もオルランド兄様もちゃんとお話ししたのは今日が初めてですし、お二人とも自分のお話になると周りのこと見えてないでしょう。」
「………否定できないのが辛い。」
「えー、そうかなぁ?」
「フェデリコ兄様は…………、なんか、こう………。放っておけないというか、甘える対象と言うよりも、支える対象ですよね。うん。王太子としてはいいと思いますよ。ある意味才能ですし。」
「私は…………、褒められている、のか?叱咤されているのか?」
俺の言葉にフェデリコ兄様はどう反応していいのかわからないようだった。
「ねえ、そのフェデリコの評価、王太子としてどうなの?」
ルドさんも微妙な表情だ。
「いいんじゃないんですか?国なんてみんなでつくるものだし。どれだけ有能でも人を惹きつける才能のない王は無能と同義ですよ。だから最高責任者は必要ですけど、みんなが助けたいって思う王様でいいんじゃないんですか?その面ではフェデリコ兄様は天賦の才ですよね。もちろん俺も、フェデリコ兄様が王様になった暁には手助けしますよ?」
「………………るど、わたしのおとうとがかっこいい。」
「ひゅーー。ライ様すてきー。」
「わー。ルドさん棒読みありがとうございますぅ。ほら、ジャン兄様とジョン兄様もお茶飲むんですからスペース空けてください。俺は二人の間固定でお願いしますね!」




