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017

 拳闘士は、パッシブスキルの【敵察知】を持っている。敵意ある者が近づいてきたら、すぐに分かる。そう──

 検出された相手には必ず、敵意、があるのだ。


「あちゃー。どうする、宵月君」

「どうするって……ロージー。何人?」

「……15名です」


 俺は思わずロージーを振り返ってしまった。


「……ちょ、多すぎないか!? スティング、お前なにやってきたんだよ」

「えー、俺ー!? 違う違う。俺様、常に清廉潔白ですヨー」

「嘘つけ!」

「──私が殺ってきましょうか?」


 ロージーが可愛らしく小首をかしげて尋ねてきた。微笑みが怖いんですけど。


「え、ちょ、ちょっと待って。ここはマズイって! 図書館の門番が見てる」


 俺はサンクティ皇国の地図を思い出す。

 確か、路地を抜けた先に、ちょっとした倉庫街があったはずだ。

「敵意の原因がわからない。それに、ここで騒ぐ訳にはいかない。衛兵につかまって牢獄にいれられたりしたら、ロッソの奴が烈火のごとく怒るぞ。ひとまず、人目のつかない倉庫街まで誘い込もう」

「はい。承知致しました」

「りょーかい」



 倉庫街に入って、俺たちは散開した。

 ここは10の倉庫がならんでいる。大きさはそれぞれ体育館程度だ。

 昼間は、朝市などがひらかれるちょっとした広場としても使われている。


 俺達は、それぞれ違う倉庫の影に隠れた。

 案の定、15名の男達が、ばらばらと入り口から入ってきた。


 角からそっとのぞいてみる。

 俺は目を見張った。

 皆、バングルを腕にしている。


 彼らは、俺たちと同じ、冒険者だった。


 どういうことだ。


 リーダーらしき職業盗賊の男が、いまいましそうに他の冒険者に指示する。

「くそ。気づかれたか! だが、その辺に隠れてるはずだ! 探せ!」


 俺は魔導書をとり出して、【気配遮断】と【音遮断】を自分にかけた。

 ついでに、【地図】と【索敵】と【サーチ結果表示】。


 視界の右上に、倉庫街の地図が表示された。地図上に、赤い三角シンボルと緑の三角シンボルが表示される。

 赤が15個、緑が2個。

 地図上を動いていくのが見える。


 赤は追っ手たち。

 緑の三角シンボルは、ロージーとスティング。


 赤は点手バラバラに倉庫街に散っていっている。

 緑は、倉庫の影に身を潜ませている。


 赤の三角が、緑の三角の側に近づいていく。緑が後退する。

 誘い込んでいるようだ。各個撃破するつもりなのだろう。

 ロージーとスティングなら、単独で戦っても大丈夫だろう。レベル90越えは伊達ではない。

 何にしても、早めにリーダーを押さえなければ。


 乱れた足音が近づいてくるのが聴こえた。

 俺は倉庫の奥に移動して、裏を回って、反対側に出た。

 暗がりに、レンジャーっぽくボーガンを構えた男の背中が見えた。

 よし。1人発見。


 俺は静かに射程範囲まで近づいた。ボーガンを構えたレンジャーは気づかない。

 俺は【音遮断】をレンジャーにかけた。

 気づいたレンジャーが振り返る。追いかけてくる。魔法効果が効いているため、声も、装備が擦れる音も、足音も出ない。

 俺は後退した。人目につかない場所まで誘い込む。


 倉庫の黒い影の中に誘い込み、【泥化】で足下に泥沼を作る。

 泥に足を取られて慌てたレンジャーが、もたもたとボーガンを構えている間に、風属性魔法スキルの【衝撃波】を放つ。

