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22.ゼクトールvsケティム、艦隊決戦・第一回戦

”甘し国、美しき人々。椰子の林よ永遠に”

 ゼクトール国歌(作詞作曲:騎旗桃果)の一節より。(盗作疑惑有り)



 低気圧の巣が近くに来ているため、海は荒れていた。

 反して、新生ゼクトール艦隊旗艦ブレハートの艦内は、秘密のシステムが作動中につき、揺れはない。


「今夜は釣りたて、新鮮お刺身バイキングです」


 真っ白なテーブルクロス。大皿には、花びらのようにお刺身が盛り飾られていた。

 昼間、ハセンとブロスが自ら海に飛び込んで、手づかみで仕留めた海の幸である。


 トーヤ陛下のおわすところが宮廷であり、宮廷である以上、宮廷付き料理人がそこを仕切らねばならない。

 そんな理由で、ブレハート艦内主計科長を買って出たハセンとブロスである。

 当直外の乗組員も、涎を垂らさんばかりに目を輝かせている。


「美味しそう! いただきます!」

 取り皿にマグロの赤身をのせる桃矢。


「……あれ? お醤油がない?」

 見慣れた黒い万能調味料がない。


「トーヤ陛下、しばしお待ちを」

 ハセンがヌッと太い腕をだす。


 小皿に盛られていた、固くて小さくて青い柑橘類をゴツイ手で握りしめる。

「むううぅん!」

 モリモリと筋肉が盛り上がり、柑橘類は極小質量体となる。

 ぽたぽたと、澄んだ液体が滴り、お指し身に降りかかる。


「我が国名産、ゼクト・シトラス。どうぞ、お召し上がり下さい」

「え?」


 お刺身に柑橘類。

 桃矢は、恐る恐る切り身を口に運ぶ。


「あ、美味しい!」


 魚のプリプリ感に伴って、生臭さが綺麗さっぱり消え、なお爽やかな味わい。

 わさび醤油が攻撃的な味わいとすれば、ゼクト・シトラスは受け流す味わい。

 魚の身、本来の甘い味が堪能できる。


 桃矢は、パクパクと皿の刺身を食べていく。

「さすがです! うちの宮廷料理人は世界一だ!」

「恐れ入ります」

 自慢げなハセンとブロス。にんまりと凄みのある笑みを浮かべ、頭を下げて礼を述べる。


「さあ、みんなも食べて食べて!」

 既に全種類を制覇しつつある桃果は別として、乗組員の女の子達が大皿に群がる。


「慌てないで、ゼクト・シトラスは――むううん! まだまだあるから」


 ブロスとハセンは諸肌を脱いで、両手でゼクト・シトラスを握りつぶしていく。

 つーか、使えよ、機械を!


「食後のデザートもあるから、食べ過ぎないようにするんだぞ!」

 顔中の筋肉を総動員して、優しい笑顔を浮かべようと努力するハセンとブロス。


 二人と桃矢の周りは、花が咲いたように美少女達が華やいでいた。




 一方、ケティムの「世界平和維持夢希望艦隊」の平均的な食堂では……。


「何だよ、このごった煮は?」

 電測員である、フォル曹長が、夕食を目の前において溜息をついた。


 油でギトギトになったスープ皿。

 真っ赤な香辛料が表面を厚く覆っている。

 中身は、小骨の処理を施してない川魚だ。一口噛むごと、骨が歯茎に突き刺さる。

 厨房からは腐臭が漂っている。


 ほかに食べ物がないので無理矢理口に運ぶ。

 塩辛い。うちの調理部は、海水で煮炊きものをしているのだろうか?

