38.戦争の行方①
ケティムでは……。
戦争祝賀パレードが行われていた。
以下は、議会軍事本営部の正式発表である。
鬼畜ゼクトールの侵攻を食い止めた。
小鬼ゼクトールは、中継基地の奮戦に、ついぞ上陸が敵わず撤退した。
ケティムはどのような犠牲を払ってでも、侵略者の魔手を撥ね除ける。
これは国民の勝利である!
ケティムの大勝利である!
貧弱なメディア、並びに情報難民の多い国では、これが正しい歴史となるのだ。来年の教科書に、この戦いで勝利した「事実」が載る予定なのだから。
「今回の戦いにおいて、収支を調べます」
ゼクトール御前会議において、アドバイザー的立ち位置の桃果が、仕切っている。
「そんなこんなで、ケティムに継戦能力が無くなったと判断します。これ以上、金食い虫の艦隊を動かせば、国家が傾くでしょう。できたとしても1・2隻程度の派遣が関の山。もはや、ケティムの艦隊は傾国の艦隊と化しました。戦争継続は、経済的に無理なのです」
桃果が、戦争の結末を報告していた。
戦争とは、経済並びに外交活動の延長である。
何らかの利益を生まねば、戦争に勝っても、勝利したとは言えない。
ケティム政府は、国民に向け大々的に宣伝する。
大ケティムは戦争に勝った。ゼクトールは中継基地占領に失敗。継戦能力を無くし、本国へ撤退した。
これこそ勝利と言わず何と言おうぞ!
実体は……中継基地は穴だらけ。
施設の被害、人的被害を金に換算すると幾ら程であろうか?
消費した燃料や、弾丸・ミサイル類のお値段はいかばかりか?
艦隊は? 先の戦争と、今回の戦争。二個艦隊が消失したのだが、これもお幾らほどの損失になるのだろうか?
どこで、彼らは金銭的「利益」を上げられたのか? 将来的に、損失を補填して、さらなる利益を得られるのだろうか?
一方、ゼクトールの収支は――。
もともと、新生ゼクトール艦隊ならびに武器武装は、ただでもらった物。
持っていったミサイルは撃ちつくしたが、改修前の船にまだ残っている。
超新星五つ星マークの省エネエンジンのため、燃料もまだまだ大丈夫。
船や戦闘機の改修に掛けた費用は……ゲン爺はボランティアだし、ヴァムはボランティアだし……人員は公務員だし手弁当だし……。
財務委員長マープルが、膨大なデーターを元に、今回の費用を8桁電卓ではじき出した。
ご自慢の金髪をふわりと掻き上げる。
「日本円にして430円ですね」
どこのブラック企業の時給だ?
「収入の方は、ネット関係がこれくらいと、戦争で有名になった事により、売り上げ増が予想される関連キャラクター『ゆるキャラ・ヴィムさん』の売り上げがこれくらいと……」
ポンポンと電卓を叩くマープル。
「この辺りが妥当な線かと……」
電卓を差し出す。
桃果と桃矢が覗き込む。
「へぇー」
「ほー」
桃果がニヤリと笑う。
桃矢が感心する。
電卓は、委員長達にも回された。
「え、意外!」
まさか、戦争で金が入るとは思っていなかった。
入るといっても、戦争を利用した闇のサイドビジネスでしたが!
……この辺、バレたら国際社会からスゲー突っ込みが入りそうだが、だいじょうぶだじょうぶ! いけるいける! ゼクトールの国内法の解釈方法変更でギリギリセーフとなっている。
「え? 昨年度の国家予算を超えている?」
国家予算という言葉に惑わされてはいけない。
ゼクトールは、国連加盟費を三年間滞らせている。
税金の代わりに鮮魚でも良いとされているのがこの国の税制である。
国家予算という言葉に幻想を抱くと、痛い目をみるのがこの国である。
これで国家運営できるのがこの国である。
「倫理的に、これでいいのだろうか?」
桃矢が腕を組んでいた。
「いいのよ。ケティムさえ攻めてこなければ、……平和だったし、貧乏だけど慎ましやかに暮らせたし……難しいことは考えず、その日その日を暮らしていけば良かったのよ。ケティムさえ来なければ……」
桃果の声が次第に沈んでいく。
「セクトールは、あたしの家族よ! あたしは家族を守りたいだけよ。あたしは……」
桃果の顎がピクピクと揺れる。
「あたしは絶対家族を終わりにしない! 絶対に家族を終わらせない! 守る為だったらなんだってする! 世界中の人から悪人呼ばわりされても、平気なんだから!」
会議室は静まりかえっていた。
口を開く空気ではなかった。
「それは解っているさ。僕だって桃花ちゃんと同じ気持ちだよ。桃花ちゃんは、戦争音痴の僕に変わって指揮を執ってくれているんだ。感謝こそすれ悪くなんか言わない」
桃矢の目は優しかった。
「桃花ちゃんを悪く言うヤツは僕の敵だ。それが世界だったら、僕は世界を相手に戦う。だから――」
ちょっとだけ言葉を句切った。
「桃花ちゃんは安心して、……その……」
悪人になって――と言うとなんだか変。
言葉を継げなくて困っていたら、ジェベルさんがにっこりと笑った。
「私たちのヒロインでいてください。私たちは、トーヤ陛下とモモカ参謀長に命を預けていますから」
凄く頼もしかった。
「ったりめーだろ!」
こんな時、決まって口を出すのはエレカである。両手を頭の後ろに組んで、足をテーブルに投げ出した格好。お行儀が悪い
「オレ達の生与奪権はトーヤ陛下にあるんだぜ! その陛下の生与奪権を持つモモカ参謀長に逆らうような命知らず……おっと、恩知らずはこの国にゃいてねぇぜ!」
エレカのウインクは様になっていた。お行儀の悪さも計算尽くだ。
桃果は、救われた思いがした。
「トーヤ陛下とモモカ様が来られてから今日まで。ゼクトール国民は、今までになく明るい日々を過ごせていおります」
病院から復帰したミウラが、直立不動で敬礼をした。
「世の中、お金じゃないです! その、えーっと……」
言葉に詰まった。
「誰も彼も、口ベタですわね」
財務委員長のマープルである。
「楽しく暮らせる一日。それ以外に何が必要というのです?」
自慢げに長い金髪を手で払う。いつもなら鼻につく仕草だが、今回は微笑で迎えられた。
「よーし! じゃぁもう一踏ん張りするとしようかー!」
桃矢が声を張り上げた。
「我らの国はゼクトール! 誇り高き武装戦闘国家!」
おー!
可愛い声が上がる。
「我ら武装戦闘国家、ゼクトール非民主主義的絶対君主主義国!」
「ゼクトール非民主主義的絶対君主主義国!」
みんなの声が重なった。
桃矢は、桃果に目で合図した。
桃果は視線でそれに応じた。阿吽である。
「世界が何だ!」
桃果も拳を突き上げた。
「温暖化で海面が上がったって、ただじゃ沈まないわよ! ゼクトールに注目なさい、世界よ!」
「世界よ!」
みんなも拳を突き上げた。
さてさて――、
ケティムはえらい国を相手にしたものである。
そして……。
時間は夜。
桃矢と桃果が捌けた後、再び委員長達が再集結した。
宰相のジェベルを筆頭に、ミウラ、エレカ、ジムル、ミラ、マープル、アムル、ノア、サラが顔をつきあわせていた。
これから話す内容は……。
二人に聞かれたくない。
聞かれると困るのだから。
次話「戦争の行方②」
お楽しみに!