 これはダメージを与えつつ、うまくいけば相手が気絶する。衝撃波なので、光もでない。うまくいったようで、レンジャーが気絶した。

 まずは1人。


 足音を忍ばせながら、次の冒険者の背後へ。




 ロージーとスティングも1人ずつ倒したようで、赤い三角が残り12になった。


 さすがに異変に気づいたのか、リーダーが慌てて指示を飛ばす。

「お、お前たち! 絶対1人になるな! 固まって移挟み込め動して、挟み込め! こいつら、普通の冒険者じゃない!」


 普通じゃない冒険者ってなんだろう。


 俺たちは別に特別なものを持っている訳ではない。普通の冒険者だと思うんだが。黒本は封印中だし。


 地図を見ると、俺の前後に、2人ずつ、回り込んできた。

 あ、これちょっとまずいかな。


 挟まれた。


 速攻で後退し、後ろの2人を倒すしかない。

 俺は角から覗いて、困った。

 銃使いと弓使いだ。

 遠距離武器をもつ冒険者は、魔道士系の天敵だ。あいつら、遠方から詠唱遮断してくるからな。

 出合い頭に【衝撃波】で吹き飛ばすか。そうしよう。【音遮断】【泥化】【衝撃波】の黄金スニークコンボだ。よし。

 俺は角から躍り出た。


「「青いお兄さん、助ける!」」


「え」


 な、なんだ!? なんで、こんな所に子供が──」

 突然現れた犬人族の子供に、銃使いと弓使いが戸惑いながら振り返る。

「「手伝う!」」

 双子は弓を構え、問答無用に撃った。


 二人の足に一撃ずつ命中した。


「ぎゃああ!?」

「な、何でえー!?」

 身も知らぬ子供にいきなり攻撃され、二人が慌てふためいている。


「レフ!? ライ!? なんでここに……ああもう! 我、アイテールを通じ、土の元素に干渉──【泥化】!」

慌てふためく追っ手二人の足下を、泥沼に落とした。


 俺は続けて詠唱し、【衝撃波】を放った。

 2人気絶。


「お前ら! なんでここにいるんだ!」

「「ふえっ」」

 大きな声で叱ると、双子の耳と尻尾が毛ば立った。


 あ。しまった。


 思わず、大きな声をだしてしまった。

【音遮断】の持続時間も丁度切れた。

 予想外の事態に、掛け直しが間に合わなかった。


「いたぞ! 声がした! こっちだ!」


 ばれたあああ──!!


「いたぞおおおお! こっちだ!」

 物音を聞きつけて、他の冒険者が一斉に駆けてくる。


「ああもう!」

 俺は双子の首根っこを掴んで、倉庫の外階段を上った。

 2階の踊り場まで駆け上がる。集団に囲まれるよりはこのほうがまだましだ。時間はかかるが、階段を上ってくる奴を各個撃破できるから。人数が多いと消耗戦になるけどな。仕方ないよなこの場合。


 予想外の展開です。

 10人に囲まれました。


 遠くから、スティングとロージーが駆けてくるのが見えた。すまん。


「ははっ。追いつめたぜ」

「馬鹿な魔道士だな。自分で退路を断つなんて」

 声がして、階段下に目を移す。


 うわ。バーサーカーだよ。


 階段下をみると、体力と防御力が半端なさそうな、熊のようなバーサーカーが2人、黒いフルプレートを着込み、巨大な斧を持って階段を上がってこようとしています。俺の三倍はHPがありそうです。


 バーサーカー。狂戦士というだけあって、攻撃に全くひるまない。

 鍛え抜かれた肉体は、ダメージも通りにくい。デフォルトで、自動回復スキルも持っている。力押しで来られると、厄介な相手だ。


 持ちこたえられるだろか。

 こんな時、前衛がいないと、中後衛だけだと、つらい!

