お爺ちゃん
いきなりのことで俺が固まっていると、俺の沈黙をどう受け取ったのか、白髪のご老人が淡々とした口調で更に話を続ける。
「まず、ここでは珍しい黒髪に、何より日本語をしっかりと話している時点でこの世界の人間ではないことぐらい誰だってわかるじゃろ?」
いや、いきなり分かるじゃろ言われたって分からんじゃろ・・・。てかどういうことなんだ?整理する情報量が多すぎて意味が分からない。このご老人も俺と同じ日本人なのか?とりあえずこれ以上の沈黙はマズい。何か話さないと。
「はいえっと、とりあえず自己紹介をさせて頂きます。今日からここに入ることになった加藤博と申します。宜しくお願い致します。」
「ふむ、儂の名前は増田次郎じゃ。まぁこっちの世界ではジローと呼ばれておる。親しみを込めてジローさんと呼んでくれ。」
前の話からけっこう強引に自己紹介に持ってきてしまったことを、話終わった後で少し心配していたのだが、ジローさんはそんなことを気にする様子もなく話を返してくれる。
そしてだ、今ジローさんが「こっちの世界では」と言っていたのを俺は聞き逃さなかった。
「分かりました。ではジローさんと呼ばせて頂きます。私のことは好きなように呼んでいただいて構いません。えっと、改めてこれから宜しくお願い致します。」
そう言って、俺は頭を下げた。
よし、自己紹介はこれぐらいでいいだろう。ジローさんもどうやら良い人そうなので、俺は頭をあげると早速俺の疑問をジローさんにぶつけてみた。
「さて、いきなりですがジローさんに質問をさせて頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」
「うむ、いいじゃろう。まぁお主が儂に何を聞きたいかは薄々予想できるがの。」
ジローさんがその長く伸ばされた白い髭を触りながらも、しっかりと体を起こし聞く体制となってくれる。
「では早速。ジローさん、あなたは日本人なんですよね?だとしたらここは一体どこか分かりますか?それと私は今記憶を失っているのですが、記憶を思い出す方法等は知っていないでしょか?そしてここに入るまでに幾度も聞いた魔法とは?魔王とは?あなたの知っていることをすべて教えてください。」
“魔法”という言葉が存在する、俺の知らない世界で出会えた唯一の同国人ということもあって思わず口早に質問を繰り返してしまう。
「一度にそんなに聞かれても分からん。お主の気持ちは分かるが、少し落ち着け。ほれ、深呼吸じゃ。」
すー、はー、すー、はー、。言われた通りに深呼吸をする。すると、自分の中の高ぶった気持ちが徐々に落ち着いていくのを感じた。どうやら自分の思っていた以上に興奮をしていたようだった。
「落ち着いたか?」
「はい、取り乱してすいません。」
俺は謝りながら、もう一度静かに深呼吸をする。すー、はー、。よし、これでもう完璧に落ち着いた。とりあえず物事を冷静に考えられるようにならないと、この意味不明な状況についていくことすらできなくなるだろう。
「気にしなくてもよい。お主が今どういう状況なのか詳しくは知らんが、これから儂の話すことも全て本当のことじゃ。感情的にならず、落ち着いて話を聞くのじゃ。さて、まずはお主が言った、ここがどこなのかという質問から答えていこうかの。」
俺が疑問に思ったことをジローさんが答える、という形で数時間もの間俺とジローさんによる問答が続いた。
そして、その数時間で得た情報を自分なりに話をまとめると、まずこの世界は地球ではなく、ラノベなんかで見る魔法があったり、魔物が存在する世界、つまり異世界だとのこと。
この世界は周りが海で囲まれた一つの大きな大陸で成り立っており、前の世界では考えられない種族が大陸の場所ごとにそれぞれに分かれて住んでいる。
その大陸の北に純粋な血の人間が、東には獣人と呼ばれる動物の体の一部を受け継いだ人間が、西には亜人と呼ばれる魔物と人が合わさったような外見を持つ知的生命体がそれぞれ住んでおり、南には沢山の魔物の住処とされている、ただただ広大な森が広がっている。
んでもって今俺はその大陸の最北端に位置する国、イーデス国の監獄に収容されているのだと。まるで意味が分からないな。
ああ、それとジローさんはやはり元日本人なのだそうだ。今から数十年前に勇者召喚?をされてこの世界に召喚されて、それからずっとこの世界で生きてきたと言っていた。
そのジローさんが何故牢屋に収容されたかというと、どうやらこの世界に魔王というモノは複数いるらしく、その内の一人の魔王と協力して他の魔王を倒した際に、人類を裏切ったという判断をされたからだそうだ。そもそも魔王という存在がいる時点で驚きなのだが、この世界では何を言っても無駄だろう。しかもその魔王という存在についてジローさんに詳しく聞こうと思ったのだが、何故かは知らないが話をしきりに逸らしていたので俺もそれ以上詳しくは聞けなかった。
他にもこの世界に関する様々な事を話してもらったのだが、説明するのは必要になった時にでいいだろう。情報量が多すぎてもう疲れた。
ちなみにジローさんは「よし!明日はお主の魔法適性を調べてやろう!」という言葉を最後に今はもう熟睡している。
俺もそろそろ眠ろう・・・。この世界に来てから精神的にも身体的にも凄い疲れた。
そう思って、俺は牢屋の奥に置かれている布団の中に入ると、どうやら俺が思っていた以上に疲れていたらしく、すぐに眠気は襲って来た。
あぁ、マジでどうしてこうなったんだろうか。元の世界に帰りたい・・・。心の中で弱音を吐きながらも、俺はソッと目を閉じた。