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23.ゼクトールvsケティム、艦隊決戦・第二回戦①


 ケティムの「世界平和維持夢希望艦隊」、つまりケティム艦隊の空母より飛び立った、双発の小型ターボプロップ機が、ゼクトール艦隊に接近しつつあった。


 背に円形のレドームを装備した早期警戒機だ。

 標準的な作戦高度を飛行している場合、探知距離は200海里に及ぶ。


 ガス田からの通報で、ゼクトールが艦隊を出したことをケティムは掴んでいる。

 およその進路も、およその現在位置も想定できる。

 どちらが先に艦隊の影を踏むかが勝負。ケティム艦隊首脳部はそんな風に考えていた。


「いるとすればこの辺りで引っかかるんですけどね?」

 レーダーオペレーターがコンソールに齧り付いている。


「影も形もないな。もう少し先なのかもしれん。足を伸ばしてみるか」

「東に台風が発生しています。艦隊はそれを避けるため、航路を変更したようです」

「帰還が遅れると厄介だな。しかし、手は抜けんしな」


 機長は、さらに先を目指した。


 その時である!


 雲間から、いきなり赤い機体が目の前に飛び出してきた。

 正面から機銃を打ち込んでくる。


「うわぶっ!」

 銃撃を浴びた早期警戒機は、爆散。


「レーダーに反応しなかった」との言葉を発する間もなく、バラバラになって海面へ落下した。


 ブラッドレッドの機体。最後に飛び立ったグレース機である。

 外宇宙技術・隠密行動を使ったステルスモードで飛行していたのだ。


「こちらレッドバロン3。敵警戒機と遭遇。これを撃破。艦隊近しと判断。予定通り電子戦に入りますけど、お姉様方、ご準備はよろしいですか?」


「こちらレッドバロン1。現在、目標まで1万㎞の空域で待機中。こちらも作戦を発動する」


「待機お疲れ様です。ではタイミング合わせて、合流地点で落ち合いましょう」

 それで通信を打ち切った。


 グレース機は海面ぎりぎりにまで降下。機体各所に設置されたバルジより、各種波動を放射した。


 それらは海水や海底を透過して、超遠距離にまで影響を及ぼす。

 グレース機が放ったECMは、数千海里を制圧する規格外品であった。  




 ケティム艦隊は、緊急事態に見舞われていた。


「大規模ECM観測。通信障害発生」

「全レーダー、機能しません」

「ソナー、パッシブ、アクティブとも機能低下」

「肉眼による監視強化せよ! 空母へ連絡、直援機を上げよ!」

「各艦、戦闘態勢に入れ」


 ケティム式イージス艦1、対潜駆逐艦3杯、対空フリゲート1杯、そして旗艦である電子戦用駆逐艦1杯からなるケティムの艦隊は、空母を中心とした輪形陣を敷いている。


 この艦隊の、ありとあらゆる目がツブされた。

 だが、彼らは狼狽えない。こんなときに豊富な訓練量が物をいう。こうした事態を想定した訓練は、幾度となく行われている。


 各艦、定石どおりの行動を取っているのがその証拠だ。


 旗艦の航行用艦橋に顔を出したバウア大佐は、味方の冷静な行動に、胸を張っていた。

 通信量は限定されるが、各艦の意思の疎通に問題はない。


 既に艦隊上空では、三機編隊の戦闘機が哨戒している。

 空母より追加の戦闘機が飛び立ち、上空を旋回。哨戒に入る。


 上空で待機していた戦闘機が母艦艦橋のすぐ脇を超スロー飛行した。パイロットが何やらサインを出している。


「一時の方向。水平線に影。航空機と思われる」

 今も昔も、高い所に登れば、遠くまで見えるのだ。


「警戒機が抜かれたか? 対空戦闘用意。戦闘機を向かわせろ! 潜水艦に気をつけろ!」

 遅れてやってきたロゥイ艦隊司令が、矢継ぎ早に指示を出す。

「海洋少数民族の分際で!」

 ロゥイ司令のこめかみに青筋が浮かぶ。


 信号弾が上がった。


「機体、赤い。ゼクトール機確認」

 フランカー九機が、ゼクトール機らしき航空機へ群がる。


 空母はまだ所定量の機体を上げていない。無防備に近い。危険は早く排除するに限る。

 でも、敵は一機。味方がこの数ならボコれる!


