32.中継基地③ 赤い三連星
時間は、ゼクトールの赤い三連星がケティム機と接触した時点にまで戻る。
夜間飛行なのに、キャノピー越しに見える空は明るい。はるか水平線まで見渡せる。
外宇宙航行技術「暗視」による特殊な効果である。
これの前には、赤外線捜索追跡システムなど稚戯に等しい。なにせ、星になりかけている高濃度のガス帯を突っ切るためのものだから。
いつものように「迷彩」と「隠密」を起動している。闇夜も相まって、赤い三連星を肉眼でも電子の目でも捕らえることはできない。
ノイエ機に搭載された、戦闘用ポジトロン電子頭脳より警告が入る。これが、ケティム中継基地戦の発端となるのである。
『警告。敵戦闘機3機と接触します。攻撃準備よろしいですか?』
柔らかい女性の声でアナウンスされた。
「よ、よろしくお願いします」
ノイエの返事を攻撃許可と判断するポジトロン電子脳。
『敵機、本機の下方を通過予定。ダイブ開始10秒前。合図と共に操縦桿を下方へ押し込んでください。ダイブの後、機銃攻撃を推奨します。3秒前、2、1、0ダイブしてください』
「はいっ!」
若干引きつりながら、ノイエは操縦桿をざっくりと倒した。
機体は「正確」な角度と速度で敵機に突入。ベストな位置を確保した。
照準機の中央に、敵機を捉える。マーカーが黄色に変わる。
『機銃操作3秒前、2、1――』
1秒前に、敵機を捉えるマーカーが赤になった。
『――、0。操作してください』
「えい!」
ズレまで考慮に入れたカウントダウン。ノイエがトリガーを引いた。
三点バースト。同時に機体が独りでに横ロール。回避行動だ。
三機編成の先頭機体が速度を落とした。細かい部品を撒き散らしながら、落下していく。
『続いて第2射。今です』
「えいっ!」
また三点バースト。回避の遅れた左の機が火を噴いた。
『上昇します。操縦桿を引いてください』
どれくらい引けとの量的指示がないため、だいたいで操縦桿を引いた。
機体は、美しいが複雑な弧を描いて斜めに捻れながら上昇する。
『第3射用意してください。3秒前……』
弧を描いたまま下降に移ると、その先に最後の敵機がいた。
『……0、掃射』
「えい!」
照準機を見ることなく、トリガーを押し込む。
三点バースト。敵機が火を噴いた。
『敵機掃討完了。所定位置へ。上昇します。操縦桿を2秒間引いてください。軽い感触で』
「こう?」
2秒後(ノイエの体内時計で)操縦桿を引いていた腕の力を緩めた。
ノイエ機の機首は、真っ直ぐ中継基地の方向を向いて、安定飛行に入った。
ここまで描けばお判りかと思うが、だいたい、自動操縦である。
そして、三点バーストにこだわっているのはノイエではなく、装備された戦闘用ポジトロン電子頭脳である。
理由は「趣味」。
携帯銃器に装備されている、連射、三点連射の切り替え機構に、なぜか熱い物を感じているとのことである。
ノイエ機がケティムの戦闘機を蹴散らそうとダイブした時、タマキ機のポジトロン電子頭脳も警告を発した。
『意見具申。敵戦闘機隊がノイエ機を相手にすることで、防空上の間隙ができました。この間に、本機は敵基地に突入することを進言します』
音声は、渋い男性のものである。明日のことは解らない、昨日のことは忘れていそうな、重低音だ。
タマキ機は爆撃専用に魔改造された機体だ。目的は、敵基地の爆撃オンリー。パイロットのタマキに否定する理由がない。
「そ、そうでうね、がんばりましょう!」
緊張したタマキの、どうとでも取れる回答を戦術的に「同意」と判断し、電子頭脳は作戦の履行プログラムをスタートさせた。
予定通り、回避行動を取りながら、低空で侵入。向かって右側の滑走路を含む航空施設破壊を優先するナビゲートを開始した。
『機体操作。下方向へ10度。右方向へ10度。操縦桿操作をお願いします』
「はぃっ!」
下降したものの、緊張のあまり、タマキは左へ操縦桿を切ってしまった。
しかし、機体は右へ旋回。目標に向け教科書通りのコースを飛行する。
タマキ機に搭載された統括ポジトロン電子脳の判断で、システム「紳士」を起動。これに対処。操作を補修していく。
このように、ゼクトール機は、高度な操縦支援システムを積んでいるので、この程度のミスは誤差範疇なのである。
『目標補足。クラスター弾の用意をしてください』
「はいっ!」
タマキは、眼前の武器コントロール用タッチパネルを操作する。
クラスター弾をタップしたつもりで、隣の対艦ミサイルをタップした。
