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35.事後処理


 合衆国の某所。


 厳重に警備された防衛施設の一つとしか言えない場所。

 軍の中核を成す制服が数人。大統領顧問団の中心人物が1人。丸テーブルを挟んで、頭を付き合わせていた。


「我が軍の潜水艦が、近づく事ができなかった」

 誰かが口を開く。


 残りの者は、一様に押し黙った。

 ここにいるのは、この言葉の意味を知る者達ばかりだ。


 なにが、どうやって接近を阻害したのか?

 その所有者はどこの国か?


「PRC、ロシア……」

「通常型潜水艦だとしたら、日本も候補だ」


 常時、原子炉という騒音を内包しない通常型、それもリチウムバッテリー先進国を外す勇気はない。


「報告にあった特殊ECMとセットと見て良いのだろうか?」

「ゼクトールに複数の国を調整する能力はない、と判断するが?」


 メンバーは国連大使の少女を脳裏に描いている。

「……その意見には賛成する」

 残りのメンバーも首肯していた。


「日本か?」

「決定打に欠ける。怪しい国の一つだ。幸いなことに、日本であるなら我が国でコントロールが可能だ」

 属国みたいなものだからな。とは言わない。


 皆の胸の内も同様だった。

 そして、このメンバー達は、終わりのない会議を嫌うタイプで揃っていた。


「一党支配国は、王国に任せるか?」

反対意見は出なかった。


「ゼクトールの謎を解く方へ傾注したいのだが?」

 海軍の意見である。


「予算はこれ以上出せない」

 政府関係者の意見である。


 軍関係者達は、心底辛そうな溜息を出した。


「だいたいからして、なんで弱小国のゼクトールが、核保有国である軍事大国ケティムに刃向かったりするんだ?」

「連中、バカじゃないのか?」

「めんどくせー連中だな」

 さらに頭を痛める議論に突入していくのであった。





 ケティムの某所にて。

 こちらでも国を動かす立場にいる人員達が、額を寄せ合っていた。


 制服組の一人が下唇を付きだしていた。

「中間基地が落ちたとはいえ、ゼクトールにあそこを占領維持する力はない」

 自分に対して言い訳をするような口ぶりだった。


「ゼクトールの小賢しい小僧共は、今回の戦役について、勝利などと間違った判断結果に陥っている。この身勝手な判断に乗じ、終戦を求めてくるだろう」


 背広組の一人が、タバコに手を出した。

 一人で吸うのも気まずいのか、テーブルを囲む者達に1本ずつタバコを配っている。


「思い上がった条件を出してくるだろう」

「そんなもの、無意味と思い知らせてやらねばならない」

「通常通りの対応でよい。終戦に向けた条件を絞ろうではないか。我らは核兵器保有国。大国だぞ! 大きく構えているべきだ!」


 会議の終焉は見えてきた。


「どのみち、中継基地には上陸すらできまいて」



   



 上陸していた。


 桃果達は、このまま放置して帰るつもりだったのだが、事情が変わった。


 とりあえず、アフェ……記録用に写真でも撮っておこうと、明るくなるのを待っていた。

 明るくなって、見なくても良いものが見えてしまった。


 生き残りのケティム兵達が、仲間同士で食料の強奪合戦を始めていたのだ。


 武器を持つ者は武器を使って仲間を射殺。素手の者は噛みつき攻撃。

 全員が少しずつ我慢して、少ない食料や水を分け合えば、本国からの救助に十分間に合う食料が残っていたのだが……。


 略奪の際、使いものにならなくなったり、後先考えず食べてしまったり、激情の末燃やしてしまったりで、今となっては、僅かな量を残すのみ。


 非常に醜い争いであった。


 これを見て見ぬフリができるほど、彼女たちは大人ではない。

 急遽、部隊を編成して、仲裁に入った。


 上陸したのは、小火器で武装した白水着+白セーラーの海軍選抜陸上部隊。

 そのなかで目立つのは……


 白い肌に漆黒の髪を三つ編みで束ねた、長身の美女。真っ赤なルージュが妖艶だ。

 黒い肌に純白の髪を三つ編みで束ねた、長身の美女。真っ赤なルージュが妖艶だ。


 背格好から顔までそっくり。おそろいの赤いベレー帽とティアドロップ型のサングラス。緑とカーキーと黒のジャングル迷彩の水着に、上は黒いセーラー服。手には短機関銃。


 ……ぶっちゃけ、ファール・ブレイドゥの分身二体が化けた筐体である。


 ケティム駐留兵士達は、武装解除させて整列させている。

 整列させたのはファール・ブレイドゥの二人である。


 その気になれば、どちらか片方だけで、この場を血の海に変えることができる化け物だ。

 これくらい容易い。……ケティム兵の数が減っているのはご愛敬だ。


 あとからもったいづけるように、一人の美少女が姿を見せた。


 そんなに背が高くない。

 黒い水着に、上は白のセーラー紺ライン入り。

 黒い髪は長い。化粧の濃い顔。

 左目に黒いアイパッチ。

 小型流線型のインカムを顔のラインに沿わせている。


 この女はだれだろうか? 桃果である。


 桃果の変装である。


 黒い方のファールが、短機関銃で一人の男を指した。

「コマンダー・ゼロ、この場の最上級士官はこの男です」


 コマンダー・ゼロとはだれか?

