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5.作戦の時点で反則

「じゃあ一旦整理するわね」

 桃果が、白板を引きずり出して、マジックで文字と図を書き出した。


「現在、ゼクトールが抱える問題点」

 番号を振り分けられていない一つ目を指す。


「恒久的な財政難は、この際目をつむるとして……さしあたっての問題は……」

 財政難と書かれた項目をぬれ雑巾で跡形もなく消し去る。


「一つ目は、ケティム艦隊の南下」

 差し棒でペシペシと①を叩く。


「二つ目は、排他的経済水域でのガス田開発」

 ②をペシペシする。


「三つ目はエンスウがらみの『ゼクトールの虐げられた少女像』ね」

 ③をバシバシ叩く。他の二つより長く叩いております。


「三つ目はエンスウとパイロンに任せておきましょう。本国は様子見という事で」

 様子見と言いながら、桃果のこめかみに青筋が浮いている。対処方法がないからだ。


 あと、桃果は変化球に弱かったからだ。


「我々がすぐ対処できる点は、二のガス田開発ね」


「……どう対処するおつもりですか?」

 桃果の上司たるミウラが、敬語でものを尋ねている。


「そうね」

 カカカッと音を立て、白板に絵が描かれる。


 スルメイカの唐揚げ。


 しかし、九人の委員長達は、何かと聞かない。


「航空機戦力による爆撃が手っ取り早いわね」

 戦闘機のつもりだったらしい。


「戦闘機による爆撃ですね!」


 満を持してミウラが発言する。桃果の画力の無さを指摘する勇気はない。

 なぜなら、延髄を喰らった国王である桃矢が桃果の足下で伸びたままだったからだ。外務委員長のノアも、国王の横で伸びている。おそろいである。

 各位委員長は、ちょっぴりだけどノアが羨ましかった。    


「戦闘機といえば……」

 ミウラは国防委員長である。国防委員長は、国防軍ありきの存在である。

 ゼクトールも軍事力を有している。遺跡の超兵器は置いといて、通常兵器も存在していた。


 海軍所属高速艇三隻。ただし木造。

 陸軍兵力は三ヶ月前に自警団より昇格した中隊規模が一個。平均年齢15.7歳。女子率百パーセント。


 そして問題の航空戦力はジェット戦闘機が三機。


 レシプロ機ではない。ましてや複葉機でもない。歴としたジェット戦闘機。それもミグ。

 ただし、17―PF改良型。

 鯉のぼりに羽根をつけたビジュアル。骨董品とも言う。


「空軍基地へ!」

 桃果の一言で、皆は場所を移した。


 

