適性
目を開けるとそこは、知らない天井だった。
いや、まあ、知らない天井。夢じゃなかったのか・・・。
実を言えば昨日の出来事だって、半分夢だろうと現実逃避をしていたからこそ受け入れることが出来たのだ。改めてここが現実だということを確認させられ、起きて早々にため息が出るのも仕方のないことだと思う。
あー、ダルい。起きたくねぇ。・・・いや、これワンチャン夢なんじゃないか?ここまでが夢で、もう一度寝て起きたら全て元通り、みたいな。うん、きっとここまで夢なんだ。全て元通りなんだ。
そうと決まれば早速行動だ。まぁ、行動と言っても目を瞑って二度寝するだけなんだけどな。
自分で寝やすい体制に戻り、布団をかけ直して目を瞑る。あー、寝れる寝れる。背中痛いけど割と寝れるわ。
それから少しして、もうちょっとで完全に寝れる、というところで
「何でまた寝とるんじゃ!」
怒鳴り声と共に腹に、起きるには充分な衝撃を受けた。
「ぐぶっ」
思わぬ衝撃に、一気に覚醒した俺は慌てて起き上がる。すると、目の前にはこちらを軽く睨み付けるジローさんの姿が。
「起きたらお主の魔法適性を見てやると言ったじゃろう!何故また寝るのじゃ!」
ああ、思いっきり忘れていた。てか何かジローさん昨日の夜と比べて元気になってないか?いや、それより謝る方が先か。
「すいません、未だにこの世界が夢なんじゃないかと思って。まだ自分で受け入れられてない部分が多くあったもので・・・」
「あぁ、なるほど。確かにそうじゃったな。儂の方こそすまんかった」
「いえ、お気になさらないで下さい」
単純に俺が忘れていただけなのだが、ここは「僕は被害者なんです、可哀想なんですアピール」をすることでジローさんの怒りを回避する。しかし、代わりに微妙な空気が流れることになった。仕方ないのでここは俺から話を振ることにする。
「えっと、ジローさん、そもそも魔法適性とは一体何なのですか?」
「ん?お主にはまだ説明していなかったかのう。うーむ、では昨日話した、この世界の魔法については覚えておるな?」
「はい、覚えています」
確か魔法とは、初級、中級、上級、最上級の4等級に分けられており、それぞれ火、水、土、風、光、雷、氷、の7つの属性に分けられていると聞いている。それと魔法自体は習得さえしてしまえれば誰でも扱えるらしい。
「ふむ、なら話して大丈夫かのう。魔法適性とはその名前の通り魔法の適性を調べる光属性魔法じゃ。人間には生まれつき魔法の得意不得意、つまり「才能」の有無があるからのう、それを調べるんじゃ。例えば「才能」がある属性魔法だった場合、習得に一年かかるものが僅か一ヶ月で習得できたり、通常よりも威力が高くなったりと、知っていて損はないじゃろう。いや損どころか、その「才能」の有無で習得出来る等級が全く変わってくる。適性でその人間の人生が決まると言っても過言ではないからのう。」
「なるほど、あれ?今更ですが私はそもそも魔法が使えるのでしょうか?」
「む?儂が使えるのじゃからお主も使えるじゃろう、多分。まぁ、そのことも含めて魔法適性を使って調べてやるからそこに立っておれ。」
多分って。でもせっかく俺の為にわざわざ調べてくれるのだ。ここは言われた通りにした方がいいだろう。俺は掛け布団を簡単に畳むと、言われた通りに立ってきをつけの姿勢で静かに待つ。
「うむ。では始めようかのう。今から儂の手から光の粒子的なものが出るんじゃが、全くの無害じゃから安心してくれ。その粒子の変わった色でお主の「才能」のある魔法がわかるからのう」
そう言いながらジローさんが俺に向けて手を突き出す。すると、言った通りにジローさんの手の先から大量の光の粒子が現れた。そして、それが俺を包み込むように、俺の周りをグルグルと静かに回り出す。
「どうじゃ?キレイじゃろう?実はな、攻撃魔法を除けば儂はこの魔法が一番好きなんじゃ。しかも儂なりにアレンジを加えて最終的には龍の形になるからのう、凄いじゃろう?」
おおお、確かに凄いキレイ。うん、凄いキレイだけど、ちょっとコレ眩しいな。いや、かなり眩しいな。ちょ、俺の目の前をグルグルしないでって眩しい眩しい眩しい。
どんどんと勢いを増して光り輝く光の粒子に、俺はおもわず目を瞑る。・・・え?目を瞑ってもまだ眩しい。
「おおお、凄くカッコいい龍の形ですね」
余りにも眩く、目を瞑り更にその上から手で顔を覆い隠しているため全く見えないのだがジローさんの一番好きな魔法らしいので適当ながらもしっかりと相槌をうつ。この光量なのだ、恐らく見てなくてもバレないだろう。
そんなことを思っていると、ジローさんがいきなり大声を上げた。
「なにっ!?」
一瞬、もう嘘がバレたのかと焦ったのだが、バレたのだとするとジローさんの「なにっ!?」というは反応はおかしい。
「何かありましたか?」
目を瞑っているせいで何も見えないので、ジローさんに問い掛けてみる。
「・・・」
しかし、返答がない。
え?何、マジでどうしたの?
