39.戦争の行方②
ここは御前会議場(テントの中)。
時間は夜。桃矢と桃果が捌けた後、再び委員長9人が集結した。
この話だけは、二人の前でできない。
ひとしきり雑談の後、今宵の持ち回り議長、商務委員長のジムルが、場を仕切りだす。
「さて本題です、トーヤ陛下とモモカ様は、いつご結婚なさるのでしょうか?」
赤い長髪。赤いアンダーフレームの18歳。ジムルは、眼鏡の位置をこれ見よがしに直した。
実は、割と切実な問題である。
桃矢との関係、並びにこれまでの実績、そして国民よりの支持を合わせて鑑みて、桃果が桃矢国王の正婦人、つまり国母となる事に異を挟む者はこの国にいない。
日頃、立場的に意見の衝突する各委員長であるが、この件に関してまったくの同意見である。
世継ぎ問題……もある。
……のだが、それだけではない。
ゼクトールの王は、正妃の他に、第二、第三婦人と、複数の妃を娶ることができる。のである。
ちなみに、妃の数は無限。その気になれば国中の女の子を我が物とできる。
パンツかぶり放題、……もとい、
恐るべし王の権限!
王の愛を勝ち取った妃は、強権を有することになる。
そしてご多分に漏れず、その力は、一族の栄華に直結する。
ゼクトールの政治を司る委員長一族は、二千年前より、綿々とその血を受け継いでいた。
外宇宙航行用宇宙船タミアーラの副船長が、ジェベルのオルブリヒト一族の祖であるように。操舵士が、エレカのフリフラ一族の祖であるように。砲術士がミウラのトール一族の祖であるように。等々……。
委員長に任命された女の子達は、一族の信を背負っているのだ。
正王妃の地位は無理だとしても、なんとか副王妃の地位に就きたい。
さて、物理的見地から、王に近い場所にいる者が有利である。
まさに委員長は、副王妃候補のベストポジションでもあるのだ。
ましてや現国王は、なかなかのゼクトール女子好みの顔をしている。前国王ゼブダのような、ハゲデブキモオヤジとは正反対。性格も良い。立派である。
委員長達の目はギラついていた。
「日本では、男は18歳から、女は16歳から結婚が認められています」
レポートするのはミウラである。
桃矢と同じ17歳。南国特有の浅黒い肌。短く切った金髪を後ろに撫で付けている。アイスブルーの瞳も相まって、見る者に氷の印象を与える美少女だ。
「トーヤ陛下は17歳。来年でしょうね、結婚を意識するのは」
桃矢をプロファイリングしたのはジェベルである。
最年長24歳のお姉様。白い肌にブラウンの長い髪。黒縁眼鏡をかけたいつもにこやかなお姉さんだ。とにかく胸とお尻が大きい。
彼女も副王妃の地位を狙っている一人であった。
「できること、といったら、今からでもトーヤ陛下に結婚というモノを意識させるってことかな?」
エレカが組んだ腕の上に可愛いオッパイをのせている。桃矢お好みのポーズである。
ショートカットの黒髪に黒い瞳。真っ白な肌だが、この中で一番日本人ぽい顔立ちのボーイッシュな美少女である。こいつは桃矢より一つ上の18歳だ。
「確かに」
マープルが髪の毛をいじっている。そうすると、なぜか桃矢が横目でチロチロ見るのだ。
彼女の髪は金髪。ロングで縦ロールが入っている。浅黒い肌に赤銅色の瞳がなんともエキゾチックなお嬢様タイプ。こちらは一つ下の16歳。
「順番からいって、まずモモカ様とトーヤ陛下がくっつかなければ、わたし達の野望も前に進みませんね」
ジムルの目がアンダーフレームの奥でギラついた。本人は隠しているつもりだろうが、桃矢が眼鏡っ子なのはバレバレであった。
「そういう方向で進みましょう。よろしいですか? みなさん?」
