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★既読の方へ (初めての方は飛ばして下さい)


発売中の内容と当本文中に使用している用語を一部、統一しました。2020.9.12

名称のみで、内容に変更はありません。


1)暝の書 → 暝闇の書

2)魂の書 → 魂魄の書

3)魄の書 → 炎躯の書

4)パセージパレス → ウェイフェアパレス

5)黒刀 → コクトー



◆  ◆  ◆



「──マジですか!?」


 パソコンのディスプレイの前で、俺は椅子を蹴倒す勢いで立ち上がり、叫んだ。


 俺の名前は、松波与一。


 ここは自宅2階にある、俺の自室。


 窓の向うには、紫と青と茜色が入り混じった夕暮れの空と、少しずつ暗色に沈んでいく町並みが広がっている。やや高台に家があるから、風通しも良く、眺めもいい。


 俺はデスク上に身を乗り出し、机上の大半を占拠する薄型デスクトップパソコンのディスプレイに顔を寄せた。


 画面には、黒い石材の石壁と彫刻で彩られた、教会の内部のような光景が広がっている。

 五階分をぶち抜いたかのように高い天井。

 見上げてみると、薄汚れてひび割れたステンドグラスの装飾が霧の向うにうっすら覗き、ひび割れから色の付いた光の筋がわずかに差し込んでいるのが見える。

 そしてバックサウンドには、パイプオルガンによる壮麗で美しい音楽が、永続的に流れている。

 

 退廃的で、禍々しく、且つどことなく荘厳な空間。


 所謂、ボスのステージ、というやつだ。


 ここは、現在プレイ中のオンラインゲーム【グラナシエールの創世】の、最新パッチのラストダンジョンだ。


 そして。


 祭祀場の最奥、三段高くなっている上座には、ボスがいる。

 いや。

 いた、が正しい。


 壇上には、体長10メートル以上は確実にありそうな、漆黒の翼を20枚も持つ竜の──


 亡骸が横たわっていた。


 亡骸なのは、つい先ほど倒したばかりだからだ。

 現時点においてこのゲームの最新パッチの、最大にして最強のボス、【渾沌の冥竜】。


 今現在、俺がいるのは、亜空間に浮かぶ巨大な建造物の中だ。

 その外観は、中世欧州のゴシック建築によく似ている。多くの尖塔が並び立つ、禍々しくアーティスティックな彫刻に彩られた、霧立ちこめる、石造りの薄暗い大教会。

 複雑に入り組んだ迷宮のような内部を進み、ようやく辿り着いた最上階。

 そこにいま、俺と、俺の仲間がいる。

 

「ちょ、ちょっと、待ってくれ! ラスボスのHPが0になる1秒前に、タッチの差で猛毒くらって先に死亡したあげくにブラックアウトして、回線切断して、ルーター再起動して、PC再起動後にログインして復帰して、戻ってみたら戦闘終わってましたって場合、経験値と金と限定アイテムは手に入るのかな!?」


 ボイスチャット機能を通して、ゲーム画面内に俺の叫びが空しく響き渡る。

 一緒に戦った10人のメンバーたちが一斉にしゃべりだし、ヘッドホンを外したくなるほど騒がしくなった。


「ううむ、可哀想だが、ボス倒すより先にログアウトしちまってたらなあ」

「いやあ、あかんやろ。戦闘中に退出扱いになるんちゃう? 戦闘放棄ってことで、どっちかっていうと、30分戦闘不可のペナルティついてるはず」

「お前はいい仕事をしたよ……」

「宵月っち……ネタ提供サンクス〜! ね、ね、ブログに書いていい? いい?」

「ご愁傷様です」

「はははははh腹痛ええええ!」

「だから残りHPには注意しろとあれほど」

「【魔導学者】は、能力値はすごいんだけどなあ。唯一、HPがなあ……ネックだよな……ああいや、それ以前の問題か。いろんな事が同時に重なりすぎて、回線に負荷がかかったのかもしれないな」

