終わりくる戦争
ついに終わる戦争の中死神と呼ばれた少年は安らぎを手に入れる。
大国と帝国が戦争を始めて早3年。ついに王国は戦争の終結を狙う作戦を考え始めていた。その名も『終わり来る戦争』。大量の魔術師わ囮として帝国首都前で戦闘を開始させている間に選抜された魔術師50名を帝国内に侵入、帝国を降伏させる作戦だ。この作戦には全魔術師が参戦する事になっており総勢で500万以上の王国国民が参加する形になった。その中にそのころ『死神』と戦場で恐れられていたソルスも参加する事になっていた。そのころのソルスはもう新兵ではなく、部隊を持つ上官にまで成長していた。しかし、ソルスの持つ部隊はこうも呼ばれていた。『死神部隊』と…。
『終わり来る戦争』開始まで後1日
最後の兵士が戦場となる丘前に到着したころ、ソルスの班には新しい兵士が移動してきた。
「おい、お前。俺たちの配属先知ってるか?」
「知ってる…。死神部隊だろ。俺ら何日生き残れるかな?」
死神部隊。ソルスの率いる部隊で精鋭魔術師のみが集まるエリート集団。しかし、一度戦場にでたら生還率は脅威の3割を切るらしいとも言われた最終処分場。ある者の見た話だと仲間の死体の山の上でソルスが戦っていたとも言われている。
「お前たちが俺の部隊の新兵か」
「「ソルス隊長!!」」
「着いてこい。最終作戦会議を始める」
そうぶっきらぼうに言い放つとそのまま幹部軍専用のテントに入っていった。続いて新兵達が中に入る。
「遅いぞ!ソルス君。もう君抜きで始めるところだったよ」
「すいません、アトランタ中佐。新兵が見つからなかったもので」
「いいよ別に。じゃあ9賢者も揃ったことだし会議、始めようか」
9賢者。それは戦場で異常なほどの魔力を体内に貯蔵しており一人で魔術師3000人ほどの力を持つと言われている。9人の魔術師はそれぞれ得意な魔法が決まっておりソルスは土、アトランタは時を操ることが出来る。ちなみにその他に雷、炎、水、植物、風、金属、召喚となっている。しかし、水の魔術師は死んだメルル以上の魔術師が発見されてないため実際は8賢者となっている。
「じゃあ最終確認だ。俺たちは明日の朝5時25分から行なわれる『終わり来る戦争』開始時に大型魔術の音に紛れて帝国の壁を破壊。9賢者以外の兵士が市民地区、兵士地区でなるべく引き付けている間に9賢者は帝都内の城で帝王、女王を殺害。そのまま屋根の旗を燃やし我が王国の旗を立てて降伏勧告を流して終わりだ」
「いや、我らが国王は何考えてるのだろうな。8人で城占拠とか頭腐ってんじゃね」
「おいやめろジェノ。一生燃やしてやろうか」
ジェノと言われた男は金属を操る魔術師。燃やしてやるとか言っている女はエリザベス。
「姉さん。ケンカするならすべて終わってからにしてよ」
この男はソコロフ。雷を操り戦うエリザベスの弟。ちなみに二人はセットで『業火の嵐』という二つ名で呼ばれている。ジェノの二つ名は『灰燼の金属』。アトランタは『終わらない悪夢』とついている。
「そうだよ~。ケンカはダメだよ~」
「そうだな。口動かしている暇あるなら明日の準備でもしてろ」
ケンカを止め始めた女2人は片方が植物を操るアリス。二つ名は『惨劇の踊り』。もう片方はロータス。風を操る女。二つ名は『毒の旋風』。
「そうだな。さっさと準備の時間に当てるか。それでいいか、ハイラム?」
「…………おう。いいぞ」
最後にしゃべったのがハイラム。別世界軸から魔物や悪魔、神を召喚する。二つ名は『悪魔の獣神』。これが9賢者と呼ばれた英雄たちだ。ソルスの二つ名は死神とか言われているが実際は『死の拷問者』。死んでいったメルルは『後悔の涙』となっている。
「じゃあお前ら新兵に最初で最後の任務を伝える」
いままで空気扱いされていた新兵にソルスが声を掛ける。ぼーっとしていた新兵がシャキッと姿勢を正す。
「…生きて帰ってこい。そして愛する物、家族に生きた状態で家に帰るんだ。いいな」
「「「はっ!!」」」
「よろしい。では解散!」
慌ただしく兵士がテントから走っていく。9賢者のメンバーも自分に当てられたテントに向かっていく。ソルスも自分のテントに向かう。剣に砥石を当てて削る。腰に帝国兵から鹵獲し9賢者のみに支給された拳銃を分解し簡易整備をする。弾に魔法陣をナイフで描き、血がこびり付いたナイフを拭く。そんなことをしているとソルスのテントにある女がやってきた。
「…久しぶりね、ソルス。2年ぶりだっけ?」
「ゾイ。久しぶりだな。お前も徴兵されたのか」
昔街で一番仲が良くよくメルルとゾイ、ソルスで遊んでいた腐れ縁の友人だった。ゾイの首元にはメルルが徴兵された時に譲り受けたペンダントが光っている。
「そうなのよ。メルルの子と聞いたよ。残念だったね」
「…そうか。お前は前線か?」
「そうよ。久しぶりにあたしの腕がなるわ!!」
「…そういやお前戦闘狂だったな」
ゾイは手に持っている魔導書をブンブン振り回しながら叫ぶ。
