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4.ゼクトールの外交官

「報告はこれでお終いだけど……どう落としますかね? モモカ参謀長?」

 おちゃらけているが、エレカは静かに怒っていた。


「……そうね、エンスウが呼ばれているのね」

 桃果の眉が、時間と共に吊り上がっていく。


「……だったら、エンスウに出席してもらいましょうか。盛大にマスメディアに取り上げてもらいましょう」

 桃果は、悪の笑みを浮かべていた。


「今すぐ合衆国のエンスウに電話してちょうだい。今すぐ!」


 電話が繋がった。


『モモカ様――』

「あなた、除幕式の招待状を受けなさい」

 挨拶抜きで、有無を言わさず命令を発した。桃矢を置いてきぼりで。


『え? りょ、了解しました』

「心配る事はないわ。時間が過ぎるまでじっと座っていれば良いのよ。気の利いた演説なんかする必要なんかないわ。あなたは黙っていればいいの!」


『了解しました』


「そこにお兄ちゃんのパイロンもいるでしょう? 代わりなさい」

 パイロンとはエンスウの兄で、外交官たるエンスウの護衛武官を担っている。こいつも世界基準でいうところの未成年、十五歳である。


『パイロンです!』


「エンスウの護衛は止めないけれど、武器を持っちゃダメ。服装も、開襟シャツと短パンにしなさい!」

『り、了解しました』


 パイロンは、腹にダイナマイトを巻いて、国際社会へ躍り込んだ過去を持つ漢だ。

 全世界テレビ中継中の国連総会で、ケティム代表に殴りかかった猛者である。


 この少年に油断は禁物だ。


「桃矢陛下も期待しているわ」

『はっ! この命尽きるとも!』

 さらに釘を刺す形で、電話会談は終了した。


「よく考えれば、国際電話なんて盗聴し放題だったわね!」

 桃果の口が尖っている、


 何でも勢いだけで動いてはいけない、というよい見本である。

 ……この見本を止められなかったから、ケティムとの戦争に突っ走ったのだが……。


「まあなんというか……嫌がらせされたんだから、堂々と嫌がらせ返ししてやればいいわ」

 後味の悪い結論で、幕が閉じた。





 一方、こちらは合衆国国連本部近くの賃貸アパートメントの一室。

 ゼクトール大使館兼、国連代表者宿舎である。


「はっ! この命尽きるとも!」


 肩に力が入りまくった少年が、受話器を置いた。目が険しい。どう見ても生き急いでいる若者の目だ。


 彼の名はパイロン・シャオン。ゼクトールに多く産出される美少年である。


「お兄ちゃん、聞こえていたわ。そんな顔するほどの事じゃないでしょ?」


 脇に立ち、兄パイロンを見上げている小さい美少女。エンスウ・シャオン国連大使兼ゼクトール大使である。

 東洋系の顔立ちを持つ、十三歳のちっこい少女である。もちろん微乳だ。


「エンスウ。お前にはわからなかったのか? モモカ参謀長の言葉の含みを?」

「え?」

 エンスウには、なんだかわかっていない。


「この電話は盗聴されている。だから、本国と会話をする時は、その行間を読まなくてはならない。外交官の基礎だぞ」

 基礎だろけど、本国はそこまで求めていないだろう。


「除幕式会場は敵の本拠地。卑劣な罠が仕掛けられていると考えておくべきだ」

 ケティムは、わざわざ敵勢力の一角を呼んだのだ。ここぞとばかりに罠を仕掛けてくるだろう。


「そんなことくらい、モモカ様ならとっくにお見通しだ。だのにわざわざ国際電話をかけてこられた」

 勢いでかけたとは、とても聞かせられない。


「さすが、第一婦人。国母にふさわしいお方!」


 一般的に……て、ゆーか、ゼクトールの全国民は、桃果が、桃矢の正妻になるのは時間の問題とみている。

 それ故に、桃果に対し、国王並みの忠誠を誓っているのである。


「お前も手柄を上げ、トーヤ陛下の第二……は無理っぽいか?」

「第二婦人は国防委員長のミウラ様で固いところですね」

「じゃ第三婦人……はノア外務委員長だよな」

