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50.対潜兵器

 駆逐艦、ブレハートの艦長室で、ヴィムは桃果の前に立った。紫に変色した体色で。


「モモカよ、艦隊に新たに装備した対潜兵器のレクチャーを行う。艦上兵器に比べ、かなり見劣りするので、よく聞いておけ」


 ヴィムはいつもより真剣度が上がっている。

 背中に突き刺したハイポネックスが、いまヴィムを動かす原動力になっているのだ。


「ゼクトールが持つ対潜兵器は、魚雷である。魚雷しかない」

「普通の魚雷じゃないんでしょ?」


「まあ聞け! 発射管自体、いろんなところのいろんな場所に設置されている。使い勝手がいいようにだ」

 事実、艦底なんかにも射出ハッチが付いていた。


「しかし中身は魚雷である。時速400キロで水中を進むとか、対魚雷魚雷を装備してあるとか、息を吸うようにして反則しているだけである」

「それのどこが見劣りするのよ?」


「いいから聞け!」

 ヴィムは語気を荒げた


「我らは宇宙に生きる者。ブレハート・ドノビ殿以外、水圧を知らない。水圧に対応する部材を持ち合わせていない。よって、今回装備する魚雷群は、人類科学に準じる浅いところでしか使えない代物だ」

「え? なにそれ? 深海に潜む敵原潜に使えないの?」


「機能の一部を見ればオーバーテクノロジーなんだろうけれども、ゼクトールの技術レベルからすれば水圧を苦手とした魚雷だ。宇宙に水圧なんてないから、データーがないのだ」


「ブレハート――」

「ブレハート殿の武器を移植すればよいと思っているのだろう?」

 桃果が言おうとしたことを先回りして言った。


「10日ほどあればそれも可能かも知れないが、間に合わんだろう?」

「間に合うはずないでしょ?」


「ブレハート殿やファム殿に使われている技術は、高度なもの。さすがのワタシも、一晩や二晩徹夜したところでコピーできるような簡単な作りではないのだ。よって、現在の地球の素材を用いて作れるのには限りがある。ワタシもできるなら、完璧な魚雷を作りたい。それを解ってほしい」


 桃果は理解した。そして選択できる戦いの幅が小さくなったことも理解した。


 ……むしろ悩まなくて良いかも?


「原潜アモスを浅いところまで引き上げてから魚雷を撃つしかないのね?」

「そういうことだ。解っていると思うが、アモスが海面近くまで浮上するということは、核ミサイルを撃つ準備が整ったという意味を成す」


 潜水艦からミサイルを撃ち出すには、その仕組み上、ある程度水圧が小さくなくてはならない。魚雷が活躍できる深度でもある。


 ヴィムが話を続けた。

「今回こそ、時間がない。ブレハート・ドノビ殿に全てをゆだねる事を推奨する」


 桃果は少しだけ考えていた。そして、新たな考えを否定するかのように首を振った。

「やっぱだめよ。ブレハート様に頼むって事は、原潜アモスを行方不明にするって事、つまり『裏』で戦い、闇に葬るってことでしょ? そんなことしたらケティムは、次々と密かに原潜を繰り出してくるわ」


「やはりだめか? 『表』で戦わないと」

「目に見える形で、決着を付けないとダメなのよ。陰湿な戦いだけは、なんとしても避けたいわ」


 ヴィムが黙った。小さくまとまり、何かを深く考えているようだ。


 やがて体を伸ばした。


「モモカよ、あなたは陸上戦の次に海中戦を苦手としてないか?」

「え?」

 ぎくりと反応する桃果。


「図星か? なるほど。……どうせ戦車は泥臭いから興味ない、の延長線上に、潜水艦は華がない、という理由で重視してこなかったのであろう?」

「え?」

 図星だった。


「それでも行くというのか?」

「行くわ」

 迷いのない二つ返事だった。


「あたしは、あたしの家族を守るために戦うのよ!」


 またヴィムが黙り込む。

 そして、


「トーヤ司令を守るためだろう?」

「え?」

 桃果の頬がほんのりと赤い。


「この事をトーヤ司令に告げ口してもいいんだぞ」

「うっ、それは……」

 桃果は黙り込んだ。


 ヴィムもまた黙り込んだ。

 かなりの時間、二者の間に沈黙が流れた。


「しかたない。黙っておいてやろう」

「ヴィム……」

「必ず生きて帰れ。でないとトーヤ司令は地球を破壊する行動に出るぞ」


 桃果は照れて笑った。

「必ず帰るわ。みんなを連れて必ず帰ってくるわ」




 

「ところで――」

 話が一段落したら、気さくな口調でヴィムが聞いてきた。


「策はあるんだろうな?」

「結構エグイ作戦ならね!」

 いつもの狐目で答える桃果であった。



次話「報道」

「――あれがコマンダー・ゼロ――」


お楽しみに!

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