 桃果である。


 桃果が悪事を働く時のペンネームである。


 まるで、凍った体をジェット燃料に火を付けて溶かすタイプのような熱いペンネームである。


 桃……コマンダー・ゼロは、目を細めてニヤリと笑う。

「戦闘力たったの5か……ゴミめ」


 今朝、考えに考え抜いたキャラクターがこれである。

 ケティムの士官は、激しく動揺しながらも戦意を露わにする。


「我々はまだ降伏していない! 貴様らの捕虜になどなるつもりはない!」

 パン!


 乾いた音がした。

 白い方のファールが持つ機銃の銃口から白い煙が出ていた。


 ケティム士官が左の太股外側を押さえて、うずくまっている。弾がかすったのだ。


「そう、それが痛みだ」

 キャラクターを練り足りなかった感が激しいコマンダー・ゼロである。


 白い方のファムは、機械的に言い放つ。

「我らはまだ交戦状態にある。よって貴様らは捕虜ではない。銃撃戦による名誉の戦死を選ぶ自由がある」


「我々が、だけどね。フォッフォッフォッ!」

 まだキャラが安定しないコマンダーゼロ。あきらかにファールのキャラの方が立っている。


「くっ! 我々をどうする気だ! 我らは悪しき民族に降伏なぞしないぞ!」

 足を押さえた士官が粋がっている。後ろに並んだ生き残りのケティム兵も、こぶしを突き上げ、気勢を上げている。


「うるさいわね! このまま放っぽいといてもよかったんだけど、あんたらが共食いみたいな事するから、手を出しちゃったんじゃない!」

 コマンダーゼロのキャラは、あっさり崩れてしまった。


 いつものように、子供の喧嘩になってしまった。


 ケティム士官も負けてはいない。

「おまえたちゼクトールは、我々に食料と水を供与する義務がある!」

「え?」

 コマンダーゼロは、口をポカンと開けてしまった。


「おまえたちゼクトールの船を明け渡せ! 我々はケティム本国まで帰る権利がある!」 そうだそうだと、後ろからケティム兵の野太い声が上がる。


 ワイのワイのと賑やかになってきた。

 騒ぎは狂乱状態に陥っていった。


「……るさい」

 コマンダーゼロがボソリと小声で呟いた。


「うるさい!」

 パタタタタタ!


 白と黒のファール二人が、短機関銃を乱射した。

 ケティム兵の足元から盛大な土煙が巻き起こる。


 それにつられてか、ゼクトール海軍選抜陸上部隊の少女達も、下向きで銃を乱射した。

 もうもうと上がる土煙。

 一気に大人しくなるケティム兵士。


「もうお忘れですか? あなた方は捕虜ではない。我らは交戦中なのですよウフフ……フォッフォッフォッ!」


 キレたことにより、逆に一周してキャラが安定してきた模様である。あと二つ変身が残っている白いのがメインになっているようだ。


「さあ、ファールブラック、ファールホワイト、やっておしまい!」

 白と黒のファールが短機関銃を構える。

 ケティム兵達は一斉に伏せた。


「力こそ全て。良い時代になった」

 ちょっと意味が解りません。


「と、思ったけど、ここまでにしましょう」

 白と黒のファールが銃口を上に向けた。


「ゼクトール軍人の情け、ボロの釣り竿をそこそこの数、置いていってあげる――あげましょう。後はあなた方次第です、フォッフォッフォッ!」

 だいぶこのキャラにも慣れてきたようだ。


 ゼクトール陸上部隊は整然と引き上げていった。






 ブレハートの艦内で――。

 桃矢とコマンダーゼロが、ばったりと顔を合わせた。

「おまえ、だれだ?」

「フォッフォッフォッ! 見て解りませんか?」


 いずれ、桃果は大人になって、結婚して、赤ちゃんを産んで母となる日が来るであろう。

 ――今日を思い出して、七転八倒するのであるが、まだ彼女はその姿を想像すらできないでいた。




次話「戦後交渉」


お楽しみに!

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