「可哀想に……プフフ」


 共にラスボス戦を勝ち抜いたパーティメンバーから、なぐさめと同情の声がかけられた。おい、笑ったヤツが数名いるな。後で覚えてろよ。


 厳かなクラシックが、画面内に響き続けている。

 ステンドグラスから差し込む光が照らしだす石畳の上には、大の字型に仰向けに倒れている者が唯1人。

 細身で長身の、三十代前半くらいの青年。

 青い髪は少し長めのショート。濃紺色のローブを身に纏い、学者がよく被っているような円筒形の帽子を被っている。



 俺だ。



 死んでます。


 画面の横には、【セーブゲートにもどりますか?】と、【30分戦闘不可】のペナルティコマンドが、カウントダウン付きで点滅している。ペナルティついてるうううう! ひどい! ひどすぎる!

 セーブゲートっていうのは、町などに一つある、登録しておけば死んだら戻ってこれるポイントってやつだ。


 ゲーム内の俺の分身であるキャラクターは、【宵月】という。


 皆が勝利に歓喜して飛び跳ねている中で、唯1人床にぶっ倒れている。

 非常に、まぬけ極まりない。恥ずかしい。なにこの羞恥プレイ的状況。

 これは、あれか。レアな上位職業についているから大抵の事は切り抜けられるよね、という根拠もない確信が招いた結果か。


 現在の俺の職業は、魔道士系統の、派生系上位レア職業。【魔導学者】。


 非常に珍しい職業で、総プレイヤー人口約800万人中、俺を含めて二ケタ程度しか存在していない。


 俺がなれたのは、偶然以外の何ものでもない。2年程前に某探索クエストで、幸運にもクラスチェンジ用のレアアイテム【書きかけの研究書】を手に入れられたからだ。

 俺はそれまで【魔道士】をしていたけれど、希少クラスだし、面白そうだったので、思いきって転職してみた。


 ただこのゲーム、転職には結構シビアだ。

 余程のことがない限り、ある程度レベルが上がった後で転職する者は少ない。

 なぜかというと、転職するとレベル1からの再スタートとなり、能力値も上昇した分の三分の二は消えてしまうからだ。さすがに初期能力値以下には下がらないが。


 そういったリスクを考えると、このゲームの職業は定番のものから【傀儡師】とかいう少し変わったものまで50種類あるから、早めにその中からいろいろ試すなりして、自分に合うのを選んで、一つの職を極めていった方が効率がいい。

 それぞれの職業には【階級】というものがあり、ある一定レベル毎に変化していく。【階級】が上がる毎に能力値にボーナスがついたり、使えるスキルが増えていったりする。


 俺の【階級】は、現在【理を解し者】(ことわりをかいしもの)だ。

 レベル1で【かけだしの探究者】、レベル20で【一元素使い】、レベル40で【四元素使い】、レベル60で【六元素使い】、レベル80で【理を解し者】を取得している。現在のレベルは96。もしレベル100になれたら、最上位階級になれるはずだ。

 装備もラスボス戦用に現時点での最強を揃えた。


 【魔導学者】専用の最強装備。

 きめ細やかな濃紺の生地に銀糸と金糸の文様が織り込まれた、見た目にも重厚な【ネビュラーローブ】。【ネビュラーハット】は、濃紺の低い円筒形の帽子で、右端に美しいブルーの大きな石が嵌め込まれた銀細工の羽飾りが付き、そこから銀糸の飾り紐が三本流れて房になっている。


 武器だって最強だ。

 今俺が装備しているのは、【暝の書】という魔道書。

 その表紙は不思議で、まるで宇宙を写し取ったかのように見える。漆黒の夜空の中には無数の星々が瞬き、所々に星雲のようなものや、天の川のようなものまでみえるのだ。何かの魔法でもかかっているのか、それらはプラネタリウムにように表紙の中を少しずつ動いていくので、見る度に少しずつ見た目が変わっている。

