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 高い音。

 低い音。


 鈍い音。

 軽い音。


 大きい音。

 小さい音。


 音。

 音。

 音の海。


 無数の音が重なって、滔々と流れ。

 それはまるで、一つの音楽を奏でているようだ。



「──どうも君は、フォーマットが書き換えられてしまっているようだね。それで、素体崩壊しなかったのか……」


 フォーマット?


「──成程。高位情報集積体の一部を取り込んでしまっているからか。面白い。【素体強化】と、オートで【素体保護膜】が展開されている」


 言ってる意味がさっぱりわかりません。


「君にはものすごく強力な守護がついているってことさ。──さて。君は3冊の魔導書を手に入れ、オラクルを起動したね」


 人の話、全然聞く気ないですね。


「今、三冊の所持者であり、権利を有する者は君だ」


 え?

 コクトーは死に戻りしたから別にして、ロッソは?

 今現在、三冊を所持しているのはあいつだ。


「ああ、彼はまだアクセスしていないね。どうやら、君の帰還を待っているようだ」

 なんだって?

 ロッソ……あの、馬鹿。俺なんか待たなくてもいいのに。


「三冊揃えて、オラクルを起動した者が「願い」を叶える権利を得る。権利所持者が複数居た場合は、早い者勝ちだよ。わかりやすいでしょう? そうそう、コクトー君はねえ、願い事を言う前に死んじゃって、しかも可哀想に、君の転移システムエラーに巻き込まれちゃってさあ、どこにいっちゃったのかわからないんだよね。だから、現在連絡待ちアンド捜索中なんだ」


 コクトーは、俺みたいに戻れなくなって、どこかしらない世界に飛んでいってしまったってことか?

 

「うんうん。そういうわけで、今現在の所持者は君だ。おめでとう」


 男は天井まで届きそうなクラッカーをどこからかとりだすと、紐を引いた。

 ぱあん、と鼓膜を震わす破裂音がして、色とりどりの紙吹雪が舞い散る。


「さあ。頑張ったご褒美に、一つだけ願い事を叶えてあげよう」



 願い事……本当に!?


「本当だよ。さあ。言ってごらん」


 願い事は1つだけ。

 願う事は1つだけ。

 願い。


 願いは──





 ……ちょっと待ってくれ。

 こんな所で、俺1人で決めちゃうのは、マズくないか。

 皆と相談させてくれ。


 男が楽しげに、くすり、と笑った。


「それが願いかい?」


 な!


「ふふ。いいかい。願いを1つ、叶えてあげるよ。どんな願いでも。願った事をね。それが君の願いかい?」


 違う!


 くそ。

 やられた。

 これで、ショージたちはやられたのか。

 本の序文を思い出す。


 [──救うべきか、それとも、罰を与えるべきか。

  これは、神が我々を計る為の調査であり、試験である。


  という建前の、娯楽に飢えきった奴の遊びではないのか。]

 

 確かに、この男の態度をみていると、そんな気がしてくる。



 すまん、ロッソ。皆。

 こうなってしまっては、もうやるしかない。

 

 ……漠然と言うと、ダメだ。罠だ。言葉の隙間から、きっと裏をかいてくるはずだ。


 想い出せ。

 ショージ、夏宮庄司たちが残してくれた言葉を。

 果たせなかった悔しさを継いでくれ、と綴られた一冊の本。


 慎重に言わないといけない。

 これは、言質の取り合いゲームだ。


 皆を元に戻して!なんて、よくあるチープなセリフを言った日には、何をされるか分かったもんじゃない。


「ふふ。おやおや。それは先人の入れ知恵かい?」


 そうだとも。

 先人が残してくれた、心強い武器だ。


 俺は、頭の中で、かつて読んだ、ショージが執筆した本のページを繰った。

 本の内容は、数々の質疑応答に関する、膨大な思考実験を綴ったものだった。


 対話を重ねた先に生じる、発生するであろう無数の分岐について。

 対話の落とし穴を回避する為の言葉の選び方。

 想定した結末へ結果を導く為の道筋。


 思い出せ。

 会話の最初の切り出しは何がベストだった?

 そうだ。

 最初の願いは──


 白金髪の男の、片眉が上がった。

「ん? 最初?」


 そうだ。

 最初の、願い。

 それは──

 

 俺が望む、知りたい情報全ての開示。

 全てだ。



「──ふむ」


 白金髪の男は、笑みを浮かべたまま、優雅に足を組み替えた。


「君が望む情報。君は何が知りたいのかな? 世界の理?」


 俺が知りたいものだけでいい。


「ふむ。君が知りたいものだけ、ね。分かったよ。何が知りたいの?」


 まずは、俺が膨大な情報量に狂わないようにする方法。

 それに俺が壊れないようにする方法。


「ほほう……?」


 俺たちが元々いた世界を、丸ごと別の安全な場所に移す方法。

 その世界が壊れないようにする方法。

 お前が攫った俺たちを、そこへ戻す方法。

 

 白金髪の口元が、ゆっくりと三日月のような弧を描いた。


「私を使おうというのかい。面白いね……君は、神様にでもなるつもりかい?」


 ノーコメントだ。下手に答えると言質を取られる。


「……君は」 


 お前の真実の名前。

 お前に俺の望みを履行させる方法。

 お前が、俺たちがいる世界とこちらの世界に二度と干渉できないようにする方法。

 

 

 男の高笑が響き渡る。



「本当に面白い。君はこの私から【世界】を奪おうというのか!」



 さあ、開示しろ。

 俺の願うもの全てを。


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