155話
「…………嫌な可能性に気付いてしまった」
「本当にな。これは早急に海洋開拓を進める必要性が出てきた」
「でも、何も知らないところを急に刺されるよりはいいのでは?」
「そも、刺されたくないのだが」
「そればかりは別大陸の住人が文化的で理性あることを祈るほかないよね」
「同時に、私たちもいたずらに他者を刺す、などということにならないようにせねばならない」
二人の間に重々しい空気が流れる。
本当に、一体なんてことに気が付いてしまったんだ。
「まぁ、さしあたって航路の開拓と長期航海に耐えうる船の開発。それが実現したとして、長期保存できる食料、医療、航海士の育成。問題は多いから今日明日の議題というわけでもないのがせめてもの救いだよね」
「ああ。だが、それは我々が外界に出る場合だろう」
「それ言い出したらきりなくない?」
「それでも考えるのが私の責務だからな」
「……ほんっと、話せば話すほど俺に王太子とか向いてないんだけど」
髪と瞳の色だけで王の器が計れるわけないじゃんね。
たとえ俺が王太子になったところで、今のヴィルのようにたらればの未来のためにどうすればいいのか考えられるとは思えない。
まぁいっかで流してしまう。と、言うか、今までもきっとそうやって流してきたことがあっただろう。
こういうところが為政者に向いてないんだよなぁ。
「というか、海洋に出られたとして、海獣型の魔物はどうするの?」
「……それこそスクロールの開発が急がれるな」
「一般の魔物はともかく、クラークケンとかリヴァイアサンとかの大型の魔物になると南の人魚でも太刀打ちできないでしょ。そうなると対それ用の兵器の開発? うわー、余計に平和から遠ざかる気しかしない」
「……父を含め五大国の王たちに話をしていただくしかないな。今回の留学で次期女王のフランキスカ様に一度話を通してみよう」
「でも、海の向こうに別の大陸なんて、ふつう信じます?」
そもそも、チェントロの王宮でこういった話を兄様たちにもしてこなかったのは証明する術がないからだったんだけど。
今話をしたばかりだから証明も何もできないのはヴィルも同じこと。
なのに、ヴィルはニッと得意げな笑みを浮かべ。
「嘘か真かなんて関係ない。各国の王にその可能性をわずかでも疑わせた時点で私の勝ちだよ。彼らが五大国を率いる王である限り、この話を調べずにはいられないからね」
「ぜってー王太子とかなりたくねぇなって思います」
もう、本当に。この一言に尽きる。
今まではフェデリコ兄様いるんだから俺が立太子する必要ないどころかいらん火種になるから嫌だ。って思いだったけど、今ではもう俺が立太子するしかない状況でも絶対立太子だけはしたくないっていう心境だ。
消極的否定だったのが積極的否定に変わったわ。
ありがとうな、ヴィル。俺は何があっても王太子なんかにはならないって改めて覚悟を決めたわ。