 吸い込まれそうなほどの漆黒を主にした装丁から【黒本】とも、星が無数にまたたいているように見えるから【星空の書】とも呼ばれている、とても希少な武器である。


 黒本は、魔道士系なら誰でも装備できるが、【魔導学者】であれば、特殊な魔法を取得することが可能だ。お陰様で、ちょっとこれゲームバランス崩れない?と心配するくらいの魔法もいくつか使えるようになった。


 だというのに。

 いくら最強装備で固めたって、死ぬ時は死ぬんだよ。うん。

 そうさ、世の中は所詮、諸行無常。

 どんなに完璧に武装したって、どこかしら穴がある。そういうもんだ。過去のどんなにものすごい英雄でも、なにそれみたいな死に方してるやつなんていっぱいいるんだし。

 

 悔しさ、いや、悟りの境地を噛みしめながら、画面の左脇を見る。ステータス画面が表示されている。

 

 プレイヤー名 宵月

 レベル 96

 職 業 魔導学者

 階 級 理を解し者 

 H P   0/3500

 M P   5/9999

 

 仲間と一緒に、死に物狂いで戦った。

 ボスのHPがあと一撃で倒せるほどになった時、最後の最後に【怨嗟の猛毒ブレス】という、ラスボス固有スキルを使われた。

 あらゆる防御を無視して猛毒状態にする、という反則的なブレス攻撃だ。あまりに反則的な為、一戦闘中に一回しか発動しない。猛毒にかかるかどうかは、純粋にリアルラック次第という恐ろしいギャンブラー的攻撃技だ。


 皆がどうにか耐えきった中、俺だけが【猛毒】になってしまった。


 猛毒は、HPが一秒毎に1900減るという恐ろしいステータス異常だ。その時、俺のHPは1800だった。次で回復しようと思っていた矢先の出来事だった。

 死亡とフリーズと強制ログアウトのトリプルコンボ。

 

「俺の今までの苦労は……」


 水の泡となりました。





 1人、また1人とボスのステージから去っていく。

 仲間の親切な僧侶が駆け寄ってきて、俺を蘇生させてくれた。気を落とさないようにね、と優しい一言を残して、ログアウトしていった。ちょっと涙が出そうになった。

 去っていく仲間たちの最後の1人を見送った後も、俺は未練がましく残っていた。


 ステージには、もう誰もいない。

 何もない。


「はあ……」


 あの非常にキツかったボス戦を、もう一度やり直そうという気は当分起きないだろう。なにせ、状態異常の品評会のような攻撃の嵐だった。全体回復と全体状態回復と全体防御魔法と全体補助魔法でMPのほとんどを費やしたような感じだ。

 製作者に声を大にして言いたい。


 ボス戦で、猛毒反対。だめ、絶対。


 一際大きな溜め息を腹の底から吐き出した。

 やっとこの場を去る決心がついて、プレイヤーの分身である[宵月]の足を出口に向かわせる。


 突如、

 画面が白くフラッシュした。


 あまりの眩しさに目を瞑る。


「な、なんだ? こんな時にまたフリーズか?」

 もう、泣きっ面になんとやらだ。パソコン、新調しようかな。5年目だしな。ちょっとずつ、不調が出始める時期だしな。ちくしょう。


 再び目を開けると、今までボスが鎮座していた場所に、1人の青年が立っていた。


「誰だ……?」


 イケメンだった。


 しかも完璧と言っても過言ではない超のつくイケメンだった。


 白地に銀糸のストライプが入った、小奇麗なスーツが、すらりとした細身の長身によく似合っていた。紫のネクタイに、胸元には薄紫のハンカチ。白金の、ゆるくウエーブのかかった長めの前髪から覗く瞳は、薄いスミレ色。うっすらと微笑みをたたえた薄い唇は傷一つなくつやつやだ。