ジムルが、くいと眼鏡を直した。
ミラもウンウンと頷きながら――。
「トーヤ陛下は奥手ですから、どう駒を進めれば第二婦人の有力候補者となれるか? それが問題で……あれ? どうかしましたか?」
残りの委員長全員の目が、ミウラを見つめている。
「いやね……」
エレカがほっぺたをポリポリと掻いている。
「第二婦人はミウラさんで硬いところだなと、オレ達は思っているわけよ」
「え? ええーっ!?」
ミウラはびっくりして叫んだ。
「ええーっ!」
エレカも大声を上げた。
「いや、逆にあんたが気づいてないことにこっちは驚きだよ! どんなけニブチンだよ!」
エレカだけでなく、他の委員長達も驚いている。
ミウラは真っ赤になって固まっていた。今時、ここまで純粋な少女も珍しい。
「ついでだから、お教えいたしますわ!」
マープルが勝ち誇ったようにミウラを見下ろしている。……彼女は負け組なのだが。
「第三婦人候補がジェベルさんで――」
当然だと頷いているエレカ。
「第四婦人候補がエレカさん!」
「え! ええーっ!」
エレカが驚いていた。こいつもニブチンだった。
彼女も真っ赤になって固まってしまった。今時、ここまで純粋な少女も珍しい。
マープルは、しばらくジト目でエレカを睨んでから、話を続けた。
「第五以下はまだ未定につき、ここからが競争ですわよ。もっとも、わたくしは負ける気がいたしませんけどもね。オホホホホ」
第五婦人が勝利者なのか否かは置いておいて、マープルは手の甲を口元に当て、甲高く笑った。
夜中なのに大変やかましい。
「どうしたのー? なんかあったー?」
「キャーッ!」
委員長が声を合わせて叫ぶ。
話題の主、桃矢が目をショボショボさせながら現れたからだ。暑かったのか柄パン一丁である。
「え? なに? 僕なんかした?」
訳も解らず、桃矢は狼狽えている。
「なにやって……桃矢っ!」
女子を前に、パンツ一丁の桃矢。その後ろから現れたのは、桃果。
「え?」
「え? じゃないーっ!」
問答無用で桃果の延髄切りが決まった。
「キャー!」
桃矢の体が向かった先は、カチコチで突っ立ってるミウラ。
桃矢の顔面が、ミウラの胸にぶつかって仰向けに倒れた。
一緒に倒れ込んだ桃矢の顔面が、ミムラの下腹部下に乗っかている。
後ずさるミウラ。桃矢の頭がずれて、ミウラのお股に――
「イヤーッ!」
条件反射で、太股に力が入る。
頸動脈を押さえ込んだ筋肉に力が入る。
苦しくなった桃矢は、バタバタと手足を動かす。その動きにより、さらに足に力を込めるミウラ。
「そのまま絞め殺しなさい」
蛇のような冷たい目をした桃果が、ミウラに指示を出した。
「モモカ様、これは誤解です」
ジェベルが微笑みながら、桃果の間違いを正した。
「わたし達が騒いでいたので、何事かとおいでになったところです」
そして微妙に集会の目的を誤魔化した。
桃果は首を捻った。ちょっと早まったかなー、と思ったのだろう。
そうこうしているうちに、桃矢の手足に元気がなくなっていた。
「そろそろ許してあげようか?」
「はっ! あっ! トーヤ陛下!」
桃果がかけた言葉で我に帰ったミウラ。お股を締め付ける筋肉を弛めるも時既に遅し。
舌をダランと覗かせた桃矢が転がった。黒目があっちに行っている。
「陛下! すみません陛下!」
「狼狽えないで、ミウラ。たぶんだけど、桃矢は被害者だって認識を持ってないはずだから」
桃果はミウラの手を取って立ち上がらせた。
優しかったのは、たぶん、ミウラを同罪に持っていきたかったからだろう。
感想、誤字脱字指摘、待ってます!
次話「外遊」
お楽しみに!




