31.中継基地② 攻撃
高度を保ちつつ、複雑な軌道を描いて飛ぶ電子戦用三号機。
その上を飛ぶ、格闘戦用一号機。
海面すれすれを行く爆撃用二号機。
音が聞こえない。闇夜を差し引いても姿が見えない。それぞれ、パッシブECM「隠密」と「迷彩」、そして「耐熱」を起動したうえで、三号機がアクティブECM「状態異常」を放出しているからだ。
一号機が、いきなりダイブした。獲物を見つけたようだ。
ここまで接近すると、「隠密」と「迷彩」は効果をなくし、ケティム機も気づく。
ケティム戦闘機隊は応戦のため散開した。反応が早い。練度が高い。
滑走路を守る自走式対空砲の射手が、真っ暗な空を見上げた。
「なんだ? 上で何が起こっている?」
アフターバーナーを使用した排気音がした。と思ったら、機銃音。
そして静かになった。
遠い海へ質量体が落下していく風切り音。
続くフラッシュ三つと、少し遅れて爆発音が三つ。
「どっちが落ちた?」
光る海に、自走砲乗員の視線が集まっている。
ゴウッ!
フランカーの排気音が上空を通り過ぎた。低空飛行だ。
「レーダー! 何をやっている!」
「ECMだ! 熱感知もだめだ!」
もう一度、爆音が通り過ぎた。
「うわっ!」
外に出ている歩兵は、頭を押さえ身を縮める。地に伏せた者もいる。
滑走路でハデな爆音。炎の大花が咲く。
「爆撃?」
続いて、小型の爆発が直線で続く。
「クラスター弾か?」
自走砲の射手は、顔を青ざめさせた。
ケティムのクラスター弾は不発弾が多いことで有名だ。自国兵器であるため、特殊な地雷が紛れていることも知っている。
ましてや、クラスター弾の不発子爆弾はそのまま対人地雷となる。地雷の二乗だ。
自走砲の足が塞がれた。
自業自得である。
灯火管制され、基地は真っ暗だ。なにも見えない。
すぐ側で爆発。
「うわっ!」
管制塔が吹き飛んだ。
続いて格納庫の屋根が飛ぶ。
やりたい放題なのだが、対空砲火は上がらない。
上げられない。
各種センサーは強力なECMで沈黙したままだ。
月は沈んでいる。闇ゆえに目視で敵機を捉えられない。機械の目でも肉眼でも捉えられない。見えないのだ!
宿舎に爆弾が落とされ、火の手が上がった。
「やりやがったな!」
これには頭に来た。自分の部屋も燃えているだろう。
しかし、撃ちようがない。
レーダーが使えない現状、ゼクトール爆撃機の位置が特定できないからだ。
滑走路の反対側から空に火線が上がった。おなじく、宿舎を爆撃され冷静さを失った射手が、闇雲に撃ったのだ。
火線の根元に火花が上がる。対空自走砲がバラバラになって空を舞っている。
「爆撃されたのか?」
撃てば所在地がわかる。
「ヘタに撃てない」
射手の腕が縮こまる。
基地司令塔が火を噴いた。
敵機の位置がわからない。
いつ、ここを攻撃してくるか? ここが攻撃されるか?
暗闇の中、恐怖に名を借りた黒い手が射手の心臓を鷲掴みにする。
ふと気づいた。
受け持ちである航空関連施設内での爆発が収まったのだ。
まだ、大きな太鼓を叩いたような音が続いている。空気が震えている。
爆発音は遠くに移っていた。
滑走路と反対側のがら、爆発音が聞こえる。
「あれは、港の方角だ」
立て続けに上がる火柱と爆撃音。
広範囲で火の手が上がっている。
「船をやられたのか?」
戦場は島の反対側に移ったようだ。
射手は自走砲を降り、よく見える位置へ走って移動した。
その時だ。
今まで彼がグリップを握っていた自走砲が吹き飛んだ。射手は上下の感覚がなくなったことに気づいた。
空を舞っているのだ。
あり得ない方角から地面が接近、しこたま、体を打ち付けたのち、転がった。
受け身なんかとりようがなかったが、骨折は免れたようだ。
体を鍛えておいて良かった。体が柔らかくて助かった。
立ち上がって、元の持ち場に視線を向ける。
火災により、鮮明に見える。
クレーターになっていた。
爆撃じゃない。
砲弾か?
沖合に視線を向けた。
暗い海で火の粉を吐き出すなにかがいた。
レーダー施設が吹き飛んだ。
また、海で火の粉が吐き出された。
通信施設が、車庫が、弾薬庫が、次々と赤い炎に包まれていく。
「綺麗だ」
感覚が麻痺してしまったのだろう。
至近弾を受けたためか、耳が痺れて音が聞こえない。
音の無い世界で、光だけが乱舞する。
これは、現実なのか? 夢の世界なのか?
一人の男が、ぺたりと座り込んだ。
背中をしゃきっとさせたまま……。
次話「中継基地③ 赤い三連星」
お楽しみに!




