34.中継基地⑤ 艦砲射撃
中継基地手前で停止した旗艦ブレハート。
「隠密」「迷彩」「無音」の各防御システムを起動させている。
何かを待つように、沈黙していた。
「報告します。赤い三連星、敵基地攻撃に成功。目標すべてを破壊確認」
「ふぉー!」
戦闘艦橋に詰める女の子の間から、感嘆の溜息が漏れた。
「港出口は封鎖できた?」
桃果は、まだ冷静だった。
「浚渫用クレーン倒壊。フリゲート1隻が出口近くで座礁」
「味方艦3隻の配置、並びに準備を確認しなさい!」
桃果が通信士に指示を飛ばす。
「配置完了。いつでも攻撃可能、攻撃命令を請う。との事です」
通信士の答えは歯切れが良かった。
「よーし!」
桃果がガッツポーズをとる。
そして、横に座る総司令に合図を送る。
「桃矢!」
艦橋に詰めるスタッフの目は、一カ所を見つめている。
桃矢は、大きく頷いた。
「攻撃を開始してください」
指示は一つだけ。
桃果が、艦長席から立ち上がった。
「今作戦、最後の攻撃よ! 打ち合わせ通り、作戦第2部発動! 各艦、使命を果たせ!」
ゼクトール艦隊旗艦より、短い信号が発せられた。
それは短いが、絶大な破壊力を秘めた一文である。
旗艦ブレハートと、ケティム中継基地を挟んだ反対側で作戦行動に出ている空母、もとい、重航空巡洋艦ファムの甲板が動いた。
艦前部の飛行甲板に埋め込まれた、長距離対艦巡航ミサイル12セルが口を開ける。
中身は全て、対地攻撃用に「普通」の改造を処されたミサイル。
一斉に煙の尾を引いて飛び立った。……よく、ぶつかり合わなかったものだ。これも補正効果だろうか?
同様に、ファムを護衛していたフリーゲートからもミサイルが飛び立った。
そして、フリゲートの主砲塔が旋回。
各種強化されたグラビティカノンが火を噴いた。
一撃一撃が、常識外れに重いのがゼクトールの魔砲撃。
対空施設を、レーダーサイトを、湾岸施設を砕いていく。
同じ頃、ようやくミサイルが、港に閉じ込められているケティムのフリゲートに襲いかかろうとしていた。
第一陣のミサイルが、ケティムの迎撃システムで撃ち落とされていく。
超力ECM下で、夜の闇で、この撃墜率は驚異だ。さすが、専門の軍人。芸術の域である。
ECM、闇、停止中、反則技。これら悪要因の中、ケティム海軍軍人は、世界でもトップレベルの職人技を見せつけてくれた。
賞賛すべき働きである。まさにファイター。
結果から述べると、良くできた部類「だった」。
ケティム艦に襲いかかるゼクトールのミサイルも、その技が違っていた。
反則技「命中率補正」が施されていたのだ。
あり得ない機動力をもって、速射砲の狙撃をくぐり抜けた幾つかのミサイル。直前で対空機銃に撃ち落とされるという、危ない綱渡りのシーンが増えていく。
それでも踏ん張るケティム艦。
そこへ、悪魔の一撃が振り下ろされた。
水平線の向こうからの狙撃。注意を向けていた方角とは反対よりの一撃。
桃果が指揮するブレハートの主砲攻撃だった。
悪いことに、もっとも迎撃率の高いフリゲートに着弾。
砲身も焼き切れよ、とばかりに活躍していた速射砲が被弾した。
遠距離でミサイルを落とせなくなったフリゲートの防御力が激減。
機銃で捌ききれなかったミサイルが着弾。
一発で沈黙。さらにミサイル第2陣の一発が命中。炎を吹き上げ、戦列から離れた。
続いて、座礁している艦の速射砲に命中弾。舷側をこそげ落としながら破片を宙に舞わせる。
一気に半分の迎撃力に落ちてしまったケティム艦。もう踏ん張りが利かなかった。
ブレハートからの攻撃を受けることなく、次々とミサイルが命中。
五分とたたず、ケティム艦隊は沈黙した。
「この際だから、ミサイルは全部撃ち尽くしておきなさいよ! こんな危ない花火、持って帰るつもりはありませんからね!」
ミサイルは第3陣をもって撃ち尽くされた。
「はーい! 攻撃終了。中距離以下のECM解除」
桃果がパンパンと手を叩く。
「ケティム中継基地に向け、降伏勧告文を送ってちょうだい。無視したら人を狙うわよって一文をお尻に付けといてね!」
桃矢は、深いため息をついて、椅子に深く腰掛けた。
第二次対ケティム戦争は、実質的な終了を迎えたようである。
”掴める物は何でも掴め。掴めぬ物は求めるな。ゼクト神王よ、永遠に”
ゼクトール国歌(作詞作曲:騎旗桃果)の一節より。
次話「事後」
お楽しみに!




