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014

 結局、ジェイス達と魔導書探索本部へ行くこととなった。

 どうして18枚羽の銀竜に会いたいのかは、確認したいことがある、というだけで詳しくは教えてくれなかった。


 

 会議室のテーブルに座ったロッソが、無精ヒゲをなでながら唸った。レタスが、後ろで不安そうに見守っている。スティングは壁際で、事の成り行きを面白そうに眺めている。

 双子は1階で、ロージーと一緒にスイーツバイキングしているからここにはいない。双子はここに置いていくつもりだから、話を聞かせないほうが良い、とのロージー提案の配慮だ。




「確認したいことがある、ねえ。……宵月から話は聞いてるんだろ? お前さんにやり直しはない。死んだら、どうするんだよ」

「その時は、その時だ。俺が勝手についていくんだ。お前達は気にしなくていい」

「気にするよ!」


 ジェイスが俺の言葉を無視した。昨日からずっとこんなやりとりをしている気がする。聞いてもらえないけどな。なんて頑固なんだ。


「正直なところ、お前さんを気にしてる余裕は俺らにはない。自力で自分の身を守ってもらうことになる。それでもか?」

「ああ。お前達は、お前達の目的だけに集中してくれ。俺は俺だけの目的で動く。誓って、お前達の邪魔はしない」

 ロッソとジェイスがにらみ合う。


 ロッソがにやりと笑った。

「そこまで覚悟決めてんなら、しかたねえな。分かった。ついてこい」

「ロッソ!」

「ロッソさん!」

 俺とレタスが同時に責めるように名を呼んだ。


「仕方ねえよ、宵月。こりゃあ、ダメって言ってもついてくるぜ。そんならもう一緒に行ったほうが良い。ただ──てめえ勝手に動くつもりなら、パーティリーダーを宵月と交替しろ。それが条件だ」


「わかった」

 ジェイスは冒険者バングルを操作し、その場で【リーダー交替】手続きをした。

俺の冒険者バングルに着信音が鳴る。俺は仕方なくウインドウを開き、【了承】を押した。


「てことで、【蒼銀の風】リーダー宵月、レフト、ライトを除く以下2名参加……て、なんだ? 3名? スティングもいつの間にかメンバーに入ってんじゃねえか。おい。お前、俺のパーティに入るっつってなかったか」

 ロッソがパーティ詳細のウインドウを見ながら、壁際に目をやった。


 壁際には、事の成り行きを面白そうに眺めていたスティングがヒラヒラと手を振っている。

「まー、成り行きです。てなわけで、俺は宵月君と一緒のパーティということで。よろしくね☆」

「まったく……フラフラしやがる奴だ。じゃあ、これで決まりだな。では、出発するぞ!」



 話は終了、とばかりに皆がぞろぞろと会議室を出て行く。

 がらんとした会議室に、俺とジェイスが残った。

「……ジェイス」

 俺が呼び止めると、ジェイスは立ち止まって振り返った。溜め息を軽く一つついてから、ゆっくりと俺の方へ戻ってくる。

「なんだ。まだ怒ってるのか」

「いや。もう、諦めた」

「そうか」


 俺は黒本【暝闇の書】を取り出した。詠唱モードに入る。これでなければ、黒本の特殊魔法は使えないからだ。


「──我、アイテールを通して、全元素に干渉」


 魔導書の上に、複雑に絡み合った図形が現れ、回る。


「宵月? おい──」


「対象素体の構成元素とリンクし、魂と魄を繋ぎし糸が切れし時、我の糸を補填せん──【暝糸の代替】」


 唱え終わると、図形がほどけ、複雑な幾何学模様となり、手の平ほどの円形魔方陣に収束した。



「対象、ジェイス・センバー」



 指定すると、魔方陣はジェイスの胸元に移動し、張り付いて、染み込むように消えていった。


「なんだ、今のは」

 俺は魔導書をしまいながら、にっこりと微笑んだ。さあ、思い知れ。俺と同じ精神的ストレスを共有しろ。


「魂は霊体。魄は肉体。それを繋ぐ糸が切れた時、俺の糸と交換する」


 ジェイスが目を見開いた。

「……それは、どういうことだ」

 俺は人さし指を突きつけてやった。


「ふふふ……お前が死んだら、俺が死んで、お前が復活する。まあ、いわゆる身代わりってやつだ。先にいっておくが、その魔法、一旦かけるとお前が一度死ぬか、俺が解除でもしない限り、発動するまで永遠に──」


「おい!」


 俺は後ろ向きにぶっ倒れた。




 後頭部と脳内が割れるように痛いが、俺は今、そんなことよりも達成感でいっぱいだ。満足している。


 しかし、MP0で【昏倒】。やっぱりこちらでもそうなのか。まあ、心配することではない。寝ていれば1秒に1MP回復していく。TPも同じ。回復アイテムもあるしな。

 アイテム取り出せるまで回復するのに、もう少しかかりそうだが。


 術者には何一つメリットのない、この魔法。

 対象は一名のみ。

 HPとMPと所持金を全て、引き換えにして唯1人の身代わりとなる魔法だ。

 

 発動条件はレベル90以上、所持金50万以上所持。発動時全額消失。


 はっきり言って一瞬にして何もかもを使い切る、自虐的魔法と言っても過言ではない。


 それに、PCゲームの時でも、死んだらパーソナルスペースに戻るだけだし、ここでも【死に戻り】というやり直しができる俺たちにとって、全く必要性のない魔法だ。

 使う機会なんてこないだろう、ただリストにあるだけの魔法。



 まさか使い道があるとは思ってもみなかったよ。

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