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8.木の神、ヴァム・マクス①


「さて、作業報告を伺いましょうか、ヴィム・マクスさん」

 タミアーラの一室にて、桃果がすらりと伸びた足を組んで座っていた。


 隣には桃矢が座っている。


 対面しているのは、ヴィム・マクス一人。

 正確には、ヴィム・マクスの、コミニケーション筐体の一つである。


 ヴィムとは、タミアーラに搭載された四つの超兵器の一つ。

 ゼクトールの国教であるヌル教によると、生物、無機質に関わらず全てに力を与える癒やしの神とされている。


 兵器(システム)としては修理、開発を担当している。


「言っておくが、ワタシは指導者トーヤに仕えているのであり、モモカなる意味不明の人間に使えているという認識はない」


 ヴィムは意思を持っている。


 筐体ヴィムの外見をわかりやすく表すと、緑色をしたスライムである。

 身長一メートル。縦長の二つの泡が目に見える。ぽよんぽよん、である。 


 本体は巨大な、この木何の木? 気になる木、的な外見を有し、タミアーラのリボルバー式格納庫に収まっている。

 格納庫外へは、触手状の体組織を伸ばし、各処理に当たるのである。


「あなたには、鹵獲した艦船とフランカーの修理、並びに改良を行って欲しいの!」

「いや、女、そなたワタシの言葉を聞いておるのか? それともするワタシの言語能力が長い眠りの中で劣化でもしたというのか?」


「意思は通じているわ。あなたが、わたしの言葉を理解してないって理由なら考えられるわね」

「なるほど」


 ヴィムは考え込んだ。ここまで言い放つこの女。いったいどのような立場にいるのであろうか、と?


「仮に、モモカ嬢の主張が正しいとして……ワタシには余力がない。タミアーラの整備修復に全能力を当てている」

 ちょっと雲行きが怪しくなってきました。


「えーっと、ヴィムさん」

 桃果が声のトーンを少しだけ落とした。特に芝居はしていない。


「タミアーラって二千年前に墜落したのよね? いわゆる大破? 飛べない的な?」


「その説には二カ所の修正を求めねばならない。一つは、地球へ舞い降りたのは二千百九十九年前。二つ目、タミアーラは不時着した。そして、タミアーラはワタシが修理した。――飛べるのだよ」

 修正箇所は三カ所だった。


「どこまで飛べるの?」

「十メートルくらいかな?」

「そこまで飛んだらどうなるの?」

「三つに折れて墜落……かな?」


 スライムが小首をかしげても、可愛くはなかった。


 桃果は、わざわざ正面に回って、ヴィムの目を覗き込んだ。


「修理した?」

「修理中だ!」

 ヴィムはすぐに目をそらす。


「ヴィムさん」

 今度は桃矢だ。


「飛べるようにしなくてもいです」

「なぜだ! タミアーラの修理はワタシがゼクト様より賜った仕事だ! ワタシにしかできない仕事だ!」


 ヴィムが噛みついてきた。異様に熱っぽい噛みつき方だ。


 桃矢はヴィムの目をじっと見つめていた。

 ……この人、責任感が強すぎるんだ……。いや、心の拠り所か?


 そしておもむろに口を開く。

「ヴィムさん、総司令の名において、タミアーラ修理の任を解きます」

「え?」


 ヴィムから目に見えて覇気というものがなくなっていく。その体は、重力に逆らうことを止め、液化していく。


「と、飛び立てなくても良いと? いまさらなにを……タミアーラが動けば、この星を占領し、地球人を支配することも容易いはずだ!」


 ヴィムが桃矢に食ってかかった。絶対者に対する、機械の反抗である。


「僕たちは地球に生まれ、地球に育ちました。地球人です。ゼクト総司令は、この地を征服するなんて考えてませんでした。この地を故郷と決め、地球人になる道を選んだんです」


 スライムの体が小刻みに震えだした。

「そ、そんな……話が……違う……」


「よく考えてください。占領するならファムとブレハートの二機だけでも過剰戦力です。ゼクトさんは、そうしなかった。だから僕もしません」


 ヴィムはガックリと肩(に相当する部分)を落とした。

「そうか……ワタシの任務は終わったのか」

 ヴィムは物わかりがよかった。

 いや! 自分でも、自分の仕事が無駄であることをわかっていたのだろう。 


「新しい任務を与えます」

「え?」


「今、ゼクトさんの名を冠したこの国、ゼクトールが侵略者の手により滅ぼされようとしています」 


「な、なんですと! それは墜落に匹敵する一大事ではないか!」

 いきなりヴィムの体が活性化した。元のように重力に逆らう強度の粘性をみせる。

 独立したシステムだったのか、情報の伝達が断たれていたようだ。


「だから、ヴィムさんの力を貸しててください。共に戦ってください」


 ヴィムの目(泡)に光が戻る。


「……何をすればよい? ワタシは何をすれば良いのだ?」


 声に落ち着きが戻った。いつ終わるかもしれない達成感の無い仕事が終わった。かわって、なにやら面白そうな事件が起きそうな予感がスライムの体を駆け巡っている。

 二千年ぶりの猛りであった。


「桃花ちゃんの言うことをきいてあげて」

「総司令がそう仰るのなら。……失礼ながら、モモカ殿とは何者なのです?」

 何か釈然としないものを感じながら、ヴィムは申し出を受け入れた。


「僕の幼なじみで、お隣さんで、同じ学校に通ってて、それからそれから――」

「長い」

 痺れを切らした桃果が、桃矢の長台詞をカットした。


 桃矢は赤い顔をしたまま黙り込んでしまった。


「むうっ! 総司令を一言の元に黙らせるとは、この女性、いったい……」

 ヴィムが、桃果に対し、一歩引いた。

 そして、ヴィムが誇る高速多重演算装置が、予想値をはじき出す。


『おそらく、総司令が全権をゆだねる存在なのであろう。むむぅっ!』


 違う。


 エンスウのこともあり、朝から桃果の機嫌が悪い。こんな時、反論すると後が怖いからだ。それだけだ。

 桃矢が黙り込んだのは、ただそれだけの理由である。


「モモカ様、何なりとご命令を」

 ヴィムが平伏した。平伏してしまった。


「よろしい! 命令は、ケティムより鹵獲した兵器の修理と改造よ。ただし、普通の修理改造じゃだめ」

 狐の目で笑う桃果。 


「ふむふむ、タミアーラの技術水準……での改造ですかな?」

 スライムなりの上目遣いで答えるヴィム。悪戯する子供のような声色が混じっている。


「あら、あたし、頭の良い子は大好きよ」

 狐とイタチが密談している。


「外見はそのまま。中身は超技術。どう?」

「サーデルの皮を被ったフェリス・ルプリですな?」

「よく解らない例えだけど、羊の皮を被った狼ってことね」


 おそらく、サーデルとフェリス・ルプリとは、ゼクトール第一世代達の故郷に生息する生命体の事であろう。

 よく解らない生物だが。


「これは難しい命題ですな」

「できない?」

「これは異な事を! 命題が難しいほど、技術者冥利に尽きるというもの。お任せあれ」


「詳しい改造指針は、これから打ち合わせさせてもらうわ。細かいわよ!」

「これは手厳しい。モモカ様も、なかなかのワルで御座いますなぁ」

「その方もな、越後屋」


 夜空の星が輝く影で、悪の笑いが木霊していた。 



次話「木の神、ヴィム・マクス②」

お楽しみに!

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