 ここはゼクトール空軍基地……兼、国際空港。


 ゼクトール空軍正パイロット、赤い三連星の三人(平均年齢14歳)を先頭に、整備兵達(平均年齢18.3歳)もが、並んでお出迎えだ。


 格納庫より引っ張り出されてきたのは赤いジェット戦闘機。


「あれ?」

 その勇姿を見て、桃矢が驚きの声を上げた。


 機種変されていた。

 大型化していた。


「フランカー?」

 Su33シーフランカー。

 ケティムが空母にて運用していた機体である。

 先の戦争における鹵獲機だった。


「ミグは?」

「売ったわ! 先の防衛戦後、合衆国の好事家に三機まとめて売った。凄く良い状態だったので、結構な金になったわ!」

 どういう伝手でか不明だが、桃果が中心になって中古販売したらしい。


「性能が上がってよかったじゃない? しかもタダよ!」

 鼻の穴をおっぴらげ、腰に手を当て胸を張る桃果。


「で、何回か飛んだの?」

 王宮を精密爆撃したのはフランカーである。

 桃矢にとってフランカーの爆音は恐怖の対象。

 戦争後、その音を一度たりとも聞いたことがない。


「まだ飛んでません」

 三連星の隊長、ノイエ中尉が首を振る。

 トータル飛行時間27時間を誇る15歳の美少女だ。


「計器が多すぎて、どれがどれだかさっぱり……」

 副リーダーのタマキ少尉が両手を挙げてヤレヤレのポーズを取る。14歳の少女らしいさっぽありとした態度だった。


「わたし、背が低くてコクピットから前が見えません」

 最年少13歳のグレース准尉が泣きべそをかいている。


 予想を大きく外した現状に、桃果の額に皺が入っている。

 桃矢は、とりあえず笑顔をキープすることにした。


「整備兵! 機体の調子はどうか?」

 一人きびきびとしたミウラが、柳眉を吊り上がらせている。


「三日前に機体点検口を発見しましたが、背が届かないのでまだ開けていません。ですが、機体色の再塗装はバッチリです!」


 やり遂げた感マックスの整備兵達が、男前な笑顔を浮かべる。

 白いネコが、桃果の足下を駆けてく。のどかな風景。


「よし!」

 桃果が気合いのこもった声を出す。


「海軍ドックへ向かう!」

 桃果が西を指さした。



 海軍ドックはタミアーラ地区、神殿半島へと(自転車で)向かった。


 係留ドッグは、大量の椰子の葉っぱで覆われていた。

 万が一の上空偵察に対処して、その目を隠すためだ。

 係留ドッグには、鹵獲品である艦船が二隻ばかり並んでいた。

 軽空母……もとい、戦術航空巡洋艦と駆逐艦だ。


「応急処置としてっ、船体に空いた穴を塞ぎっ、排水して浮かぶようにはなっておりますッ!」

 ドック責任者の少女が、ガチガチに緊張して直立している。


「参謀長閣下! 空母艦内より、こんな物が!」

「戦術航空巡洋艦な。どれどれ?」

 桃果は責任者が差し出した目録を覗き込んだ。


「え? クラスター爆弾?」


 不発弾により一般市民が犠牲になっている爆弾。その数は本来の目的である軍人の被害人数より遙かに多い。対人地雷と並び称される非人道通常兵器である。

 そのため、現在の世界では、不完全ながらもクラスター弾禁止条約が多数の国で締結されているのだ。


 ケティムは、クラスター弾禁止条約に参加してない数少ない国の1つ。だから、空母内にあっても不思議じゃない。


「でもねぇ、ケティムのクラスター弾は、悪どいことで有名だから……」

 桃果のセリフは歯切れが悪かった。


「どう悪どいの?」

 リストを横から覗き込んでいる桃矢が聞いてきた。


「クラスター弾の問題点は、不発の子爆弾が即対人地雷になるってことなの。そこら辺に巻散らかした子爆弾がすぐ爆発しなくて、人が踏んづけちゃったりしてから爆発して被害が出てるのよね」


