33.中継基地④ 復活の巨砲
同時刻。
ゼクトール艦隊旗艦・ブレハート。今回は単艦で、とある海域を遊弋していた。
そのブレハートの戦闘艦橋にて。
「海面下のブレハート様よりお告げ……もとい、連絡が入りました」
「ほう、なんて?」
桃果が腰に手を当て、仁王立ちになっていた。
「敵潜水艦2隻を発見」
「やはりいたか、潜水艦……」
桃果が苦い顔をする。
潜水艦の攻撃力は心配していない。それより、中継基地へ通報される可能性を心配しているのだ。
「再びブレハート様より連絡が入りました」
「ほう、なんて?」
「2隻とも新型」
「やるわね、ケティム!」
「2隻とも撃沈」
「新型の意味が無いわね」
潜水艦に対し、容赦ないブレハート様である。同類憎悪なのかもしれない。
あとが怖いので指摘するつもりはないが。
「ケティム水上艦補足。旧式の120m級フリゲートです。多方向に渡って展開。総数4隻」
「どれどれ?」
桃果の興味がこっちに移った。
探査士の報告をうけ、桃果は、三次元スクリーンを覗き込んでいる。
ブレハートの左右前方に2隻。巨大な中継基地の影を挟んでさらに2隻。
「一番近いのが、11時の方向、距離63キロ。主砲の射程距離内です」
「水平線の遙か向こうね。よくキャッチできたわね」
桃果が感心する。
「そんなところまで主砲って届くんだ」
桃矢も感心した。普通は届かない。
「はい! 有り難うございます!」
探査士は、自分が褒められたように嬉しがる。
「では、桃矢……陛下。指示を」
珍しくもしおらしくも、桃果が桃矢を立てた。
この辺りは……事前に二人が話し合った結果だ。
桃矢はゼクトールの国王である。最高権力者である。どのような人物も、どのような国内法も、桃矢の行動を阻害することはできない。
ゼクトール国王は、どれほどの強権を持っているのか?
たとえば、桃矢がミウラ国防委員長の使用済みパンツを頭からかぶろうと、ジェベル宰相の脱ぎたてブラジャーでマスクを作ろうとも、だれも桃矢に意見できないのである。
おわかりいただけたであろうか?
絶対王政、絶対権力者クトールの王が持つ、神にも等しい権力を!
ただし、最高権力者には最高の責務が伴う。それは桃矢の意思。
ミウラのパンツを頭からかぶれば、桃果の無限無視地獄が待っているように、死地へ赴く者を送り出すなら、自らを無限地獄に落とさねばならぬ。
青い理想に過ぎないと人は言うだろう。だが、桃矢はそれを望む。
いや、パンツじゃないほうで……。
よって、これまでも、戦闘開始の指示を桃矢が執り行ってきたのである。
今回、第一線に出てきたのも、この責務を負うためである。……桃果の独走を防ぐためでもあるが。
桃果にこの責任は渡せない。
「攻撃開始!」
桃矢は静かに「宣言」した。
桃果は小さく頷いた。
「超力ECM一式起動! 主砲用意! 目標、一番近いやつ。……の喫水線」
桃果が細かい指示を飛ばす。
「了解。『状態異常』『隠密』『迷彩』起動。『状態異常無効』『打撃耐性』『火耐性』『未来予想キャンセル』順次起動中」
「目標、一番近いヤツ、の中央喫水線に固定」
探査士と砲術士の指が、コントロールパネルの表面で、競うように踊る。
目標がざっくりしすぎているが……多少のミスタッチもあるが、補正システムがナイスフォローをしてくれるので問題ない。
最初から「暗視」は起動してある。「危険感知」や「気配感知」その他探査系の超システムも起動している。全レンジECM下でも、探索の目はバッチリだ。
「武器管制システム起動済み。『命中率補正』起動。目標に対し『因果律確定』終了。いつでも発射できます!」
砲術士からスタンバイ完了の報告が上がる。
「主砲、各種強化の後、発射!」
桃果が攻撃命令を下した。
「『破壊強化』『打撃強化』『衝撃強化』並列起動。目標、一番近いヤツ。主砲、てぇー!」
砲術士がスイッチを捻る。
ボチュン!
127㎜単装砲に偽装した重力砲が鳴動した。
主砲が、不可視の重力弾を発射。今回、その初速は、磁力砲の数十倍であった。
軌道操作されたグラビティ弾は、敵フリゲートのど真ん中、喫水線付近に着弾。
フリゲートは二つ折れになった後、火柱を盛大に吹き上げ大爆発。轟沈した。
補正システムが気を利かして、火薬庫を狙ったのだろう。
上空のファム様より、リアルタイムで画像が中継されていた。
「ふふふ、歴史的瞬間ね。大艦巨砲主義が、人知れぬ世界で復活したのよ!」
桃果が邪悪な笑みを浮かべている。
「よーし! 次! ケティム中継基地を中心に反時計回りで各個撃破!」
外宇宙技術を取り込んだゼクトール艦は、半端なかった。
二つ目の艦は、真っ二つに切断。三つ目の艦は、真っ二つに前後が分離。
「次、ラスト四番目。一度は見てみたい本気の力。リミッター解除の全力で発射!」
最後の艦は、真正面より、艦首部に着弾。
弾丸は、敵艦を前部より串刺し状で貫通。艦尾より飛び出した。
三つの強化システムを掛けられていた弾丸は、光速で表現した方が使用するゼロの数字を節約できる速度と、トンでしか表現できない質量も相まって、敵艦を風船が弾けるように粉砕破壊してしまったのだ。
ちょっとハッスルしすぎた。
さすがに悪く思ったのか、桃果は、四番艦の破片にあやまっていた。
なんやかんやあって、恐ろしいもので、1時間かからず、4隻のケティム艦を4発で沈めてしまったのである。
なんやかんやあって、ブレハートは、中継基地まであと40㎞ちょっとの海域まで近づき、停止した。
桃果が胸を張って宣言する。
「対地攻撃用意!」
次話「中継基地⑤ 艦砲射撃」
作者情報。
ASUS Eee PC900 Cドライブ空き容量 1.11GBだと、いろんな無理が出てきます。