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 罪と転生

 ぼくはトラックに轢かれて死んでしまった。


 中学校の部活を終えた帰り道、道路にいた子猫を助けようとして飛び出して……運悪く轢かれてしまったからだ。

 13歳になる今日まで育ててくれた、大好きなお母さんとお父さんには、とても悲しい思いをさせたかもしれない。ゴメンナサイ。


 けれど、心の何処かで……密かに喜んだのは確かだった。

 もう成績のことをうるさく言われることもないし、意地悪ばかりするクラスメイトと会わなくても済む。

 それに、ラノベやアニメだと、このあときっと「良いこと」が起こるはずだからだ。


 ぼくみたいに不慮の事故で死んでしまうと女神様が現れて「異世界に転生させてあげます。凄い聖剣を与えるので世界を救いなさい」とかなんとか言われて。


 どうやらぼくの魂は今、身体を抜けだしてフワフワと見知らぬ川を流れている。空は夜みたいに暗いけれど星は見えなくて、青黒い闇に覆われている。

 きっとこれが噂に聞く「三途の川」なんだろうね。ちょっと楽しみ……。


 けれど――。


 ぼくの腕の中には、温かい光があった。


『にゃぁ!』

『助けたはずのお前まで死んじゃったら、意味無いじゃん?』


 白くてふわふわしたオタマジャクシみたいな形だけど、助けようとした子猫(・・)の魂だというのは、なんとなくわかった。

 どうやらトラックから助けたつもりが……失敗したみたい。

 ぼくと子猫は一緒に死んでしまったらしい。


『ま、いいか……』

『にゃ……』

 ぼくとこの子は、一体何処に向かって流れてゆくんだろう? と、思ったその時。バチン! と何か硬いものにぶつかった。そして視界が急に開けて身体ががぐるぐると転がってどこかに落ちる感覚に飲み込まれる。


『――っわあああっ、痛っ?』

『にゃぁ!』

 死んでいるのに痛いっていうのは変な話だけど、頭の上からねこの魂が、ぽふん……と落ちてきた。


 気が付くとぼくは、何処かの古びた宿の玄関のような、土間に番台が設置された部屋にいた。


 部屋を見回すと、剥き出しになった柱は黒く煤けていて相当に古そう。窓はあるけど外は夜みたいに真っ暗だ。室内はぼんやりとランプが灯されている。和風とも洋風ともつかない不思議な部屋には下駄箱と、奥が見通せない暗い洞窟のような廊下がずっと続いている。

 人気は、無い。


 恐ろしく古い旅館の玄関みたいな、そんな場所にぼくは「立って」いた。入ってきたはずの玄関のドアは閉まっていて、開けることは出来ない。ていうか……ぼくの手は淡い光に包まれていて、半分透けてドアノブに触れることができない。 


『死んだから……生霊になったのかな? どこだろう、ここ……』

『にゃ……?』


 不安感がじわりと募る。子猫もぼんやりだけど子猫の姿に戻っていて、不安そうに足元に寄り添ってきた。思わず子猫を抱き上げると、こちらは生霊同士(?)なので抱き上げることが出来てホッとする。


 と――その時。

 気が付くといつの間にか番台に、女の人が座っていた。


「いらっしゃい、迷える魂……ご来店。あら、お二人さん?」


 闇の中から姿を現したのは、ゴシックロリータみたいな黒いドレスを着た女の人だった。黒髪がすごく長くて、綺麗な人。ぼくよりもずっと年上で……高校生ぐらいのお姉さんに見えた。


『こ、こんにちは……あの、ここはどこですか?』


 恐る恐る尋ねてみる。


「ここは『魂の旅籠(はたご)』さね。煉獄(れんごく)で、迷える魂を導く……案内所と言えば理解できるかい?」


『れんごく……案内所……?』


 なんとなく聞いたことがあった。煉獄は確か……天国と地獄の中間の場所……だったかな? ラノベか何かの受け売りだけど。


 番台に座る黒髪の女の人は、なんというか「凄み」があった。

 ちょっと怖い雰囲気だけど、すごくきれい。艶のある黒髪は「姫カット」でさらさらしている。肌はとても白くて、瞳が血ように赤みを帯びている。

 なんていうか……人間じゃないのかもしれない。


「アタイは……エンマ。この旅籠の案内役さ。そして、転生審判員(・・・・・)もやってるのさ」


『転生……審判?』


 死んでいるはずなのに、心臓がドキリとしたような感覚に囚われた。なんだろう、想像していた優しい女神様の転生となんだかだいぶ違う気がするけれど……。


 エンマと名乗ったお姉さんは、ぼくと子猫をじっと見つめると、小さくため息。そして、手に持ったスマートフォンみたいな機器を指先で操作して何かをし始めた。


『あの……?』


「あぁ、すぐ済むから……。ほら出た。佐藤はるた。年齢は13年惑星周期。地球の人類種かい? けれど『転生許可』という裁定だ。よかったねぇ……」


 薄いルージュを引いたような口元が微笑む。


『転生……!?』


 ぼくはその言葉に驚く。本当に、ラノベみたいな展開だ。


「けれどね、罪状がよくないね。親を悲しませた罪、トラックの運転手の人生を狂わせた罪、それと……猫を救えなかった事。あぁこりゃ意外と重いねぇ。人間に……転生は出来ないね」


『え、えっ!?』


 ぼくを見透かすような瞳にゾッとする。この人は……何を言っているんだろう? けれどなんとなくわかった。

 気軽に何か能力を貰って異世界に転生……するはずがないのだ。

 

 死んだ事でぼくがどれほど皆を悲しませ、迷惑をかけたか。


 それを考えたら当然だ。


 ぼくは……罪を背負っている。


 それは理解できた。


『ですよね……ごめんなさい』


「……ま、今回は大サービスしておくよ。その子に免じてね」

 

 エンマさんは先程よりずっと優しい声でそう言う。


 次の瞬間、視界がはげしく揺れた。思わず悲鳴をあげるぼく。抱きしめていた子猫も形が崩れる。けれどぎゅっと離さないと力を込める。


「決めたよ、転生ジャッジメント……! 惑星エンディルサーク。そこへお行き。亜人類種だけど……穏やかな世界さ」


 ぼくはそこで気がついた。エンマって……あ! もしかして閻魔大王(・・・・)さまの……エン……?


『わ……!?』


 そこでぼくの意識はブラックアウト。


 ◇


 次に気が付くと、ぼくは紫色の空を見上げていた。


 天空には土星みたいな輪を持つ月が浮かんでいる。風は暖かく、6枚の羽を持つ生き物がゆっくりと飛んでゆく。大地はオレンジ色の苔で覆われている。

 

 どうやら……知らない星に居るらしかった。


 ――どこだろう? ここは。っていうか、あれ、ぼくは……?


「……ハルタ?」


 ぼくの名を呼ぶ声に振り返ると、そこには長い尻尾としなやかな手足を持つ、青いウロコ模様の皮膚の、見たこともない生き物が立っていた。

 人間に似ているけれど裸で、身体のラインとか長い髪とか、たぶん……女の子。


 綺麗なグリーンの瞳が瞬く。


 ぼくも自分のウロコに覆われた、四本しかない指をみて、気がつく。


 ぼくはここにいる。生きている……と。


「……君ハ……?」


 なんだっけ? 確か……何か、何だったか、もう思い出せないけれど……ぼくの大切な友達(・・)だ。


「……トモダチ」

「ソウダネ、トモダチ」


 ぼくは差し伸べられた温かい手を掴むと、オレンジ色に染まる大地をゆっくりとした足取りで歩き始めた。


<プロローグ 了>


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