「援護射撃、開始」

「レーダー連動できませんが」

「しっている。とりえずカーテンを引いておくのだ!」


 各艦より、射撃がはじまった。


「敵は三機のはずだ。別方面からの突入を見逃すな!」

 ロゥイ司令の指示は的確。老練で冷静だ。

 警戒は、さらに厳重なものとなる。


 その間にも空母は次々と艦載機を発進させていく。 


 十機目が、エレベーターでせり上がってきた時である。

 空母上甲板中央で火の花が開いた。


 一拍遅れて、轟音が轟く。ガラスがビリビリと震えた。


 もう一発、同一部分で火柱が空まで上がった。


 火薬庫か燃料貯蔵庫に火が入ったか?

 バウア大佐は、艦橋の窓から体を乗りだし、真上を見上げる。


 赤い機体が一機、垂直降下していた。


「どこから湧いて出た? 潜水艦の攻撃じゃないのか!」

「大佐!」

 副官が指さす。


 空母が真っ二つに折れていた。ど真ん中を中心に、艦首と艦尾が水面より顔を出してる。

 Vの字型になっていた。


「くそっ! 今は第二次世界大戦じゃないんだぞ!」


 爆発音が連続する。

 虎の子のイージスが爆撃を受けた。武装を含む艦上施設が根こそぎ吹き飛んでいた。


 急降下を終えたゼクトール機は、海面すれすれで機首を上げ、艦艇の間を縫って水平飛行。

 作戦立案責任者であるバウア大佐にしてみれば、してやられた感が半端ない。


 ……終わりか? 落とした爆弾は、たった2発だぞ?


 ゼクトールの電子戦機は、艦隊の周囲を巡るコースに入った。

 爆撃機が、一機だけで艦隊の後方へ抜けていく。


 ……あの方向は……。


「いかん、やつら後方の兵員輸送艦隊を狙っている! あっちには、ろくな護衛を付けていない! 早く撃ち落とすんだ!」


 言われるまでもなく、後を追うケティム戦闘機群。やられたままでは終わらない。

 相手はたった一機。しかも爆装した身重の機体。

 足はこちらの方が早い。このまま逃げられるはずはない。 


 最先頭を飛ぶケティム戦闘機隊の一機が、オレンジに近い赤色の機体に、手動で照準を合わせた。

 機体下のパイロンに、ゴテゴテとミサイルを積んでいる。

 狙うならこいつだ。こいつが爆撃機だ。


 レーダー類が死んでいるのでロックオンできない。しかしそこは技術職である。


「落ち――」

 最後まで発音できなかった。


 オレンジの機体後部上層に設置されたドームが素早く開き、筒状の何かが迫り出してきて発砲。

 今にも襲いかからんとしていた戦闘機が被弾。火を噴いて海面へ落下した。

 まるでレーダー射撃のような正確さ。そして破壊力。


「後部機銃?」

 慌てて間合いをとるケティム機。


 そこに隙があった。

 第一グループと第二グループの間に、明るい赤の機体が割り込んできた。


「どこから湧いた!」

 第二グループのケティム機パイロットが叫ぶ。


 先頭グループを飛ぶ二機のケティム機が、無抵抗のまま落とされた。


「なんだこいつ!」

 横に一回転しながら、180度方向転換した赤いフランカー。先ほど爆撃を受けた艦隊へ突っ込んでいく。


「なめやがって!」

 機体を力ずくで捻るケティム戦闘機隊六機。誰も爆撃機へ向かおうとしない。チームプレイに乏しい。


 赤いフランカーの背後をとることに成功したケティム・フランカーの数、五機。 

 パイロットとしての技量で射程に収めた。五機とも納めたのはさすがだ。


 トリガーを必要以上の力で押した。


 射撃が開始される前に、赤い機体の姿が消えた。

 ロストしたのだ。


 後ろに付き損ねていたケティム機は見た。

 糸の切れた凧のように縦回転しながら、ケティム機の下を抜けていく赤いフランカーを。


 赤いフランカーは一発で姿勢制御に成功。

 乗員の生命を無視した加速。

 あっという間に高度を上げ、ケティム機の背後に回った 


 三秒とかからない。

 五機のケティム機が撃ち落とされるまで。


 次いで、航空力学を無視したような横滑りを見せ、残った一機の背後に付く。

 こうして、ケティム戦闘機隊は壊滅した。



 この頃、電子戦機であるグレース機がケティム艦隊に突入していた。




本気出しました。コンピューターが。


次話「ゼクトールvsケティム、艦隊決戦・第二回戦②」

おたのしみに!

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