 真水が貴重な軍艦では、飲料までも制限されている。


「なんだその不服そうな目は!」

 わざわざ食事風景の視察にやってきた士官だ。


「ケティム海軍兵士は、ゴム草履のようなステーキであろうと消化できる胃袋がなくてはならない! 甘ったれるな!」

 ゴム草履であろうと、ステーキなど出た試しはない。


 フォルは諦めた。ほかの大多数と一緒にガチャガチャ食器を鳴らし、音を立てて、料理らしき謎の物体を胃に収める作業に没頭した。


 それにしても部屋は暗い。テーブルも粗末だ。汚れていても拭き掃除はしない。

 隅のゴミ箱からは中身が溢れている。

 汗臭い男ばかりが詰め込まれた食堂。息苦しささえ感じる。


「お前ら、弛んどる! 罰として、今夜の風呂は無しだ!」

 士官が偉そうに叫んでいる。最初から風呂を使わせないつもりだったくせに。


 自分たちが真水を使いすぎたせいで、作戦初旬から真水が足りなくなったんだ。

 フォルは食べている間はもちろん、臭い寝床に汗臭い体を潜り込ませるまで悪態を吐き続けた。






「陛下、お風呂の準備が整いました」

 当直の主計士が入浴の案内にやってきた。


 桃果の強い意志により、風呂は日本式大浴場になっている。

 人数が少ないので、風呂のスペースがとれるのだ。

 ここ、ブレハートを含むゼクトール艦には、海水を真水に代える分類システムが設置されている。


 これが生半可な物ではない。

 一瞬で蒸留水とその他に分離する。調整すれば、水とマンガンだけをチョイスすることだってできる。


 なにせ、元ネタは宇宙を何十年彷徨うかわからない宇宙船用である。地獄のような艦内循環システムと比べれば、地球環境は天国を天元突破してる


 分類システムの効率はやたら良い。蛇口を捻れば水が出る。出しっ放しにしていても怒られない。

 よって、お風呂は二十四時間営業。



 ポロッポー、ポロッポー――。

 桃矢は壁に掛かった鳩時計に目を合わせた。


 当直の入れ替え時だ。乗組員達が、お風呂の順番をまっている。

「みんな先に入っててくれないかな? まだ片付いてない書類があるんだ」

 そう言って、桃矢は書類に目を落とした。


「しかし陛下……」

 桃矢を慮って反論する主計士を、桃矢は手を振ることで押さえ込んだ


「効率を重視しよう。僕は大事な決済を行っているところだ。僕が後から入れば、最終的に早く済む。わかるね?」

 にっこりと笑って答えてやった。


「はい! みんな喜びます!」

 にこやかに笑い、主計士は司令官室を後にした。   





   

 一方、ケティム・イージス艦では……。


「シャワー第一回は五秒だ! 浴び損ねるなよ!」


 むさ苦しい男共が、並んでシャワーを浴びる。

 体とスポンジを濡らした後はゴリゴリと音をたてて垢を擦る。石けんを使用している者はごく僅か。

 ムンムンと男臭い匂いが狭い浴室に充満していく。


 ジョリジョリジョリジョリ……髭を剃る音もそこかしこであがっている。

 ボリボリボリ……頭を洗う音だ。

 体を洗うついでに衣類を洗っている剛の者もいる。


「シャワー最終、二十秒。流し損ねるなよ!」


 きっかり二十秒。シャワーは止まった。

 なんだか、洗った体がネバネバする。


「交代だ! 次入れ!」


 ぞろぞろと出て行く毛むくじゃらフリチン野郎共。もそもそと入ってくる汗プラス加齢臭フリチン野郎共とすれ違う。

 大方の者はパンツだけをはいて。ごく一部の親父はブラブラさせたまま、居住区へ向かう。


 地獄絵図である。






 またまたゼクトール。

 ブレハートの大浴場。


「ういぃーっ」

 桃矢が、ジジ臭い声を上げながら体を湯船に沈める。


 町銭湯の湯船程度だが、一人だと大変ゆったりできる。

 女の子の第一陣が使用した後の湯船である。


 汗も流しただろう、オッパイも浸かったであろう、オ(自主規制)も浸かったであろう ……。


 いわば、女の子汁である。


 桃矢の狙いどおりであった。

 女の子達が肩まで浸かった湯で顔を洗う。


 大勢の女の子が裸体を浸した湯に潜ってみる。


 だが、断じて湯船のお湯を飲んだりしない。紳士の嗜みである。


 桃矢は思う。自分は地球一、幸せな男ではなかろうか?

 これからもずっと、毎日、女の子が使用した「後」の湯船に入れる。


 今夜はこのくらいにしておこう。


 女の子の一人が使ったであろう椅子を引き寄せ、女の子が可愛いお尻を乗せたであろう椅子に、自分のお尻を乗せる。

 シャンプーして、体を洗い、再び、女の子が入った後の湯船に浸かる。


 もう一度幸せを噛みしめてから、女の子が入った後の湯船を出る。


 女の子が使った湯船のお湯に浸したタオル絞り、体に付いた女の子が入った後の水滴を拭き取る。

 女の子が使った後の脱衣場への扉を開き……。


「あ」


 ブラジャーを外したばかりの桃果と目が合った。

 桃果のナックルが顔面に迫る。


 ……そうか、ならば甘んじて受けよう!


 桃矢の意識はそこで潰えたのであった。




 こうして、ゼクトール対ケティムの第一回戦は、人知れずゼクトールの勝利に終わったのであった!






 翌早朝。

 ゼクトール艦隊が保有する「目」がケティム艦隊の正確な位置を捉えてた。


 間もなく作戦発動海域である。

 戦闘準備限界海域でもあった。


 ゼクトール艦隊空母……もとい、戦術航空巡洋艦は艦首を風上に向けていた。

 ……べつに横風でも追い風でも発艦できる技術を有しているが、そこは雰囲気である。


 機体からバルジを多数飛び出させた三番機が発艦したところだ。


「第一作戦準備完了。続いて第二作戦に移る」

 桃果の指示が飛ぶ。


 フリゲート艦オボロを先頭に、旗艦ブレハート、戦術航空巡洋艦ファム、フリゲート艦カゲロヲの四隻が、一糸乱れぬ単縦陣で艦首の方向を変える。


 ゼクトール対ケティムの、公式第一回戦、実質二回戦が開始されたのである。



一部実話入りッ!


次話「ゼクトールvsケティム、艦隊決戦・第二回戦」

お楽しみに!

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