54.今……帰還せ……
合衆国の偵察機は行方不明となっていた。
強電磁波の影響をもろに受け、偵察機の母艦は電子的なダメージを負っていた。
レーダーを含む情報収集装置が、全て沈黙した。
艦橋要員は、水平線の向こうにそそり立つキノコ雲がを眼で観察している。
直ちに耐放射能行動を取ったものの、いささか自信がなかった。
「ケティムは核兵器を使ったのか?」
あの馬鹿! この艦隊の司令官の口調は、そんなだった。
観戦並びに探索という、いわば危険の少ない任務という認識だった。
まさか、核兵器が炸裂する前線に出ていたとは、夢にも思っていなかった。
「核ミサイルを水中発射した潜水艦の上空30メートル付近で爆発したものと……」
気が利くが、最後まで言葉を継がないのが、この副官の悪い癖だ。
まずいなんてモンじゃない。
帰ったら、医療機関による精密検査が待っている。
文字通り寿命が縮んでいる可能性が高い。それは、心の底から信じたくないが。
「ジーザス!」
胸の前で十字を切って、神に祈りを捧げた。
さて、……神の領域に踏み込んだ兵器を使用した人類でも、神は慈悲をくれるのだろうか?
司令官の集中力は切れていた。
「あの状態では……ケティムの原潜はもとより、ゼクトールの駆逐艦も、ただでは……」
「駆逐艦の装甲なんてベニア板だ。蒸発したかもしれないな」
「蒸発はなくとも、沈没は確実で……」
「わかっとる!」
ゼクトールの連中は、命と引き替えに国を守った。
それくらい、解っている。
後方数百㎞の海域。
空母ファムが、みんなの帰りを待っていた。
彼女の任務は後方支援。
必ず帰ってくると言っていた、桃果達をずっとずっと待っている。
既に日は落ち、空は綺麗な星々で満ちていた。
地球上で起こった、小さな小さな光など、まったく意に介さぬ鉄壁の輝き。
過去から未来永劫、その輝きに曇りはない。
飛行甲板に、当直以外の乗組員が集まっていた。
赤い三連星の女の子達も、遠くの海を見つめていた。
核爆発のことはみんな知っている。
それでも待っていた。
ざばり。
間抜けな音がして、グチャグチャになった鉄の構造物が、水面上に顔を出した。
ざぶんどぶんバキバキみきき、と変な音を立てて浮上した。
そして斜めに傾ぐ。
甲板上構造物をすべて左に薙ぎ倒した何かだ。
ブレハートだ。
なんかいっぱい穴があいている。
通信がファムに入った。
「あー、死ぬかと思った」
桃果の第一声であった。
「さすが外宇宙航行技術。完璧な放射能防御技術ね」
宇宙は放射能の吹きだまりである。
放射能を完全に制御できなければ、長期間にわたる航行などできるはずがない。
ヴィムが、息をするように宇宙船を補修してきた内容は密封作業である。潜水艦のような。
ヴィムが改造した艦船に、潜水艦能力がないとは一言も言ってない。
次話「戦いの顛末」
「ご苦労様でした!」
お楽しみに!




