24.ゼクトールvsケティム、艦隊決戦・第二回戦②
「あたらなくてもいい! 目視で撃ち続けろ! 見えなきゃカンを信じて撃て!」
バウァ大佐は声をからして叫んでいた。
ケティム艦隊の周囲を舞うブラッドレッドの電子戦機体。
この一機のため、偉大なケティム艦隊は目と耳を失ったのだ。随行しているはずの潜水艦隊とも連絡が取れない。
「うおっ!」
二つに折れた空母の艦尾が大爆発を起こした。
艦首もひときわ大きな炎を吹き上げた。
爆撃を受けてから五分と経っていない。これでは助かる乗組員もいまい。
空母そのものと、空母運営能力、そして戦闘機の機体と育て上げたパイロットの喪失。
ゼクトール本土への有効な攻撃手段を失った。
防御の要、イージス艦も機能を喪失。ただ浮いているだけだ。
大損害。
ケティムの赤字は確定。
今後の国際社会におけるパワーバランスの立ち後れ。
ケティムのシーパワー欠如における、海上支配権争いの脱落。
国家規模の損失だ。
この場を凌いで、ゼクトールを落としたとしても、占領と維持の力は無い。
本国より陸戦隊を呼んでいる間に、合衆国やロシアやPRCの横やりが入るだろう。
韓国とすすめているゼクトール開発計画にも……。
戦争は国家戦略の一つと認識しているバウア大佐。こういう時、先まで見えてしまう。不幸な能力であろう。
「ソナーに反応は無いか? ゼクトールは潜水艦を使うはずだ!」
バウアが何度目かの誰何を繰り返した。
「まだ、反応はありません」
聴音手から何度目かの返事が返ってきた。
ブラッドレッドの戦闘機が二周を終えた。
「なぜ打ち落とせん! ミサイルは!」
「ミサイルの追尾機能に機能障害が見られます。熱源、手動、共に働きません」
「なんだと!」
昔話を題材にした滑稽小説でたまに見かけるギミック。
それは「結界」。
バウアは、ふとその言葉を思い出した。
「ばかばかしい!」
これは科学的現象だ。頭を振って、バカな考えを振り払う。
「ゼクトール機、もう一機増えました」
「なんだと!」
バウアは、さっきから同じ言葉を繰り返している。
明るい赤色の機体だ。
艦船の間をツバメのように縫って飛んでいる。
所々で銃撃を加え、電子戦闘機の援護に回っている。
……時間稼ぎだ。
ゼクトールは、まだ潜水艦を使っていない。
兵員輸送船はだめだ。沈められるだろう。むしろそちらで潜水艦を使ったと考えるべきだ。
そうなると……戦闘機が補給を受けて、もう一度こられたら、……今度は対艦装備機がもう一機増えるだろう。
そうなると、自分の身が危ない。
なんてことだ!
ゼクトールの目から逃げるためには……。
「司令! 具申します!」
バウアは司令官に向かって声を張り上げた。
「なんだ?」
これはお前の責任だからな、といった目でロウィ司令はバウアを見下げた。
バウアはそれを意に介していない。
この艦体の責任者は、目の前で冷たい目をしている老将なのだから。
「すぐ東に台風が接近しています。あそこへ艦隊を隠しましょう」
「わざわざ具申するまでもない平凡な処置だな。で? 半身不随のイージスはどうする? 空母から落ちた兵もいるはずだ」
見捨てるのかと聞いている。
ロゥイは見捨てたいのが本音だ。救助に船を一杯残したとして、ゼクトールがそれを見逃すだろうか? 自分だったら見逃さない。餌食にしてくれる。
見捨てると言えば、ロウィはバウアに責任をおっかぶせるつもりだ。残した艦に損害が出ても、同じ事だが。
「フリゲートを一杯残しましょう。あいつは対空用です」
バウアにとって、ロウィの発言は想定内である。もとよりフリゲートには囮になってもらうつもりだ。
「よし、採用する。残りは東に進路をとるように」
ロウィは片方の頬だけで笑った。お前の考えなどお見通しだとばかりに。
こうして、ケティム艦隊4杯は艦首を左へ振り、全速でこの海域を離れていく。
ゼクトール機は、当然のように付きまとってくる。
「3番艦、艦隊として離脱せよ。被害艦の救助にあたれ」
対空フリゲート艦が、しつこいゼクトール機からの盾となった。
不思議と赤い戦闘機を振り切る事ができた。
ケティム艦隊は、大急ぎで嵐の海域へ入っていく。
ECMの影響は幾分マシになった。
近距離通信と近距離レーダーのみ使用可能となった。
まだ近くにゼクトールの電子戦闘機がいるのだ。
「海上は大荒れだ。各艦、距離をとれ」
大きな雨粒が甲板を叩く。上下動が激しくなった。周囲は暗い。
ECMの影響が徐々に少なくなっていく。
「取りあえず逃げ切ったな」
残された戦力で体勢を立て直さなければならない。
バウア達、作戦立案班の腕の見せ所だ。
台風の中心部へと艦隊を進めてく。
波のうねりがより激しさを増す。山のようなうねりが船を押し上げては、谷間にたたき落とす。
落差は大きいところで15メートルはあるだろう。
まれに見る大時化だ。
これ以上、中心部へ進むのは危険だ。
「近距離レーダーに船影。所属不明。軍艦クラスが最低2杯。4時の方向、距離――」
艦橋内がざわついた。
「まさか、ゼクトール艦隊か?」
ロウィはバウアの意見を求めた。
バウアは顎を指で掴んで考え込んでいた。
待ち伏せか?
この荒れ狂う嵐の中で?
ここに来ることを読んだ上で?
今の時代に艦隊決戦か?
砲撃しても命中率は低いぞ。ミサイルもこの嵐だ。まともに飛ぶか?
――しかし、奴らは素人だ――
バウアの考えがまとまった。
「司令、敵は素人です。あいつらの目的は艦隊決戦。砲撃による戦闘です」
「ばかな」
老将ロウィは鼻で笑った。
「上下運動が激しいこの状況で――」
いま、艦体が急降下した。
「――連中、訓練無しで何をしようというのだ?」
上下運動が激しい。
ロウィは、ふと思った。
……前回同様、連中は必死だ。
起死回生をこの一戦にかけているんだ。
これを侮ったら、第一次派遣軍と何ら変わりない。
「海洋少数民族の分際で!」
よし、正面から叩き潰してやろう!
「連中の左頭を押さえる! 機関全速! CIC! 弾を惜しむな!」
それにしても連中……、
まてよ?
嵐の中心部からやってきた?
ケティム艦隊にとって、現状が船を操る悪天候の限界だ。15メートル級の大波の中だぞ?
これ以上中心部へ進めない。下手に横波を受けたりしたら転覆してしまうだろう。
常に艦首をうねりに立てていなければならない。
だのに連中は、斜め後ろからうねりを受ける位置をとっている。
ロウィの頭が、すーっと冷めていく。
「海洋民族」
ケティム艦隊といえど、所詮沿岸型艦隊。内陸的な軍隊だ。
海で生きる人とは、正反対の民族。
古代――。
ミクロネシアの人々は、広大な太平洋を我が庭のごとく、小舟で航海していたという。
GPS方位磁石も、正確な時計もない遠い昔。
星と太陽と帆だけで、広大な海を渡っていた。
当然、小舟で嵐を乗り切る経験も豊富だろう。
「海洋民族」
進入不可能な領域より現れたゼクトール艦隊。
いやな予感がする。
次話「24.ゼクトールvsケティム、艦隊決戦・第二回戦③」
お楽しみに!




