百万ドルの夜景の中で
右足を棒か何かでつつかれたような気がして、俺は目が覚めた。
どうやら俺は、仰向けの状態で倒れているらしく、目を開けるとそこには綺麗な夜空が広がっていた。
なんてキレイなんだろうか。こんな光景、日本ではまず見られないだろう。遠くに目を移すと、これまた綺麗な満月が。
ああ、人生で一度でいいから女性に「月が綺麗ですね・・・」って言いたかった。
だが、そんな後悔もこの夜景の前では本当にちっぽけなものに思えてくる。ああ、本当にキレイだなぁ・・・。
そんな風に思いに耽っていると、再び足がつつかれた。
なんだよ?
綺麗な光景を邪魔された気がして、少し切れ気味に、首を上げ目線を下に落とすと、10才くらいの子供が興味深そうな顔をして俺の足を木の棒でつついていた。
そして俺が動いたことに驚いたのか顔をハッとさせた後、後ろの人混みに逃げるように混じっていった。
え?人混み?
俺が困惑を覚えたのと同時に、ガヤガヤとした何人もの人による、ささやき声が俺の耳に入ってきた。
はっ?!
そこで俺は飛び上がるように立ち、辺りを見渡すと俺を囲むようにして人の集団ができていた。
え?いや?どういうこと?ああ、なる程。俺いつの間に人気ものになったんだな。
混乱の果てにいつの間にか人気ものになった、という結論を出した俺は、取りあえず握手をしようと人混みの最前列にいる女性に一歩近づく。
すると、女性だけでなく集団そのものも一歩後退する。
あれ?
今度は二歩俺が近づくと、それに反比例するかのように、集団は四歩後退する。
ふむふむ。
頭のいい俺は、ここで初めてこの集団から警戒されていることに気がつく。警戒されている、ということを念頭に置いた上で改めて周りを見渡す。
そこには、人気ものを見るような尊敬や憧れの眼差しは一切なかった。代わりに、ゴミを見るような軽蔑の眼差しがそこには並んでいた。中には顔を手で覆い隠す者や、俺の局部を指差して悲鳴をあげている者までいる。
本当になんなんだよ。そんな反応されたら、まるで俺が公衆の面前なのにもかかわらず平気な顔をして裸で突っ立っているみたいじゃないか。
まあ、そんなことはどうでもいい。それよりさっきから何か肌寒いんだよなぁ。何でだろうなぁ。
現実逃避をしたい気持ちをなんとか抑えながら、自分の体を恐る恐る見やる。そこには、一紙まとわぬ生まれたままの俺の体が・・・。
「キャーッ!」
どうしたらいいか分からなくなった俺は、取りあえず悲鳴を上げた。