「ノア様を裏切れません」


 ノアは、親友というだけでエンスウを国連大使の大役に抜擢してくれた大恩人である。

 ゼクトール気質として、恩人は死をもってしても裏切れない。


「……せめて第五婦人くらいは狙え!」

「はい! 我が一族の名誉にかけて!」


 だいたい、そういう内情である。あとは察して下さい。



 さて、と……。

 パイロンが襟を正した。


「考えなきゃいけないのは、俺の服装。『開襟シャツ』と『短パン』だ。これがどういうことかわかるか、エンスウ?」


「わかんない」

 エンスウ、既に涙目である。


「お前も国連大使なら、これくらいのことは理解できるようになりなさい」

 パイロンの眉が優しい角度になった。


「それは、武器を隠せないという意味だ。そして、防具も装備できないという事だ」


 パイロンは天井を見上げ、そっと目を閉じた。

 エンスウは、嫌な予感に小さな体を震わせていた。


「ケティムは、我らゼクトールを悪者として祭り上げている。モモカ様にとって、……いや! ゼクトールにとって必要なのは、逆転のきっかけだ! 戦争の正当性の証明だ!」

 話が変な方向へ向かいだした。


「除幕式の現場で、ケティムが仕掛けた罠にはまって人が死ねば、どうなるだろうか? それもテレビ中継中に……」

「お兄ちゃん!」

 エンスウの目から涙が一つこぼれた。


「寸鉄を纏わぬ無防備な人間が、ケティムに殺される。これ以上に立派な理由はないだろう? なぁエンスウ?」

 パイロンが柔らかく笑った。


「いやぁー! お兄ちゃん、死なないで!」

 涙でぐしゃぐしゃになった顔を兄の胸に埋める妹。兄からちょっぴり男の匂いがした。


「バカヤロウ!」

 パイロンはエンスウを冷たく突き放す。


「お前もゼクトールの外交官! トーヤ陛下より国家使命を授かった時点で、命を投げ出す覚悟は決めたはず! エンスウ!」


 パイロンはエンスウの目を覗き込んだ。

「兄に続け!」

 パイロンはゼクトール海軍式の敬礼をした。


「はいっ!」

 エンスウも敬礼を返す。

 もう、涙など流していなかった。



 当然であるが、桃果も桃矢も、そんなことはこれっぽっちも望んでいない。それどころか、そこまで深く考えもていない!





 そして、再びゼクトール。

 もう一つの重大事件が起きていた



「みすみすケティムに、ゼクトールの辱めを許してしまいました。あまつさえ、モモカ様の手を煩わせることに! 申し訳ありません!」


 外務委員長のノアが、膝を付き隷属の礼を取っていた。日本で言うところの土下座に相当する行為だ。


「これはあきらかにエンスウの失態。エンスウは我が配下。我が配下の失態は我が失態」

 話が焦臭くなってきた。


「失態は死をもって償うのみ! それが我らゼクトールの生き様!」

 ノアが、がばりと顔を上げた。手には回転式の大型銃。それをこめかみに当てて……。


 発砲!


「危ないって!」

 桃矢が、ノアの腕にしがみついていた。


 ジャンプ一閃。桃果がノアの延髄に蹴りを入れていた。延髄斬りである。


 ついでに、桃矢の延髄にも蹴りが入っていた。ナイスコンビネーション!


 発砲された弾丸は、後方のスクリーンを砕くに納まった。

 桃果は、舌を出して倒れている桃矢の頭を踏んづけ、気を失っているノアの手から拳銃を取り上げた。


「ああああ、あんたらが、こんなだからケティムに付け入る隙を与えるのよ!」

 桃果の怒りが爆発しまくっている。


「我らの忠誠は犬のごとし! 王の言葉は、神のご意志なり!」

 その場に居合わせた者で、桃矢と桃果を除くもの全てが声を揃えた。国の標語なのだろう。


 こいつら目を離すと、とんでもない事をしでかすアブナイ国民性を持ているのだった。





言っておきますが、作者は民主主義者です。

誤解されませぬように。

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