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19話

美麗な父上と一緒にキャッキャうふふしているうちに母上の部屋についた。

ほんのちょっぴり緊張する。

それは父上も一緒のようで、俺を抱き上げる腕にほんの少し力がこもった。

「………うん。ちゃんと向き合わないとね。」

そう言って父上が母上の部屋の扉をノックする。

「あら?誰かしら。どうぞ?」

その言葉に父上は一つ深呼吸をしてから扉をあけた。

「やあ。マヤ。久しぶりだね。」

「ふぇ!?あ、アブラーモ様!!?」

突然の父上の訪問に、母上は乙女よろしくその頬を染めた。

「な、なんでアブラーモ様がわたくしの部屋にいらっしゃるの!?」

すぐさま座っていた椅子から立ち上がり、ずざぁっっと部屋の端、窓際のカーテンまで下がりそのカーテンで身を隠す母上。

「ど、どうしてアブラーモがここにいますの!?わ、わたくしの許可もなく私室に入るだなんて非常識ですわよ!」

「ご、ごめんよ、マヤ。」

「謝るなら最初から入らないでくださいませ!」

顔を赤くして怒っているように見える母上に、父上はしょぼんとし始めた。

「父上、父上。今のは前もって教えてくれないとおめかしできないって意味ですよ。」

「ライモンド!?」

図星だったのか母上が顔をさらに真っ赤にさせて声を上げた。

「な、なんでわたくしがアブラーモのためにおめかししなくちゃならないのよ!」

「これは恥ずかしがっているだけです。本心じゃありませんよ、父上!押せ!」

「ら、ライモンド!?あなたわたくしとアブラーモどちらの味方なの!?」

「もちろん母上ですよ!いけ、父上!母上を抱きしめるんです!」

「ら、ライモンドぉ!?」

もはやコントだ。

イケイケ、押せ押せ!と声をかける俺。顔を耳まで真っ赤にしてわあわあと慌てる母上。

それに対して、ふふっと父上が笑みを漏らす。

「ふふっ。あははっ!君は僕が知るよりもずっと可愛らしい人だったんだね、マヤ。」

「ふぁぁ!?!?」

俺を片手に抱えたまま父上が母上の方へと歩み寄る。

「ひぃ!?ち、近づかないで!!」

「ライ?」

「恥ずかしいから近づいてほしくない、ですね。遠慮はいりませんよ父上。本気で嫌がっているわけじゃありません。」

「そうか、いいことを聞いた。では遠慮なく。」

そう言うと父上は本当に遠慮なくずかずかと母上に近づいていき、カーテンに包まる母上の手を引いて俺ごとその腕に抱きしめた。

細身に見える割に意外と筋肉があるようだ。

さもなくば、子供とはいえ六歳児をずっと片腕に抱え上げるなんてことできない。

父上の腕に抱きしめられた母上はその身を固くさせて緊張しているようだった。

「すまない。情けないことにライに言われるまで君の本音に気が付けなかった。情けない僕だけど、改めて君とちゃんと話し合いたい。」

その言葉はよほど母上にとっては衝撃的だったのだろうか、父上の腕の中、すぐそばの母上の目が信じられないと言わんばかりに見開かれ、そこからぽろぽろと涙が流れ始めた。

「な、なん、でっ!なんで、いまさらそんなこと言うのよぉ………っ!」

「うん…………。ごめんね。」

「ゆ、ゆるさないわっ!わ、わたくし、ずっと………っ!」

父上の胸に縋りついて涙を流す母上に、父上は優しい笑みを浮かべ、よりいっそう強く母上を抱きしめた。


よくよく考えてみれば、母上と父上は十五歳差だったはずだ。

母上からすれば父上は一回り以上年の離れたおっさんだし、中つ国の国王と言えば、実質この世界の最高権力者だ。

東の国がどんな国かは知らないが、皇帝に父上の元に嫁げと言われたとき母上はどんな気持ちだったのだろうか。

どんなおっさんに手籠めにされるのかと思えば、物腰柔らかな父上が相手だったわけなのだから、その父上に恋をするのもうなずける。

しかも絶対母上は箱入り娘だ。

可愛がられてろくに男に対して免疫のない状態でそれだったのだから、惚れるのは必然と言ってもいいだろう。

一方父上の方は一回り以上離れている新しい妻にどう接していいのかわからなかったのもあるのだろう。

それで父上が距離を測りかねているのを、母上はマイナスに捉え、父上も積極的に関りに行けずこじれにこじれ…………。

うん?面倒くさいな??

きちんと話さなかった弊害がこんなところで生まれるとは。

「父上、父上。父上は母上とちゃんと話すべきです。俺はフェデリコ兄様のところで待っていますから、きちんと話してください。母上も、素直に言葉に出せないのなら、せめて父上の手を握るなりなんなり行動で好意を示してくださいね。」

それだけ言うと父上の腕の中からひょいと逃れ、来るときは父上と通った扉を今度は一人で出る。

扉を閉める前に二人の方を振り返り、一言。



「父上、母上。俺妹が欲しいです。」



「ら、ライモンドぉーっ!!?!?」

「………弟でも構わないかなぁ?」

「アブラーモ!!?」

「弟でも可愛がりますよ!」

ぐっと父上に向けて親指を立てた。


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