55.戦いの顛末
「お疲れ様でした」
空母ファムの艦長からねぎらいの言葉がでた。
「お疲れ様」
フリゲート・オボロ担当の戦闘艦橋からも、ねぎらいの言葉が出た。
……。
種明かしをしよう。
戦闘で沈んだフリゲート2艦は、リモコン操縦である。
駆逐艦ブレハート内部に設置された、各担当戦闘艦橋からのリモコンで操艦していた。
重要部分に高性能自爆装置を積んだ上での出撃だ。魚雷1本で沈むようになっている。
駆逐艦ブレハートは小さい。小さいとは言え、元々300人規模の収容能力を持つ船である。
40人かける3隻=120人程度、余裕で収容できる。
空き部屋も多い。リモコン操作用艦橋の3つや4つ、どうとでもなる。
元々、敵の攻撃により沈められるのが目的だった。だから、本物のオボロ・カゲロヲじゃない。
改造前の引き揚げ同型艦を、ヴィムがそれっぽく仕上げたのだ。
本物は、ゼクトールの岸壁に係留されている。ロゼの仲間がビデオに収めた。あれは本物だったのだから、騙したわけではない。無実だ。
「演技、うまくできてましたか?」
カゲロヲの操艦担当者からだった。
「オスカー賞ものよ! 任務遂行のため、希望を託すため、美しき犠牲的行為! 全世界が、けなげなフリゲート艦に涙したわ!」
「わーい!」
犠牲を美しいなどと、心の底から思っていない人から、お褒めの言葉がかかった。
「潜水艦戦なんかやったことないからね! だったら、こっちの得意分野で戦わないとね!」
桃果の得意分野。
それは空だという。
海上だともいう。
いいや違う。
最も得意なのは、詐欺分野なのだ。
敵の戦力を削り、かつ味方の戦力も削らねばならない作戦。
自艦も魚雷を喰らい、沈没寸前。戦闘能力を消失する。ミサイル発射を妨げる者はいなくなる。
そうすれば、敵はミサイルを撃つ。
撃つために、こちらの手の届く位置までノコノコやってくる。
悔しがる敵の眼前で、悠々とミサイルを撃ちたい誘惑は巨大である。
そこを叩けばよい。
今回、虎の子の高速300㎞/h魚雷を30発残しての、弾道ミサイル撃破であった。
核ミサイル自爆は想定の一つであった。
そういうことだ。
とはいうものの、さすがの魔改造駆逐艦も、核の至近弾を受けて、まともでいられるはずがない。
残念ながら歴戦の勇、ブレハート(表バージョン)はここまでだった。
安全工作を施したコア部分以外、ゼクトールまで保たないだろう。
涙ながら、自沈処理となった。
「所詮、戦う船。鉛筆削り機が鉛筆を削るだけの道具であるように、戦闘艦は人の命を奪い、物を壊すだけしかできない船。これがブレハートにふさわしい最期なのよ。……総員敬礼!」
「ご苦労様でした!」
「あざーっす!」
いろんな声をかけられながら、駆逐艦ブレハートは海底に沈んだ。
これからは優秀な魚礁として、第二の人生をはじめるのだ。
「これでゼクトール艦隊全滅。空母が残ってるけど、ほぼ全滅と世界は思うでしょうね」
桃果は、黒い笑みをその可愛い顔に滲ませる
「これは次の一手への布石。帰ったら、すぐに正規艦隊を率いてケティムの港湾施設に砲撃を加えるわ! 休んでいる暇はないわよ!」
行動力がありすぎるのもはた迷惑である。
「戦術航空巡洋艦ファム・ブレイドゥ、超高速航行でゼクトールへ! 明日の夜明けまでに――」
桃果は言葉を一旦切った。
「――故郷へ帰るわよ!」
いよいよ、ゼクトールは被害者側から加害者側へと席を移動するのであった。
一方、ケティム本国では……。
アモス撃沈、核ミサイル誤爆の情報は、ケティム軍首脳並びに政府上層部に伝わった。
作戦失敗である。
面子だとか、いろんな物が崩れ去った。
たった3隻の敵艦と引き替えに。
面積500㎞平方に満たない小国に完敗した。
対外的に、内政的に、たいへんまずい事態となった。
ここでの正解は、ただちにゼクトールと和平交渉を開始し、どこからか指摘される前に核攻撃の非を詫びる事である。
しかしそのような思考方法をケティムは持ち合わせていなかった。
特に弱みを国内に見せるわけにはいかない。一気に体制が崩壊する可能性があると政府側は推測する。
推測する、と自覚してしまうような政治を行ってきたのだ。
ケティムは自分の耳と目を自分で塞いだ。
そして翌日の正午。作戦を継続し、実行した。
それは未熟者が陥りやすい悪手であった。
ゼクトールは、原潜アモスの弾道ミサイルを封じた。
しかし――
あれが最期の弾道核ミサイルだとは、一言も言ってない。
次話「ファムさん、本気出す!」
あと3話で最終回となります。
お楽しみに!