 こんな時に、なんでいないんだ。

「ジェイスの、ばかやろー!」


 俺は、紅色の種をバーサーカーの前に蒔いた。


「我、アイテールを通じて、闇の元素に干渉。──【茨の魔種子】」


 詠唱が終了すると同時に、朱色の種は、あっという間に芽吹き、成長して、彼らの腕ほども太い茨の蔦になった。

「なっなんだこりゃ!?」

 太い茨の蔓は、見る間に枝を増やし、バーサーカー達をからめ捕った。


【茨の魔種子】

 闇属性、高レベルの、ダメージ付きの足止め魔法だ。

 足止め時間は相手によって左右されるが、確実に足止めできる。

【泥化】は使えない。あれは、地面に敵の足がついていることが発動条件だからだ。【茨の魔種子】はMP100消費と大きいが、どこでも使用可能な、強力な足止め魔法である。


 いくらバーサーカーでも、斧で蔦を切り裂いてる間は、動けない。

 バーサーカーとまともにやり合ってたら、こっちの分が悪すぎる。確実に動きを封じなければ、突撃されて終わりだ。


「ぬおお!?」

「こいつ、闇の上位魔法持ってるぞ!」

「くそ! 見た目に反して上級魔導士だ! 詠唱をさせるな! 一気に畳み込め!」

 おい、見た目に反してってなんだ。 

 俺はレフとライの矢に、氷結の付加ダメージをつけた。攻撃呪文を唱えるより、こちらの付与呪文ほうが断然発動までの時間が早い。

「レフ、ライ! 【同時撃ち】で狙え!」

「「わかった!」」


  双子が同時に矢を放つ。

 踊り場の手前まできていたバーサーカーの、斧を握りしめた腕に、ドライアイスみたいな煙を纏った矢が刺さる。

「ぎゃあ!?」

 そこから、少しずつ凍っていき、腕一本が凍りついた。


 俺はすぐ詠唱に入り、頭に狙いを定めて【衝撃波】を放った。

 鉄壁の防御力を誇る肉体でも、流石に頭部だけはダメージが通りやすい。

 二人のバーサーカーが倒れ、昏倒した。


「宵月様! 加勢致します!」

「もーしょうがないなー」

駆けつけたロージーが、長剣を構えた剣士2人を巴投げした。その脇で、スティングが1人の腹と両手を撃ち抜く。容赦ないな、二人とも。


 地図を見る。紅い三角は、7つ。

 残り、7人か。 


 あれ? 


 敵リストの表示がすぐに7人から4人に変わる。

 3つの赤い三角が消えたのは同時だった。3人一度に瞬殺したのは誰だ?


「──ジェイス様!」

 ロージーが、嬉しそうな声を上げた。


 ジェイス!?