 爆弾に不発弾は付きものだ。


「ところがケティム製は特に不良率が高いの。それゆえに、時限式クラスター弾だとか、わざと地雷を詰めてるんじゃないかとか言われているのよ」


 タチが悪い。

 不良品を逆手にとるところが賢いと言えるのかもしれない。


「解体するにしろ危ないから、取りあえず仕舞っておきなさい」

 桃果は、これっきりクラスター弾の事は忘れてしまったのだが……。


「じゃ、状況の説明してもらいましょうか?」

 桃果の対応は、あっさりしたものだった。




 二ヶ月前、宇宙戦艦ファムによる問答無用の攻撃により、航行不能とされたケティム艦艇群。

 沈んだのも含め、こっそりと引き上げ、宇宙船タミアーラの船内収容所にて隠蔽しているのだ。


 ケティムが派遣した艦隊の明細は駆逐艦が3、フリゲート艦が11、アドミラル型空母が1、強襲揚陸艦が2、兵員輸送艦1、潜水艦1である。


 逃げおおせた、というか、人道的配慮により見逃したのは兵員輸送艦と強襲揚陸艇のみ。

 残りはゼクトールの領海に沈んだ――事になっている。


 サルベージや曳航、……そしてに関しては、ファムや潜液艦ブレハートを使ったが……、修理は人の手である。

 この場合、人の手とは女子供と老人のことを指す。


「だから、板を打ち付けてあるのね」


 痛い物を見るような生暖かい目で、修理箇所を見つめる桃果である。バッテンに板が打ち付けてある。あれでよく浸水が防げるものである。


「板の向こうは溶接してあります。溶接歴八十年を誇るゲン爺さんの神業です!」

 甲板から、ゲン爺さんらしき白髭の老人が顔を出し、手を振っている。


 鋭い目をした老人であるが、ふくよかな顔に白くて長い眉毛と丸く整えた顎髭が、柔和な印象を与える。

 ホッホッ、手こずっとるようじゃな。と言って背後から現れる老師のイメージ。

 十三の頃から溶接に手を出したとして、それから八十年。九十三歳以上の高齢である。

 船の修理が先か、ゲン爺さんが天に召されるのが先か、時間勝負となっている。


「こちらを動かしますか?」

 至極真面目な顔で、ミウラが桃果に問う。


 動かせるものなら動かしてみなさいよ! と、桃果は言わず、言葉を飲み込んだ。

 代わりに、別の質問をぶつけた。


「燃料あるの?」

「領海を一回りするくらいなら残ってますが……」


「電子設備は?」

「ケティム乗員脱出のおり、破壊されたり海水に浸かってダメになったり……」


「全て健全であったとして、操舵できる人員は?」

「これから教育していけばなんとか!」


「なんとかなる? 教官は?」

「教官はいませんが、代わりに根性があります! 我らにはゼクトール軍人魂があります!」


「おやつの時間ですよー!」

「わーい!」


 わらわらと作業員の女の子達が集まってきた。お茶を入れてお菓子を頬張る。各委員長達もおよばれだ。


 国家存亡の危機の中、心和むオアシスのような光景であった。


 桃果とミウラが、どちらからともなく見つめ合っていた。黙ったままだ。

 先に目を外したのは桃果だった。負けを認識したのだ。


「そうね、その辺のことは、わたしが何とかするわ。当てがない事もないし……」

 今日の桃果は我慢強かった。




 日が西に傾き、オレンジ色になった頃、一同はタミアーラの作戦司令室に戻っていた。


「さしあたって、直接の脅威はケティムの艦隊ね。これをどうするかだけど……」

 桃果が言葉を一旦切った。


「前回は世界が注目してなかったから、タミアーラの超兵器を使用できたけど、今回は使えないわ」

 桃果は、指揮棒をへし折らんばかりに両手でたわめていた。


「なんで? ケティム艦隊程度ならファムさんかブレハート君を使えば簡単じゃん?」

 テーブルにお行儀悪く足をのせたエレカが、鼻の下を指で擦っている。


「それが、そうはいかないんだよ」

 桃矢も難しい顔をしている。


 各委員長のほとんどは、頭の上にハテナマークを浮かべていた。


「ケティム戦での勝利、そして合衆国艦隊を完全制圧した手段が、謎となっている……ですね?」

 腐っても軍人。ミウラが桃果の言いたいことを代弁した。


「そういう事よ! さすがミウラ委員長、花丸をあげるわ!」

 いいな、いいなー。各委員長達の間から、感嘆の言葉が漏れる。


「はっ! 有り難き幸せ!」

 起立して敬礼。何度も言うが、桃果の役職は、ミウラの下なのである。


「ではモモカ様、どのように対処なさるおつもりですか?」

 宰相ジェベルお姉さんが続きを促す。


「桃矢!」

「え、なに?」

 シフォンケーキをもぐもぐさせながら、桃矢がこっちへやってきた。


 その首に腕を回し、締め上げる桃果。


「反則技を使うわよ。力を出しなさい!」


 今までが反則技ではなかった、と言い切るつもりらしい?



 ゼクトールが蠕動しはじめた。



次話「ケティム民主共和国」

お楽しみに!

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