56.ファムさん、本気出す!
その日、ケティム海岸部を中心として、マグニチュード8を超す、計測限度を超えた地震が発生した。
「こんな朝早くから、どうしたの?」
眠たい目を擦りながら、桃果が神殿半島の情報集約室へ入ってきた。
時刻は正午をとっくに回っている。
桃矢をはじめとし、10人の全委員長と神官イルマまでが集まっていた。
ヴィムまで詰めていた。
「ああ、桃花ちゃん。ケティムで核ミサイルの誤爆事故が起きたらしいんだ。ケティムが大変な事になっている」
「え? 核の?」
「各国のマスコミも大騒ぎしてるけど、クシオさんやファム達が集めた情報も、この事実を裏付けているんだ」
桃矢が、タミアーラの主コンピューター、クシオとアクセスしていた。
新たに広報(情報)委員長に就職したロゼが、タッチパネルの画面をスワイプしていた。
ロゼは、合衆国の報道機関から集めた情報なので、情報操作が入っていると思われますが、と断ってから――
「核爆発事故を起こしたのは、ケティムの沿岸部に近い空軍基地で確定です。これにより、ケティム最大の輸出港を含めた重要港湾がすべて使用不能になりました。3つある大型国際空港の内、1つが使用不能。大変ですね」
残念ながら、ロゼお姉様は、制服である水着に着替えていない。躊躇しているのだ。
でも、ご安心下さい。そこは時間の問題です。
「ケティム在住の外国人は、全て引き上げています。核攻撃を公言する国ですから、各国本国より緊急引き上げ命令が出ていました」
外務委員長ノアが説明を補足した。
紙束を持ったエレカが、口を挟んできた。
「地下で複数の核爆弾をヤっちまったらしい。ミサイル基地を震源地としたデカイ地震が発生したのと、直接の核で、アレだよ、とにかく大変な事態だ。国が滅ぶかもしれねぇ!」
興奮していた。
桃果は、クシオが拾ったテレビ中継画像を横目に見ながら、ゼクトールサイドが独自に集めた情報を読んでいった。
ケティムは、広大な領土を持っているが、海に面した線が比較的短い。
フラスコを伏せたような形をしている。
その海岸線が、放射能と地震により、封鎖された。
これが、どういう結果をもたらすのか?
「ケティム海軍は、……使えなくなったわね」
ぼそりと桃果が呟いた。
「まさかと思うんだけどね……」
桃矢は嫌な予感に包まれていた。
「クシオさん」
『ラ・デュー。総司令、何でしょう?』
「ファムが何かしなかった? 例えば上空からビームとかレーザーを撃たなかった?」
『撃ってません』
まるで用意されたかのような二つ返事だった。
桃矢は黙り込んだ。
「ブレハートさん! 君の方には何か入ってないか?」
『ラ・デュー。入っておりません』
妙につれない返事だった。
「ファールさん……、は、いないか?」
いつもネコの姿に身をやつし、その辺で寝そべっているハズなんだが……。
今に限って、なぜか姿が見えない。
ふと視線を落とすと、ヴィムと目が合った。
「ヴィムさん、そっちで何か気づきませんでした?」
「さあ? とくになにも?」
ヴィムの泡状の目が妙にクルクル回っている。
「……僕の目を見て言ってくれませんか?」
「はぁ? 見てますよ? 泡と目の区別が付きにくいでしょうけど、正面から見てますよ。フィフィー♪」
どう見ても横を向いていた。呼吸器官を持ち合わせていないのに口笛を吹こうとまでしている。
「おっといけない! 艦隊整備の時間だ。それじゃぁワタシはこれで1 ああ忙しい忙しい!」
そそくさと出て行くヴァム。ヴィムの音声の一部で「!」が「1」になっていた。
「……やりやがったな」
桃矢は確信した。したが、これは言えない。
事が大きすぎる。
桃矢は、事実を墓場まで持って行く事に決めた。
300m級恒星間航行用超弩級破壊型戦列戦艦ファム・ブレイドゥは怒っていた。
あの核の炎を見て、怒っていた。
ケティム沿岸部近くの空軍戦略基地。
コンクリートで頑強に固められた拠点。
地表に施された封印が解かれ、第二の魔王が目を覚した。
ファムがいるのは衛星軌道。
ゼクトールとケティムの双方が、一目で監視できる高みだ。
ファムの目が、弾道核ミサイルハッチ開封を捉えた。
核ミサイルは空中へ姿を現し、自らの推進器に火を入れた。
ゼクトールを滅ぼす炎を内封した破壊の魔王が、
あのゼクト司令が、命がけで辿り着いた新天地を、
次々と仲間が倒れていった過酷な旅の末に辿り着いた楽園を、
そして、愛する桃矢が守る若き国を!
血反吐を吐き、何千枚もの爪を割りながら守り続けた国を、年千年もの間、積み重ねた歴史を、健やかに生きる人々を、あの魔物は、たった数秒で壊そうとしている。
許せない!
ファムは、自発的に行動した。
廃棄処分覚悟の行動だ。
宇宙空間より、光波ミサイルを撃ち出した。
光の速さで進む純エネルギーのミサイルは、狙い違わず、ミサイルサイロ直上の核弾頭を打ち抜いた。
ミサイル基地上空1メートルで核爆発。
核爆発するように、意図して打ち込んだ。
地下で、残りの核ミサイルが誘爆する。
光波ミサイルの余剰エネルギーによる共振か、はたまた、防御システムがとられていなかったのか。
ファムが使ったのは光波ミサイルで、レーザーでもビームでもなかった。
だからクシオは嘘を言ってない。
これだけでファムの怒りは納まらなかった。
近くに鉄を多く含む隕石はないか?
そいつでとどめを刺してやる!
……みあたらない。
チッ! 運の良いケティムめ!
しかたないので、現状でよしとした。
次話「停戦協定の場」
お楽しみに!




