151話
「……半端に頭がいいのも考えものだな。それならどうして今そうしない。キュリロス・ニアルコスの武力。グリマルディ公爵、バルツァー公爵、カッシネッリ公爵の後ろ盾。オストとチェントロの王族の色。そんな代物を持っている七番目がどうして王位を狙っていないと信じられる? 権力から遠ざかるのであれば徹底的にそうすればいい。半端な真似をするから不和を招く」
「仮に俺が権力から遠ざかったとして、一度甘い夢を見た貴族が諦めると思うか? どうせ何かと理由を付けて俺の名を騙るならまだいい。最悪はチェントロの緑の目を持つジャン兄様が担がれることだ。俺はいい。生まれた時からそういう扱いだったからもうそういうもんだって思ってるし、仮に担がれたとしても逃げれるように備えてる。でもジャン兄様はそうじゃない。俺が理想の旗印である限り貪欲なやつらからジャンに様を守れるんだからそうするに決まってるだろ」
俺が言葉を口にするにつれ従兄の眉間の皺がどんどん深くなり、最終的に頭が痛いと言わんばかりに眉間を揉んだ。
俺だって、俺が逃げるだけで問題が解決するんだったらさっさと逃げてる。
でも問題はそう簡単なことじゃない。
一度付いた火はそう簡単には消えないものだ。一度派閥ができて種火が生まれてしまったら、それは俺が結婚した後、もしかしたら俺の子供や孫の世代までくすぶり続ける。
だから権力争いって言うのは面倒なんだ。
一度生まれた争いの火種は、その原因になった俺がよそに燃え移らないように監視し続けるしかない。
俺がそれを放って逃げ出してしまえば、今度はどんな燃え上がり方をするか予想ができないから。
後ろ盾に三公爵がいる今の状況はある意味今の状況下ではベストなのだ。
俺自身の後ろ盾に俺の派閥のカッシネッリ。そして俺の婿入り先にフェデリコ兄様派のバルツァー。その二家が勝手をしないように見張る中立派のグリマルディ。
そして残されたベルニーニとロヴェーレの二家が外からその三家を監視してくれる。
レアンドラ嬢との婚約を受け入れたのだって、この三すくみが都合よかったからだ。
そうじゃなければ、俺は無駄に権力を持たないように公爵家や侯爵家ではなく伯爵家から嫁を貰うか独身を貫くことになっていただろう。
「…………なぜ、子供の君が子供のジャンカルロ殿を守らねばならないんだ」
そんなことをつらつらと考えていたら、従兄がふーっと長く息を吐いてそんなことを言うのでこちらも顔を顰めて逆に問う。
「……それは、こんな状況を招いた迂闊な母上が本来俺の最も力のある後ろ盾にならなきゃいけないのに、ってところから説明した方がいいってこと?」
そう。俺の母上はオスト皇帝の妹。母上が死んだわけでも病弱なわけでもないのだから、本来俺に三公爵の後ろ盾なんて必要ないのだ。
母上が迂闊でさえなければの話だが。
本当だったら母上がその後ろ盾になって俺に降りかかる火の粉を振り払わなければならないのに、よりにもよってその母上が嬉々として火打石で不和の狼煙を上げたからこんな面倒なことになっているんだよ……ッ!
従兄は母上と違ってちゃんと考えられる人なので、俺の言葉にいろいろ察して再び頭が痛そうに眉間を揉んだ。
「………我がオストの、皇族が、すまない」
「いや……。まぁ、俺の母上がごめんね」
そう。そもそもすべての原因は母上なのだ。
お互いそれ以上相手を責めることもできずにそれだけ言って二人して黙り込んだ。
「……で、結局従兄殿は俺と今後どうすんの」
そう、そもそもこの馬車に相乗りしたのもそれを聞きたいがためだった。
俺と付き合うことでオストにまでこれ以上不和を広げるのも忍びない。
もしも、ヴィルがそう望むのであれば俺はヴィルと二度と笑い合えなくてもしょうがないと諦めるよ。
だって、俺はヴィルのことが嫌いじゃないから。迷惑をかけたくはない。




