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49.核兵器

「世界中から非難ごうごうじゃ。海外に住むケティム系住民も苦言を呈しておるくらいじゃからな」


 ミルクチョコのつもりで口に入れたらビターチョコだったかのような苦々しい顔をする9歳児イルマ。


「バカな!」

 桃矢が叫んだ。


「公開核攻撃? バカじゃないの!」

 桃果も目を吊り上げていた。


 日本人である桃矢と桃果にとって、核攻撃というワードは禁忌中の禁忌である。


「追い詰めたのは我らであるがの。国民に向けた放送じゃ。国民の戦意は高騰しておるそうじゃの。ケティム政府は未来を捨て、過去をとったようじゃ」

 イルマは懐手をしたままだ。


「マジで核を使えば、国際世論がどうなンのか? 連中、理解していやがるのか?」

 エレカが椅子に胡座を組んでいた。


「連中、使った後の事を考えているのか? そもそも、核兵器は、核攻撃に対する抑止力ではないのか?」

 ミウラの握った拳が震えている。


 桃矢は真っ先に落ち着きを取り戻していた、

「ケティムのはったりじゃないの?」


「炎の女神にして全てを拒絶する戦神、ファム・ブレイドゥ様よりのご神託も下った。これは事実である」


 ファムの監視システムが、原潜アモスの動きを捉えているとの事だ。

 核ミサイルも搭載している。これも確認済みだ。


 みんなの目が、自然と桃果に集まってくる。

「ケティムの原潜による核弾道ミサイルは、海中発射できるタイプ。こちらの対潜能力に問題はないわ」

 桃果はブツブツと呟いている。


 ザッと音を立て、テントの膜が開いた。


「フッ、話は聞かせてもらった」

 身長1メートルのスライム、メカニック担当ヴィム・マスクである。


「整備は完璧だ。食料さえ積んだらすぐ出発できる!」

「すぐに対潜能力を強化して。四隻共よ! もちろん、フランカーもね!」

「え?」

「明日21時に緊急出撃。あと28時間ね」

「え?」


 もう用は無いとばかりに、ヴィムに一瞥もくれず、委員長達に向き直る桃果。

「弾道ミサイルの射程に入る前に敵原潜を沈める! 発射前に沈めるのよ! 総員起立!」


 ザシュっと音を立て、全員が起立、直立不動となる。桃矢もだ。


「ちょっとおぬしら待て待て待て!」

 イルマが両手をパタパタと振ってテーブルの上に這い上がった。そうしないと、小さくてみんなの目に入らないのだ。

「ファム様かブレハート様を使って仕留めちゃだめなのかの? 事が事じゃし」


 桃矢が息をゆっくり吐いた。

「核兵器ってのはさ」


 そして話し始める。


「人類が作り出した魔王なんだよ。だから、人類の手で仕留めなきゃならないんだ。それが仮初めの手であったとしてもさ。人の手で治めるって事に意味があるんだよ」

 フニャリとした顔のまま、さらっと喋る。


「そういう事ね」

 ニヤリと桃果が笑う。


「力には力を。バカにはバカを。過去の汚点は未来を生きる者が掃除するしかないのよフォッフォッフォッ!」

 桃果が変身した。


「あたしとしては、ファムやブレハートの事を隠し通したいから、って理由の方が大きいけどね。たまには青臭い理由に付き合ってあげても良くてよ」


 うんと頷く桃矢。

「全国民へこの事を通達。人手を集めて下さい」


 そして腕を振り上げる。

「神殿半島へ移動!」


 全員、仮設王宮から飛び出した。

 表に止めてある自転車に乗車。一斉に神殿半島へ走り出す。

 桃矢は最後尾。

 真剣な眼差しで、みんなの可愛いお尻を見つめながら、ペダルを漕ぐ足に力を込めるのであった。




 神殿半島内、タミアーラの第3ブリーフィングルームにて。

 世界地図を貼り付けた外宇宙航行用液晶スクリーンを背に、桃果が指揮棒をビュンビュン振っている。


「ケティムの潜水艦搭載核弾道ミサイルは足が短いわ。本国とゼクトールの中間辺りまで進出しないと、目標に届かないの」


「では、位置が特定できれば、迎撃も可能なのですね?」

 ミウラが合いの手を入れる。


「そのとおり!」

 大きく頷く桃果。


「ではどこら当たりが……」

「ここしかないでしょう? ケティム中継基地。この近辺の海域よ!」

 地図上の該当海域を桃果は指揮棒でペシペシしている。

 

「連中は、おそらく発射シーンをテレビ放映するでしょうね。国内向けのニュースとして。それには中継基地が便利なのよ。ここに到着する前に叩く!」


「そう都合良く来るかな? 決めつけるのはまだ早くないかな?」

 疑問の声を上げたのは桃矢である。


 こちらに都合のよういように物を考えるのはよくない。過去、そのようにして――


 イルマが部屋に入ってきた。

「ファム様から伝言じゃ。目標は一直線に中継基地へ向かっておると」


 宇宙からオーバーテクノロジーの目で監視するファムに間違いはない。


「ふふふ、ケティムのことは任せてよ。浅い連中の考えてることなんか、全部お見通しよ」 桃果は腰に手を当て、高らかに笑い出す。


「さっきクシオさんに計算してもらったけど、明日の出撃予想時間と、ゼクトール艦隊の速度と、原潜の速度を計算すれば、どうにかミサイル発射前に中継基地に到着できそうよ! ざまぁごらん! オーホホホホッ!」

 魔王のような高笑いが部屋に響く。


「さて、当面の問題は、どうやって敵の目を欺くかね!」

「なんで?」

 疑問符を提示する桃矢。


「海上巡航速度、時速240㎞。衛星軌道上からの海面下探査能力。ゼクトル艦隊のチート性を誤魔化さなきゃ、戦後が大変よ」


 よし、と声をかけ、桃果は立ち上がった。


「だれか! ヴィムを連れてきて頂戴! 一世一代の大仕事を頼まなければならないわ!」

 たぶん、一世一代の大仕事はこれで3回目ほどだろう。4回目かもしれない。


 ……ヴィムのHPはもうゼロよ。





 出撃まで残り24時間。

 星が降る夜の浜辺に桃矢と桃果が並んで座っていた。


「今回、僕は残る」 

 桃矢は、星空を長めながら、そっと桃果に言った。


「ここに残れば、核の炎に焼かれるかもよ。船にいた方が安全よ」

 桃果も星空を見上げたままだ。


「事が事だ。判断する人間が少ない方が緊急事態の対応が早い」

「……本心は?」  

「国王なら一番危険なところに身を置くべきだ」


 それは、戦術的に間違った考えだろう。

 青臭い思想だ。


「桃花ちゃんなら任せて大丈夫だ。ファムやブレハートもいるし、何も心配していない」

 桃矢は桃果の横顔を見て、にっこり笑った。


「ふん! 当たり前のように勝ってみせるわ!」

 桃果は空を見上げたままそう言った。


 桃矢は顔を夜空に戻した。


 宝石箱を散りばめたような星空。

 ずっとそのまま、二人は夜空を見上げていた。

 寄せては帰す波の音が、二人の耳に心地よかった。

 




次話「対潜兵器」


「必ず帰るわ。みんなを連れて必ず帰ってくるわ」


お楽しみに!

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