26.嵐の中の殴り合い①
横殴りの風。視界を塞ぐ豪雨。
15メートル級のうねりが普通になれば、そこはもう人外の魔境。
魔境を進むケティムの艦隊構成は、旗艦を含む駆逐艦4杯。
旗艦・ジムイ。二番艦・対潜駆逐艦ウシウ。三番、同じくコヨウ。四番、同じくカシウである。
小賢しき敵、ゼクトール艦隊の構成は、比較的小型のフリゲート1杯と、駆逐艦1杯の計2杯。
この嵐だ。元も警戒すべきゼクトールの潜水艦も、ちょっとこいでは手出しできないであろう。
4対2。
ECMの影響も少なくなっている。中・近距離ならレーダー射撃が可能だ。
いける。
通常ならば。
「今のうねり、20メートルは超えていたぞ!」
「気圧、900ヘクトパスカルを切る!」
「風速、60メートル越えの暴風域に入った!」
うねりは一つ越える度、徐々に高く激しくなっていく。
いい加減、船酔いしそうだ。
ケティム艦隊は、縦一列で進んでいる。
普通、回頭するなりなんなりして、攻撃に有利な位置へ付けようとするものだが、質草なしだと、問屋は簡単に商品を卸してくれないらしい。
迫り来る大波に向け、真っ直ぐ艦首を立てていないと乗り切れない。横波を受けたりしたら、たちまち横転だ。
右後方より接近しつつあるゼクトール艦隊。
大胆にも、うねりに舳先を立てていない。いつ転覆事故を起こしてもおかしくない状況である。
時間が進むと、ケティム艦隊の横っ腹へ斜めに突っ込んで来ることになるだろう。
分かっているが、先ほどの理由で左右へ回避する事が叶わない。
「対艦ミサイル準備完了しました。いつでもぶっ放せます」
CICより報告が上がる。
無理だろうな……
ロウィ艦隊司令は、ミサイル攻撃に疑問を抱いていた。
……自国の技術を疑っているわけではないが……。
一応、全天候型とされているが、風速60メートル越えの中、まともに飛んでいくとは考えられない。
それでも、攻撃せぬわけにはいかない。
腰の定まらぬ中だ。敵も迎撃に苦労するだろう。
よし!
「最後尾のカシウに攻撃させろ!」
駆逐艦カシウより、4発のミサイルが発射される。2艦に対し、2発ずつだ。
ミサイルはゼクトール艦に向け、揺れながら飛んでいく。
それなりの精度だ。命中する! と、淡い期待を抱いたとき、ゼクトール艦の対空機銃が火を噴いた。
飛距離半ばにして、迎撃される。
この揺れの中、実弾を当てるか?
海洋民族ってだけじゃあ説明は付かないぞ!
ロウィは言いしれぬ何かを感じ始めた。
横殴りの雨が視界を阻む。うねりは、鉄の船を上下に揺さぶり、乗組員の感覚と体力を奪っていく。
こうした劣悪な環境の中、ゼクトールの艦船だけが、気持ち悪いくらい速い。
右後方より迫るゼクトール艦隊は、ケティム艦隊と併走するコースへ入るだろう。
連中は、嵐の中、操艦に絶対の自信を持っている。
真横に付けて殴り合いをするつもりなのか?
「ゼクトールは我が艦隊の後方より、一杯ずつ潰すつもりだ。バウア大佐、意見を聞きたい。……バウア大佐?」
バウアは双眼鏡を持ち出し、窓の外を熱心に監視していた。
「右舷より高波接近。ご、50メートル、いや70メートルはあるぞ!」
風、海底地形、諸々の条件が作り出した予測不能の一発大波。
あり得ない波ではない……と思う。現に、目の前に、こうして現れたのだ。
「……あれは……ゼクトール艦隊は、後方より斜めにぶつかるぞ!」
うねりの方向とは別の方向より来る一発波だ。
「これは、やったかもしれない!」
戦力的に劣勢に立つゼクトールは、セオリーを無視することにより、一発逆転を狙ってきた。
それが仇となったのだ。
自然の猛威は、そうそうゼクトールに味方ばかりしない。
「ロウィ司令! ミサイル攻撃を進言します!」
バウアがロウィに進言する。
彼が何を考えているか。解らなければ艦隊司令など務まらない。
ロウィは命令を下した。
「全艦、ミサイルを撃て。ゼクトールに回頭する時間を与えるな!」
おいおいおい! ゼクトール艦隊、調子のり過ぎじゃねぇの?
次話「嵐の中の殴り合い②」
お楽しみに!