 スティングが口笛を吹いた。

「3人同時に吹っ飛ばしちゃうなんて、やるねー」


 踊り場の手すりから下を見下ろす。

 そこには、駆けながら重剣を軽々と振り回すジェイスいた。


 それからは早かった。


 俺が攻撃する間もなかった。あっという間にロージーとスティング、ジェイスが各個撃破し、リーダーを1人残して戦闘はあっけなく終了を告げた。



「「灰色のお兄さん!」」

「ジェイス! なんで此処に……?」

 ジェイスは重剣を収め、踊り場にいる俺たちを見上げた。

「……なかなか戻ってこないから、気配を追ってきた。──レフ。ライ」

「「……あい」」

 双子が耳を伏せ、俺の後ろに隠れる。一応、悪い事をしているという自覚はあるようだ。


「俺は、魔導書探索本部で待ってろ、と言ったな。なんで此処に居る」

「お、置いてく、ダメ! 嫌い!」

「お、置いてく、ダメ! 怖い!」

 双子が俺の後ろで抗議する。前に出ろ前に。俺を挟むんじゃない。俺まで怒られてる気分になるじゃないか。


「ついてきてしまったんですね」

「あららー」

 出発する前、責任持って面倒見ますからご安心を、とレタスは言った。ご安心できないじゃないかおい。帰ったら絞める。


「……お前ら。一体、どうやってついてきたんだ?」

「「馬車の屋根、乗った!」」


 そうですか。身軽ですね。


 俺は双子の頭に軽くゲンコツを入れた。適度な鉄拳制裁は有効。

 双子は頭を押さえて涙目になった。

「約束破るのは悪い事だ。悪いことしたらどうするんだっけ?」

「「……うう……謝る。ごめんなさい……」」

「わかってるじゃないか。ほら、ジェイスにも謝ってこい」

 俺は双子の頭をくしゃくしゃとなでた。その背中を押す。

 双子は手すりを飛び降りると、ジェイスの元へ駆けていった。


「「は、灰色のお兄さん……ごめんなさい」」

 腕を組んでいたジェイスは、深く溜め息をついてから、双子の頭に手を置いた。

「……もうするなよ」

「「うん!」」

「じゃあ、帰れ」

「「やだ! ついてく!」」

「お前ら……」


 帰れ、いやだ、の応酬をエンドレスで繰り広げる3人の間に、見かねたロージーが間に入った。

「ジェイス様。子供だけで今からウェイフェア・パレスまで帰すのは、逆に危険ですよ。ここは、次の町までお連れして、安全な場所でお待ち頂いた方がよろしいかと思います」

 スティングも、うんうん、と同意する。

「だねえ。これは、置いていってもついてきちゃいそうな感じがするし。もういっそ、次の町まで、連れて行っちゃったほうがいいかもね〜」

 俺もその方がいいと思う。

「俺も、こうなってしまった以上、その方がいいとおもう。連れて行って、用が済んだら連れて帰ればいい」

 それに双子がいたら、気になってジェイスも無茶はしないだろう。

 もしかしたら途中で思い直して、雪原行きも諦めてくれるかもしれない。


 ジェイスが、苦虫を噛みつぶしたような顔をした。

「……雪原の、手前までだぞ。危ないと感じたら、帰らせる。わかったか」

「「うん!」」


「よかったわね、レフちゃん、ライちゃん」

 双子は嬉しそうに尻尾を振って、ロージーの周りを回った。あいつもたいがい甘いよな。


「そんなことよりさー。こいつどうする?」

 手足を縛られたリーダー格の男が、打ち上げられた魚のように動いた。


「貴様等ああああ! 自分たちが何をしようとしてるのかわかってるのかああああ! ロッソはこの世界の秩序を乱す悪なのだ! 神を呼び出して、不興をかったらどうする!? この世界が終わってしまうじゃないか!」

 リーダーが唾をとばしながら血走った目でうねうねと体を動かす。


 俺は氷づけバーサーカーを避けて階段を降り、男の前に立った。

「なんで俺らを襲ったんだ?」


 リーダーが血走った目をカッと見開いた。


「……お前らを見せしめにしてやるつもりだったのだ! これ以上3色の魔導書に関わるなら、お前らの仲間を潰してやるぞ、となあ!」

「俺らは見せしめになる予定だったのか」


「そうだあ! ロッソたちの中で、お前らが一番弱そうだったからな!」


 おい。


「我々は、元の世界に戻る事を望んでいない! この世界こそが真なのだ! 我々のいた世界こそが仮の姿! 蝶が見る夢の如し! なぜそれがわからない! 此処こそが、神が我々に与えたもうた新世界なのだ!」


「あーもー。煩いなー」

 スティングが、銃口をリーダーの額に当てた。

「ちょっと、静かにしてくれるー?」

 リーダーは青ざめて口を閉じた。

「……スティング。とりあえずそいつ、ロッソの所に連れていってくれ」

「ええーなんで俺ー!?」

「さぼっただろお前。それくらいしろ」

 スティングはぶつぶつ言いながら、リーダーの足を掴んで引きずっていった。いくらなんでも、その持ち方はどうかと思うぞ。


「……別に、帰りたくない奴は、帰らなくていいんだけどな。ロッソだって、個人の意志を尊重してる。途中で帰りたくなくなったら、自由に抜けりゃあいい、って言ってるし。帰りたい奴だけが頑張って帰ろうとしてるだけなんだけど。なんか、変な風に噂が回ってるんかなあ」

「伝言ゲームしかり、噂には、どうしても尾ひれ背びれがついていってしまうものですから……」

「だなあ。探索本部の趣旨を、ちゃんと広めていったほうがいいかもしれない」

「はい」

 