その程度で、武器管制支援システムは慌てない。この緊張に包まれた空間で、ミスを指摘したりしたら、パイロットは我を忘れてしまう危険性がある。
そんな危険は冒せない。
支援システムは、システム「ハードボイルド」を起動し、その危険性に対応した。
『投下3秒前、2、1、0。投下』
「はいっ!」
投下と宣言されてから、投下ボタンを目で確認し、ボタンを押し込んだ。
タイミング的にはズレているが、我らの支援システムさんをナメてもらっては困る。
支援システムは、このズレすら考慮して、カウントダウンしていたのだから。
タマキが「対艦ミサイル」のボタンを押した、ベストなタイミングで、「クラスター弾」を発射。
支援システムは弾数を指示していないが、自動で二個発射された。
滑走路のど真ん中。GPSで計測したかのような正確など真ん中に、クラスター弾は着弾した。
この程度の精度なら、戦闘機に搭載された小型支援システムの能力で十分なのである。
『機体引き上げ願います。上へ10度。左へ5度』
「こう?」
角度的に鋭かったが、自動修正機能が働いて、理想的な上昇カーブを描く。
『続いて第二攻撃目標へ移ります。火気管制自動システム立ち上げ。パイロットは投下スイッチの操作に専念してください』
「はい!」
さすがに危ないと感じたのだろう。支援システムの安全装置が働いた。
以後、オートで爆撃が再開される。
さすが外宇宙技術を用いた攻撃支援システムである。
度重なるタマキの操作ミスをものともせず、こっそり歯を食いしばり、表情一つ変えず、正確な爆撃のアシストを続けている。
支援システムにとって、敵が、外と機体内の2カ所にいるようなもの。それでも、文句一つ言わず、顔色一つ変えることなく、淡々と仕事をこなしていく。
ハードボイルドである。
『続いて、第3目標。艦艇の攻撃に移ります。操縦桿をお茶碗を持つ手の方へ引いてください』
おまけに学習機能も優秀である。
支援システムの手助けもあって、タマキ機は中継基地爆撃に、見事成功するのであった。
3号機、電子戦に魔改造されたグレース機は……。
『このまま真っ直ぐですよぅ』
支援システムより、ざっくりした指示が入った。
若い女の子の声だ。ずいぶん間延びしてる口調だ。
「ねえ、コンピューターさん。強力なECMでレーダーを黙らせるのは解ったけど、熱源まで誤魔化せないよね?」
グレースは、人間を相手にするように気楽な口調で話しかけた。
『無骨なコンピューターじゃなくて、可愛くキャミィって呼んでほしいですよぉ』
グレースはヘルメットのバイザーを上げ、目と目の間を摘んで、ぐりぐりさせた。
ちょっとイライラしてきたのだ。
『それは「熱感知無効」という、ECMの一種を起動しているからですよぅ。アフターバーナーを点火しない限り、熱源探知されない不思議なシステムですよぅ』
「えーと、キャミィさん? 『熱感知無効』って……もっと、それらしい単語にならなかったの?」
『わたしの事は呼び捨てでいいですよぅ。専用の単語はあるのですよぅ。でも、それは科学がむっちゃ遅れた現代地球に無いボキャブラリーなんですよぅ。だから、一番近い「熱感知無効」って単語を代用しているでのですよぅ。「迷彩」と「隠密」も同じような感じですよぅ。進んだ科学は魔法と同義語なんですよぅ!』
キャミィの話を聞いていると、なぜかコーヒーを飲みたくなってきたグレースである。
深い香りで心を落ち着けるために。
『敵基地突入は、もうちょこっと先っぽですよぅ。今のうちに質問があったら受け付けるですよぅ』
「だったら、これ」
グレースは、操縦桿を指し示す。
「最近は、もっぱらフライバイワイヤーだって聞いたんだけど?」
『フライバイワイヤーは、操縦してる感が足りないので、不採用ですよぅ! 乗員の安全を考え、二重系統の操作系を採用ですよぉ!』
「ふーん、そうなんだー」
平べったいセリフを吐くグレースであった。
『そろそろ作戦空域ですよぅ。島の周囲を周回するですよぅ。だいたい三周もすれば仕事は終わりですよぅ。帰れば温かいココアが待ってるですよぅ』
「キャミィ、確かあなた、コンピューターだったわよね?」
『外宇宙航行次世代型運行支援システムというのが正式名称ですよぅ。歌って踊れるコンピューターですよぅ!』
だいたい、こんな感じで、決死の作戦は遂行されるのであった!
次話「中継基地④ 復活の巨砲」
おたのしみに!




