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第七王子に生まれたけど、何すりゃいいの?  作者: 籠の中のうさぎ
留学編

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152/155

152話

「昨日、知識を秘匿する理由を問うた後、なら私には何ができるのか考えた」

 唐突にそんな話をし始めた従兄が俺に先ほどまで読んでいた資料を渡してきた。

「私は皇太子だ。次期皇帝だ。愚帝にならないようにと幼い頃からこれでも色々学んできた方だし、その自負がある」

 言外に資料を読めと彼が目で支持をするので軽く目を通すと、それは人間の免疫関連の論文だった。長年問題だった人族と亜人族の血を引く子供の体が弱い理由の考察を受けて二種族の間だけでなく、住む地域によってかかりやすい病気、かかりにくい病気などの理由の考察だ。

 国は精霊のヴェールで区切られているため、国よってかなり環境が変わる。

 冒険者で生まれた国から別の国へと移った場合、元々その国で生まれた者よりもかかりやすい病があったり、逆にかかりにくい病があること。

 その理由が、二種族間の子供がそれぞれの性質を親から引き継いでいるがゆえに見た目ではわからない体内の機能に体調が左右されていたように、見た目ではわからない体内の機構に何か差があるのではないかと仮定するものだ。

 ざっと読んだだけだから詳しくは違うかもしれないがいわゆる免疫に関する話だ。

この手の論文はまだこの世界で呼んだことがなかったためなかなか興味深く、そのまま読み進めたかったが、流石に従兄の話を放っておいて読むのはだめだと無理やり目線を論文からあげて従兄を見る。

 と、どうやら相手はずっと俺の様子を観察していたようでバチリと目が合った。

「それを読んでどう思った」

「え、ああ。まだざっとしか読んでないけど、面白いよ。免疫機能の遺伝って俺も興味あるし」

 と、素直にそう返すと、従兄は眉間の皺を深くして重々しく口を開いた。

「……私はその論文の半分も理解できなかった」

「え、……ん。ま、まあ。専門的な話だし別にいいんじゃない?」

 なんと返していいのかわからず適当にそう返した俺に、従兄は再び息を長く吐く。

「そう………、専門的な話、だ。本来であれば学者か本業の医者くらいしか理解できない程度のな。体内の、それも目に見えない機能についての話は解明どころかまだ研究自体進んでいない。それなのに、それを当たり前のように理解しているお前は、いったいどこからその知識を得たのか……非常に興味がある」

 従兄の言葉に自分の動きが不自然に止まるのが自分でもわかった。 

 どこからなんて。俺が『俺』から得た知識を証明する術もない。 

 かと言って、この世界の誰に聞いたのだと嘯くことすらできないほどに俺はこの世界での医療の常識を知らない。

 もっとも、従兄はもともと俺の返事を期待していなかったのか俺の態度に突っ込むことなく話を続ける。

「もっと話が破綻していたなら、その資料を見て理解できていない程度なら、その知識を嘘だと切り捨てられたんだけどね。 そうじゃないなら、私がすべきは君の知識を証明することと見た」

 力強い赤い瞳が俺を見る。

「ライモンド。私は今後君の知識の出どころを問わないし、その真偽も疑わない。その代わり、私にその知識を教えてほしい。私がそれを有用だと思えばしかるべき場所のしかるべき者の手によって、証明してみせる。結果それがどうであれ、私がその責を君に求めることはない。今すぐにとはいかないが、私の手を握ってくれた君を決して特別にはしない。先の世で、君を必ず凡人にしてみせる。特別を理由に孤独にはしないと誓おう。いかなる状況であっても、等身大の君を見ると約束する」

 俺にとって、『俺』の記憶は祝福であると同時にどうしようもない重荷でもあった。

 生まれたその瞬間から『俺』のせいで子供になれず、かといって俺の感情はどうしようもなく子供のまんまで。でも何も持たない俺にとって『俺』の記憶は唯一身を守る術で。

 兄様たちを助けるためには『俺』の記憶に頼らざるを得ないから、一生俺から切り離せない。

 でも『俺』の記憶がある俺は実質人生二週目みたいなものだから、周りより優れていて当然だと大人だった『俺』の自尊心が叫ぶ。

 だから、いつまでたっても『俺』は俺の努力を認められない。

『俺』が俺を認めてないから、俺が自分に自信を持つことができなかった。

 でも周りは俺の中に『俺』の記憶があるなんて知らないから、『俺』を含めた俺を評価する。いつまで経っても、等身大の俺を認めるなんてできやしない。

 でも、それは物心ついたころからずっと俺が何よりも望んできたものだ。

「……俺は、代わりにあんたに何もしてやれないけど」

「必要ない。もうもらった」

「は?」

「君が先に私の手を握ってくれた」

「……塩湖での話しなら、アンタが俺にそうしろって脅してきたからじゃん」

「それでも、今まで私がどれだけ望もうと、ただ一人の友人のように扱ってくれたのは君が初めてだった」

 眉尻を下げて笑うヴィルの表情は今まで見た度の表情よりもずっと柔らかい。

「……たまたま、俺はあんたにそれをしても許される血筋と地位を持ってたからそう振る舞っただけで、別にあんたのためにやったわけじゃなかった」

「うん。だから、私もたまたま君の望むとおりに振る舞えるからそうするだけで、君のためじゃない」



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