41.日本
何じゃかんじゃあって、桃矢とミウラは、日本行きの大型旅客機に乗っていた。何とか乗っていた。
ミウラは一人で護衛を引き受けると言い張っていたが、これもなんじゃかんじゃあって(主に桃果の舌先三寸)黒ファールと白ファール、二人の護衛付きとなった(ミウラにしてみれば護衛は三人であるが)
リーズナブルな夜行便。日本到着は早朝である。
桃矢とミウラが座るエコノミーシートの前と後に、白黒ファールがそれぞれ陣取る。
三列シートの窓際に桃矢。真ん中にミウラ。通路側に人はいない。
普通の人なら、真ん中を開けて両端に座る。その方が広々と使えるからだ。
しかし、根が真面目なミウラ。指定された席と違うから、との理由で、融通を利かさない。
桃矢は、ミウラと肩や肌があたって緊張している。
そんなこんなで、日本の領空。乗機は着陸態勢に入った。
なんじゃかんじゃあって(このフレーズ多いな)、拉致同然で日本を発ったのは梅雨前だった。季節は移り、秋まっただ中の日本である。まだ暑い。
「私は帰ってきた」
日本のとある国際空港、第一ターミナルに横付けした飛行機より、空港施設へ他の乗客に混じって足を進める桃矢とミウラ。
桃矢は行きと同じ夏の学生服。長旅で少々ヨレている。
ミウラは、バッツンバッツンの肩パット入りまくりの軍服。下はタイトスカートに軍用編み上げ靴。
ティアドロップ型のサングラス(大門モデル)を掛けている。
その二人の後に続くのは、女性兵士に化けたファールである。
二人とも身長180センチ。横長の黒サングラス。ミウラと同じデザインの軍服。下はピッチリとしたズボンにジャングルブーツ。こっち二人はサングラスを掛けてないが、単純に目が怖い。
ちょっと近づきたくない人種である。
荷物受け取りで、普通にトランクを受け取り、税関を普通に通った。
「ゼクトールは紛争地帯ですよ」との一言だけついてきた。
ミウラが銃器を持ち込んで大騒ぎ。なんて事にもならず、無事到着を祝った。
「久しぶりの日本だけど、あんまし実感湧かないなぁ」
桃矢は日本語で書かれた案内を見ている。
「ゼクトールでも日本語が公用語になってますからね」
トランクを引っぱりながら、ミウラも日本語の案内板を眺めていた。
「ここ出たら自販機あるよね? ジュース飲もうかな?」
「わたくしといたしましては、一度ナロウバックスコーヒーでサンドウィッチを食してみたいものです」
ほっと一息ついた桃矢とミウラは、頬の筋肉を弛めながら(二人だけ弛めながら)、壁の外へ出た。
あっちだこっちだと、空港フロアをうろついてナロウバックスコーヒーを発見。
キャラメルマキアートと、シュガードーナッツと、ラズベリーレアチーズパイをむさぼり食った。
なぜか白黒ファールも食べている。
腹もくちたので次は移動だ。
空港に隣接する私鉄に乗って、別の私鉄に乗り換えて、ある地方都市へ着く。15分歩いて、ローカルJR駅に到着。そこで30分待って列車に乗った。15分、列車に揺られて最寄り駅へ着いた。
ここから歩きで15分である。
ずっと無言を通してきたファールの黒い方が初めて口を開いた。
「ここまで誰にも声を掛けられませんでした」
奇異の目で見られたことはあった。主にミウラとファールが。
なじられたそうな目で眺めている大きなお友達もいた。
こっそり「モゲロ」と呟く青年もいた。
しかし――。
「ゼクトールの偉大なる王が、日本を訪れたというのに、なぜ、この国の指導者達は、動かないのでしょうか?」
……そう言われればそうだ。
腐っても一国の元首が来日したのだ。
「日本へ行くって、日本政府に言った?」
桃矢は、ミウラに問うた。
「いいえ」
「……仕方ありませんな」
二人のファールは納得いったようだった。
黙々とトランクを転がしながら歩き続け、やっとのことで桃矢の実家がある町に着いた。
あの角を曲がれば、桃矢の実家が見える。そして、桃果の生家も……。
角を曲がった。
桃果の家の前を通る。
おそるおそる玄関に顔を向ける。
「管理者、名労ハウス」
売りに出されていた。
「そうか、おじさんとおばさんは、離婚したんだっけ……」
桃果は二人に三行半を叩きつけたとか言っていた。一人で生きるから、かまわないでと電話していた。
「ふう……」
ため息をついて首を元に戻した。
お向かいさんが芦原家。
「芦原」
懐かしい表札。
それに並んで、
「芦原モータース」
それに並んで、
「ゼクトール大使館」
「え?」
桃矢は、手に持った荷物をバッタと落とした。
「え? ゼクトール大使館? え?」
指で指し示しながら、目を丸くしてミウラの顔を見る。
「はい。間借りしております」
ミウラは、当然であろう、といった顔で、呼び出しチャイムを鳴らした。
「ここは我がゼクトールの、日本における最大の拠点なのです」
インターフォンから懐かしい声が聞こえた。
『桃矢?』
……母の声だ
玄関ドアの向こうに母がいる。
「うん、僕」
帰ってきたよ……とは言わなかった。
トタトタトタと足音が、ドアの向こうから聞こえてくる。
勢いよくドアが開く。
「お待ち申し上げていたでスー!」
知らないけど濃いキャラクターの少女がドアの向こうに立っていた。
マザーボードと光学ディスク交換53、590円なりo...rz
次話「実家」
お楽しみに!