 これだけ完璧に顔の造作を作られると、イラッとするより逆に感心してしまった。すごいな。どうやって調整したんだ。

 このゲーム、キャラクターエディット機能がとても充実していて、腕さえよければ、黄金比率の超絶美形を造ることだって可能だ。ただ、顔のパーツのバランスというのは、いざ理想の美形を造ろうとしても案外難しい。

 俺なんか、あんまりにも思うように造れないから、いくつか用意されているキャラクターモデルから良いのを選んで少し手を加えて調整したくらいだ。

 俺は立ち去るのを忘れて、青年を見ていた。パーツの配置バランスを覚えて帰って、キャラ作りの参考にしよう。

 青年がゆったりとした足取りで近づいてきた。


「ラスボス戦、お疲れ様」

 低すぎず、高すぎもしない、耳に心地よい声だった。


 このゲーム、やろうと思えば声も調整できるのだ。俺は面倒だからしなかったけど。

 本当に、どうやって調整したんだ。すごいな。神調整だ。ただ、男なのが非常に残念だ。次はぜひとも女性版を作ってもらいたい。この人に。

「え、いやどうも。ていうか、俺、死にましたから」

「いやいや。君の働きぶりは称賛に値するよ。己の命をとして他者に尽くす。美しき自己犠牲の精神。なかなかできることじゃない」

 俺は、手を顔の前で横に振るジェスチャーをした。

「いや、大げさに言わないで下さい。マジで。そんな大層なものじゃないです。単に、俺が自分の残りHPに注意していなかった所為ですから……」

「いやいや」

「いやいや、って。マジそうですから。でもフリーズしたのは俺のせいじゃないけどね!

 思い出して、俺はまた落ち込んだ。

 ただでさえHPが少ないんだから、常に満タンにしておくくらいの勢いでいけばよかった。

「ふふ。私の作ったその魔道書、手に入れてくれたんだね。《天への黒き塔》は大変だっただろう?」

「塔……」


 その名前を聞いた瞬間、俺の脳裏を数々の艱難辛苦の映像がよぎった。


 天へなんかじゃない地獄の底への塔だ、と後々酷評されるあのクエスト。


 それは、今から3年前に配信された、超上級者向けクエストの1つだった。


『探検家ジョルジーリオが、神世時代に書かれたといわれる【グラナシエール創世記第一三巻】に描かれた神の塔をついに発見した。


 《神が創りし3つの試練の塔。

 その道程には、数々の苦難と試練が待ち受けているという。

 己が持つ知識と力のみで塔を登りきった者には、その功績を賞して、神の叡知の一片が授けられるであろう》


 しかしジョルジーリオは、発見後、志半ばで病で亡くなってしまった。

 冒険者協会は、師の志を継いだジョルジーリオの弟子より、塔の調査協力の依頼を受けたが──』


 という、よくある設定の探索クエストだ。

 クエストは全部で3つ配信された。


《天への赤き塔》が333階。

《天への白き塔》が555階。

《天への黒き塔》が777階。


 クリア条件

 塔の最上階まで1人で登り、魔導書を手に入れる。


 クエスト終了条件

 各クエスト参加者の1人が各魔導書を手に入れた時点。

 ※尚、他参加者がクエスト攻略途中であっても、到達者が書を取得した時点で該当クエストは即時終了となりますので、あしからずご了承下さい。


 一見すると、参加者全員で競争して塔を登り、最上階へ一番に登りきった奴が各塔に1つずつしかない限定アイテムを得るという簡単なクエストだ。

 最上階に誰かかたどり着いたらクエスト終了にはなるが、他の挑戦者は何も貰えないというわけではない。

 一応挑戦者にも、クエスト終了時の到達階層に応じた装備アイテムが貰えるようになっている。

 よって、ほとんどのプレイヤーは参加していたはずだ。


 但し。


 その参加条件と塔の仕様に少し……いや、多大な問題があった。


 レベル90以上・参加人数1名。

 パーティを組んでの参加は不可。



 これがまた、徹底していた。

 塔に一歩踏み込むと、他のプレイヤーが全く見えなくなってしまったのだ。

 だから結局、途中まで協力という事すらもできない仕様になっていた。


 特に《天への黒き塔》は制限が厳しく、レベル95以上、参加人数1名、魔道士系限定というものだった。


 まあ、ただひたすら登るだけという事もあり、配信後すぐに終了するかと思われたクエストだったが、なかなか攻略者は現れなかった。ようやく333階を登ったプレイヤーが現れたのが半年後というスローペースだ。

