我儘
嫌なことがあった夜は、先をわっかにしたロープの前で立ち尽くす
まるで三文芝居の筋書きみたいに、毎回毎回怖くなって泣いて泣いて、諦めるんだ
涙が出るのは怖いからじゃない
悔しくて情けなくて、どうにもならないから
こんな肥溜めみたいな人生にも、明日こそは、明日こそは、なんて
ありもしない希望の蜃気楼を掴む自分が馬鹿みたいだ
たとえば、目が見えなければよかった
たとえば、耳が聞こえなければよかった
たとえば、味も匂いもわからなければよかった
たとえば、全身の神経が無ければよかった
中途半端に美しい光があるなんて知らなければ、
心をくすぐる旋律があるなんて気づかなければ、
体が跳ねるほど美味しいものがあるなんてわからなければ、
大切なひとの体温が温かいなんて感じなければ、
死ぬのがこんなに怖いなんて思わずにすんだのに
世の中のお偉いさんたちは
難しい政治や数式はわかるのに
届かない希望なんて、ただの苦痛でしかないのだと
そんなに簡単なことが、どうしてわからない?