「まぁ死ぬなよ。お前の家確か魔法具店だったろう」
「まぁね。二人で生き残ったらゾイ魔法具店をご利用ください」
とゾイは鼻歌を歌いながらテントから去っていった。
その日の夜。全魔術師が丘の上で最後の晩餐を楽しみ酒を飲み交わしている。それをソルスは偵察用の物見やぐらから酒を飲みながらそれを眺めている。下の方ではジェノとエリザベスが酔っぱらってほかの兵士に絡み酒をしている。それをほほえましく眺めながらソルスは酒を飲む。
「あー、ここにいたのか。ソルス君」
「…アトランタ中佐。どうしたんですか?」
「いやね。謝りに来てね?」
「?」
「メルルちゃんの事だよ。私がもっとしっかりとした命令が出来ればこんなことにはならなかったからね。好きだったんだろう、あの子が」
「…どうなんでしょうね。俺も2年間戦ってきて考えたんですけどね。やっぱりおれはメルルのことは好きじゃなかったんだと思いますよ。」
「…そうかい。じゃあ私はあの宴会じみたあの場所に行くとするよ。それじゃあね」
とアトランタはやぐらから降りていった。そのままソルスは闇に紛れながら一人で酒を飲み干した。
『終わり来る戦争』当日
全魔術師が丘前に集合し魔術の準備が終わり大型魔術が帝国の城壁に当てられる頃は日が昇り始めていた。
「王国兵だ!!撃て!」
「帝国兵を地獄に送ってやれ!!」
両者の兵士が魔術や弾丸が飛び交い始め、丘のしたでバタバタ帝国兵が息を引き取っていく。その間に精鋭魔術師50人が城内に侵入していた。
「全魔術師散開!敵をかく乱してやれ‼行くぞお前ら!」
「「「了解!!」」」
9賢者以外の魔術師が市街地に進んでいく。9賢者はそのまま城内の奥深くに走る。
「アリス、緊急用にツタを入り口に張って侵入を防げ!ハイラム、魔獣を呼びだせ」
「「了解した」」
「【草木よ木々よ 我に力を】」
「【神よ悪魔よ 我に力を】」
入り口にツタが敷かれ出れなくなり、ホール中央に3メートルくらいの魔獣が呼び出される。
「進め!帝王は5階だぞ!!」
大量の兵士を魔獣や雷、炎が襲う。その中を剣を抜いたソルスが走り抜ける。
「死神よ!我に力を!」
素早く走りながら剣を帝国兵に突き刺す。近くではジェノが大量の槍や剣を体の周囲に浮かせながら援護をしてくる。
「ロータス!飛ぶぞ!風を頼む」
「まかせな。【風よ嵐よ 我らに加護を】」
9賢者の周囲に風が巻き起こり体が浮く。そのまま5階まで飛ばされる。着地しながら拳銃を抜き帝国兵に向かって引き金を引く。
「何をしている!!相手は8人だぞ!!」
帝王が何かを叫んでいる。その間にも帝国兵を切り、燃やし、貫く。
「あと少しだ!帝王を逃がすな!」
「やめろ!!やめてくれ…。お願いだ」
とうとう命乞いを始めた帝王に向かい一歩一歩剣を向けながら進むソルス。しかし、その歩みは一つの銃声に阻まれてしまう
「ゴフッ…」
思わず吐血するソルス。視線の先には銃を構えた女王がみえた。その顔は皮肉に死んでいったメルルの顔に似ていた。
「ソルス!!大丈夫か」
アトランタが慌てて駆け寄ってくる。その間にエリザベスとジェノが帝王と女王を拳銃で撃つ。
「しっかりしろ!君はこんなところで死んでいいような人間じゃない!!」
「…アトランタ中佐。先に逝きます。後は頼みますね」
「ソルス!!目を開けろソルス!!」
旗を揚げ終えた9賢者たちもソルスの周りに集まり立ち尽くす。
「…アリス。降伏勧告を流して。ついでに司令部にソルス戦死の報告も」
「…了解」
西暦840年。3年にもわたった戦争は幕を閉じた。両国の戦死者は100万人を超えたと言う。そしてその中にはメルルやソルスが含まれている。
『終わり来る戦争』終了後、ソルスのテントにはソルスの死体と9賢者、そしてゾイが集まっていた。
「…こんなことになるなんて」
ゾイが涙を流しながらソルスの冷たくなった手を取る。9賢者の方は冥福を祈るかのように自らの武器を胸元に掲げる。すると
『…ソルス』
とソルスの体から一人の半透明の老人が現れた。
「何者だ!!」
素早く武器を構える9賢者。
『私はメアリ。メルルが作った最後の魔術』
全員に緊張が走る。
『さぁおきて。私の愛した人』
「何を…」
するとソルスの目がうっすらと開く。
「ソルス!!」
「…生き返ったのか。俺」
するとソルスの手の甲に水滴の紋章が刻まれていた。
「ソルス!!」
ゾイが胸に飛び込んでいく。それをソルスをしっかりと支える。
「ゾイ。俺はお前のことが好きだ。その為に帰ってきた」
「…ホントに?」
「ここで噓ついてどうすんだよ。返事は?」
ゾイは涙を流しながら答える。
「はい。私も愛しているよ。ソルス」
その日戦争は終わり一つの恋人ができた。戦争と言う大きなものの中で少年と少女は一つの喜びを手に取ったのだった。
どうも渚小町です。やっとこっちも新作が出来ました。
毎度のことながら次回は未定です。