 それというのも、その塔の内容が、1人限定のくせにすさまじく鬼仕様だったためだ。

 あまりの鬼仕様に、廃人や、精神を病む者や、諦めて去る者が続出した。


「ええ、もう、大変でした。マジで大変でした。大変を通り越して苦行でした。フロア自体はそんなに広くないんですけど、三次元的迷路になってて下手すると方向感覚狂って迷うし。一度入って、出て、また入ると1階からだし、マップは数時間ごとにランダムに変わってるし。トラップは無数にあるし、敵はやたら強いし属性ついてて面倒臭いし、階を上がるごとに哲学めいた質問を1つしてくるし、答えによっては一階に強制送還されたりするし、何この鬼畜仕様……って、私が作ったって? もしかして、あなたはプログラマーの人?」


 青年が優雅に微笑んだ。


「まあ、そんなものかな。でも、よく手に入れられたね」

「まあ、地道な作業は苦にならないタイプなので」


 時間に余裕のある大学生でよかった。最上階まで登るのに、400時間近くかかったのだ。暗号の解読に悩んでいる間や、死んでやり直しを入れると、カウントしたくないほどの時間を費やしている。食べたり休んだりする時はスリープにして休んだから、ゲーム内の連続プレイ時間は恐ろしいことになった。

 暇人だと笑わば笑え。俺は一点集中型のA型です。


 青年が肩を揺らして、楽しそうに笑った。

「成程。それは、赤本、白本、黒本の3冊シリーズの魔道書でね。その黒本が一番入手が困難だから、なかなかクリア者がいなくてねえ。ちょっと難しくしすぎたかなあって、考え直していたところなんだ。難易度下げる前にクリアしてもらえて、とても嬉しいよ。クリアしてくれた君をとても気に入ったので、君も追加で招待メンバーにいれてあげる」

「はい?」


 招待メンバー?


「今回の規定枠は埋まってしまっているから、特別枠でね」


 そういって青年は、画面に顔を向けて、優雅に微笑んだ。


 え?


 なんで。


 俺に、微笑んだ?


 まさか。

 まさかね。


 青年が、ゆっくりとした足取りで近づいてくる。

 画面に向かって。

 青年が片手を伸ばす。


 画面全体が僅かに暗くなった。

 部屋の照明も少し暗くなった。


 青年の手が、画面に近づいてくる。俺の操作キャラクターに、じゃなく。


 画面に向かって。


 伸びてくる青白い手の平。


 俺は、鳥肌がたった。

 なにこれ。コワイ。

 これ、ホラーRPGゃなかったよな?

 ファンタジーARPGだったよな?

 俺の身体は恐怖で硬直してしまって、逃げたいのに動いてくれない。


 俺は、ホラーは、苦手なんだ!


 友人に、面白いから、と無理やり引きずられて観たホラー映画。邦画だった。消したはずのテレビにアレが映るやつ。ものすごく怖かった。画面いっぱいの血みどろの女の顔。画面いっぱいの血みどろの手。画面から飛び出してくる血まみれの手。引きずり込まれる男。バッドエンド。観させられた日から一ヶ月は、家にいる間中テレビをつけっぱなしだった。だって消したはずのテレビにうっすらアレが映っちゃったら怖いだろ!


 白い手はどんどん近づき……


 画面を、するりと突き抜けた。


 悲鳴を上げる前に、幸か不幸か、俺の意識はブラックアウトした。


 ブラックアウトはもういいです。


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