 双子のお腹が盛大に鳴った。

「ふふ。お腹空いたのですね。帰って何か食べましょうか」

「「あい!」」

 ロージーは笑って、赤い顔の双子の手を取ると、歩き出した。


 俺ははしゃぐ二人を見送って、後ろを振り返った。


「……ジェイス」


 歩き出そうとしていたジェイスが立ち止まる。

「来てくれて、助かった。ありがとう」

 ジェイスは口を開きかけ、──


 いきなり強い力で俺の腕を掴みあげた。

 

 ジェイスに持ち上げられた自分の腕が視界に入る。

 俺はびくりを肩を揺らした。


 肌がうっすらと透過し、見えるはずの無い、腕の向こう側が見えた。 


 それはほんの3秒ほどだったかもしれない。

 けれど、俺にはとても長い時間に感じた。


 俺は震えた。


 最近、こういう現象をよく見かけるようになった。

 最初は、ただの見間違いかと思ってた。

 違った。

 それは、最近では、一日に2回、起こるようになっている。 

 最初は、10日おきだった。

 それが、だんだん間隔が短くなって。

 短くなって。


 ──最終的に、どうなるんだろう。


 俺の腕を握る、ジェイスの力が強まった。痛い。お前、俺の腕を折る気か。

「……痛いって、ジェイス。離してくれ」

 ジェイスは何か言いかけ、やっぱり口をつぐむと、俺の腕から手を放した。

「お前……」

「……俺にもわからん」


 もう一度、手を開いて見る。もう元に戻っている。触れても、なんともない。未だに震えが止まらないのが、少し情けない。


 俺は重い空気を振り払うように、鞄から今朝買ったものを取り出した。白い紐の、紋章タグ付き首飾り。

「そうだ。これ、買い物行った時に見つけたんだ。掘り出し物だぞ。致命傷ダメージを緩和してくれるんだって。致命ダメージを受けても、HPが1%残るらしい。いいだろ。やるよ」

 ジェイスが動かないので、俺はなかば押し付けるようにして、その手に握らせた。

 悲壮な顔していたって、状況が変わるわけじゃない。俺は、口元と目元に力を入れた。顔の筋肉が引きつる。ちゃんと笑顔を作れているだろうか。


「なあ、ジェイス。先が見えないからって、何もしないのは嫌なんだ。やれることは全部やっておきたい。俺は後悔したくない。それに、お前が死んだら、チビ達はどうするんだよ」

「……だから、あんな……ろくでもない魔法を俺にかけたのか?」

「ロクでもなくない。保護者のいない子供の気持ちが、俺にはよくわかるんだよ。──俺も、いないから」


 でも、兄と双子の妹がいて、ずいぶんと救われていた。何があっても、絶対的に傍にいてくれる人がいれば、大抵の事は乗り越えていける。双子にとって、それはジェイスにほかならない。


「それに。いままでずっと一緒にいたやつが、いなくなるのは、けっこうきついんだぞ?」

 ジェイスが何かを堪えるように、目を伏せた。ジェイスにも、何か思うところがあるのかもしれない。それなら尚更。


「残していく気なら、ぶっ殺すぞ」

 ジェイスが呆れたように小さく笑った。

「……お前な。俺を生かしたいのか、殺したいのか、どっちなんだ」

「そりゃ、生かしたいに決まってるだろ。俺だってなあ、俺なりに結構考えて行動してるんだぞ」

「そうなのか?」

「そうだよ! わかるだろ! この繊細さ!」

「いや、いつも気が付けば大抵、のんびり楽しそうに何か食ってるか、茶を飲んでるか、ぼんやりしてるからな」

「ぼんやりしてねえ!」

 なんたる無礼。どいつもこいつも、俺を何だと思ってるんだ。


 俺はジェイスの腹を殴ってから皆の後を追った。そうだ、双子にも、お土産を渡しておかなければ。


 思いついた事は全部、先にやっておこうと思う。

 後で、やっておけば良かった、と後悔しないように。

 できるだけ、考えないようにしていたけれど。

 

 こう、現実をつきつけられると、考えざるを得ない。


 間に合うのだろうか。

 

 ──俺の、残り時間は……あとどれくらい残っている?


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