9.木の神、ヴァム・マクス②
「それにしても、トーヤ様はゼクト様によく似ておられる」
「え? そうっすか?」
ヴィムの言葉の中に桃矢を褒めるニュアンスがあるようで、なんだか嬉しかった。
「ゼクト様もスライム受けするお顔立ちでしたが、いやはや、トーヤ様もゼクト様以上にスライム受けするお顔立ち。ワタシと致しましても働きがいがあるというもの」
ヴィムの言葉に、何やら薄ら寒いものを感じずにはいられない桃矢であった。
「ファムもトーヤ様が宇宙船受けするタイプだと申しておりました。女の子に総受けですな! ほほほ!」
桃果は大好物の臭いを嗅いだ。
「ファムは見ての通り女の子だけど……、ヴィム、あなたってどっちの性を持ってるの?」
「見てわかりませんか?」
すまん、わからない。
「修理、癒やしと申せば女性格が適任。よってワタシは、女性格をプログラミングされております」
どうりで、どっかの戦闘指揮官と技術開発研究員を足して二で割ったような声だった。
桃矢は頭を抱えて蹲った。
桃果は声に出さず笑っていた。目が狐になる笑顔だ。
「ちなみに、ブレハートは?」
「男性格です」
「よかった」
桃矢はホッと溜息をついた。
「ブレハートが言ってましたよ。トーヤ様は魚介類受けするタイプだと」
おもいきり口を開け、バンバンと桃矢の背中を叩きまくる桃果であった。
「それで、モモカ様。どれから手を付けましょうか? さすがのワタシでも能力に限界がありますゆえ」
ヴィムと桃果の間で取り交わされた魔改造プランの立ち上げに際し、ヴィムが優先順位を求めてきた。
「先ずは電子戦用フリゲートね。次は戦術航空巡洋艦。そして超万能型駆逐艦と続く……ってところかしら?」
戦術航空巡洋艦とは、アドミラル型の空母のことである。桃果の趣向で戦術航空巡洋艦と呼んでいるだけだ。
「了解しました。触手が鳴りますなぁ!」
ヴィムはやる気満々である。すでに本体は計画を実行している。
「改造が済んだ艦艇には順次名前を付けていかなきゃね。いつまでも戦術航空巡洋艦とかフリーゲートとかじゃ味気ないわ」
桃果は、もの凄く嬉しそうな顔をして名前を考えている。
戦闘艦に名前を付ける機会など、滅多なことでは巡ってこない。
「まず、戦術航空巡洋艦。命名シナノは譲れないところね。対艦駆逐艦は旗艦として取り扱う予定だからヤマトかナガトね……うんとね、うんとね――」
「却下します」
「え?」
今まで黙っていた桃矢が、珍しく桃果にダメ出しをした。
「空母はファム・ブレイドゥ。旗艦はブレハート・ドノビにします。将来、兵員輸送艦が開発されれば、ファール・ブレイドゥに。工作船ならヴィム・マクスに」
桃矢に、強固な意志を感じる。彼がこのモードになったら、桃果といえどひっくり返せない。彼女はそれを知っている。
そして、それは必ず意味があっての事だと、経験上知っている。
「理由は?」
だから桃果は真面目に聞いた。
「僕たちは、戦闘力としてファムとブレハートを使いつつも隠している。これからもずっと使いながら隠していかなきゃならない。だけど、どんなに気をつけていても、いつかはファムとブレハートという言葉が表に出てくるだろう。だったら、最初から表の兵器に使ってしまえばいいじゃないか? 逆に隠せるんじゃないかな?」
タミアーラの技術はオーバーテクノロジーである。
それが表沙汰になれば、いかがなことになるか?
世界各国がこぞってゼクトールを狙うだろう。
ゼクトールのタミアーラ半島には、世界征服ができる能力が詰まっているのだから。
一方、ゼクトールは悪ぶっているが、世界征服を実践する根性はない。そもそも、その考えに至っていない。
椰子の木があって海の恵があればよい。家族が幸せに暮らせればそれで良いのだ。
よって、ファムだのブレハートだの、超戦闘力並びに超技術を表立って使うことはできない。存在は隠さねばならない。
「むー。桃矢にしてはできた考えね。補足するわ。ヴァム・マクスは艦船整備工場の名前にしましょう」
桃果の目がキラキラしている。
「で? もう一つなんか意味あるんでしょ?」
獲物を追い詰める目だった。
「えーとね……」
桃矢の頬が赤くなった。
「もう一つはね。ゼクトール国民のためなんだ」
はにかむ桃矢。
「敵であるケティムの艦船や戦闘機を分捕った。これはゼクトールの人々にとって、初めての快挙だ。だから、それにはゼクトールの人々が信仰している神様の名前を付けるべきなんだ」
普遍的な日本人である桃矢や桃果は、神に対してそれほど敬意を抱いていない。
そこの所が、唯一ゼクトール人と齟齬を感じるところ。ゼクトールの人々が、いずれ桃矢達に対し不満に思うところが出るとしたら、そこのところだろう。
桃果の眉が優しいカーブを描いている。
「それが第一目的でしょ? ……国民にはやさしいのね」
桃果の指摘に。桃矢の顔は真っ赤になるのであった。
「さすがトーヤ様。下々の者に対して深い愛情をお持ちのご様子」
ヴァムは一人うんうんと頷いている。
「何サボってるのヴァム。早く仕事に就きなさい!」
ほっこりしているヴァムに、桃果から手厳しい指導が入った。
「フフフ、ワタシの能力をもってすれば、1月もあれば……」
「3日でフリゲートと戦術航空巡洋艦と駆逐艦を仕上げるのよ!」
「え? 3日? え?」
「敵はもうそこまで来ているんですからね」
「え?」
「ヴァムがミスるとゼクトールは壊滅よ。ほかの誰でもないヴァムの両肩にだけ、ゼクトールの子供達の未来が乗っているのよ」
「え?」
「ほら、がんばって!」
ヴァム・マクス。二千年の時を超え、初めて体の色が青色になったという。
「さてさて、あたしはクルーの選択と配属を考えなきゃね!」
桃果は、嬉々として、机に向かうのであった。
次話「風雲」
お楽しみに!