流石に不安に思った俺は、思わず瞑っていた目を開く。目を開いた瞬間に、何故俺が目を瞑っていたのかを思い出し咄嗟に身構える。
マズい!このままだと目がやられる!
しかし、そんな俺の心配とは裏腹に目を開けた先に光はなかった。それどころか先程とは打って変わって、今度は完全なる闇。何も見えない。
いやいやいや意味が分からない。・・・もしかして目やられた?失明した?嫌だよ?てかジローさんは?何でさっきから反応ないの?
「ジ、ジローさん?どうしたんです?俺何も見えないんですが・・・」
不安になりながらも、もう一度ジローさんに問い掛けてみる。すると
「ハッハッハッハッハッハッハッハッ!」
いきなり大声でジローさんが笑い出した。
え?今度は何?何で急に笑い出した?狂った?狂ったのか・・・
状況についていけず、ただあたふたしていると、不意に視界が開かれた。視界の先には先程と同じように俺に手を突き出し、何故かニコニコで上機嫌なジローさんの姿が。
「・・・何が起こったんですか?」
頭に浮かんだ疑問をそのまま言葉にしてみる。
「ハッハッハ!まさかお主、闇属性魔法の才能があったとはのう。しかも魔力量も儂より上とは!魔術師の一人としてはかなり興味深い話じゃ」
俺の質問とは全く関係ない答えが返ってきた。この混乱している状況に闇属性とか、そんな新たなワードぶっ込まれても俺にとってはただ困るだけなんだけど・・・。
なのでもう一度ジローさんに同じ質問を繰り返してみる。
「・・・何が起こったんですか?その闇属性魔法?についても詳しい説明をお願いします」
「ん?ああ、すまぬすまぬ。儂としたことが、年甲斐もなく少し興奮してしまったようじゃ。そうじゃのう、ますは何が起こったのか、について説明をしようかのう」
そう言って、ジローさんは床にドカリと座り込むと、俺に向かって手首を上から下に降ろすジェスチャーをしてきた。一瞬、この爺さんは何をしているのだろうか、なんて失礼なことを考えてしまったが要は俺に座れ、といっているのだろう。
そう言って、ジローさんが軽く頭を下げた。
なるほど、つまり俺が凄すぎたのがダメだったってことなんだよな?確かに危うくもう少しで目が潰れるところだったが、俺が凄すぎたのが原因ならば仕方が無い。ここは快く謝罪を受け入れよう。
「頭を上げてください。別に何かケガをしたという訳でもないのですから、ジローさんが頭を下げる必要はありませんよ。それよりも、私が魔法適性を受けている最中に、視界が真っ暗になったのですがアレは一体何が起こ」
「そうなのじゃ!よくぞ聞いてくれた!実は・・・」
俺が言い終えるよりも早く、ジローさんが顔を上げ興奮した様子で勢いよく喋り出した。
この爺さん・・・
色々と言いたいことはあるが、恐らく俺がここで口を挟むと話が進まなくなるので、そのまま黙って聞くことにする。
「はぁ、なるほどぉ」
強くなれるぞ?って。そんなことを言われたところで、そもそも闇属性魔法が何なのかすら判らない俺にとっては、なるほどぉ、という曖昧な返事を返すことしか出来ない。
「・・・魔法についての説明が先だったかのう」
そんな俺の心情を感じ取ったのか、ジローさんがため息混じりにそんなことを言ってきた。
「そうですね。では次はその魔法について詳しくお願いします」
まぁ、別に時間は沢山あるのだが、こんな世界だしいつ何があるか分からないのだ。聞ける時に聞いておいて損はないだろう。
・・・気がついたら異世界にいた、なんてこともあるかもしれないし。
俺はそんなことを思いながらも、魔法について詳しく知る為に、ジローさんに向き直り再び聞き入る体勢となった。