20.蒼海の対SS戦①
「海賊船発見! 続いて味方漁船発見!」
レーダーに偽装した魔索敵機関の一つ、動体感知システムが、目標物を水平線の向こう側に発見。
地球だの海水だのを貫いて目標を捉えたのだ。
時速にして200㎞越え。短時間で到達した。そのまま突っ込んだら、いろんな方面でまずいこととなる速度である。
「直前で速度を落とすわよ! 駆逐艦の諸元表をもう一度チェックなさい! そこに書かれているノット数が地球の艦艇の速度よ!」
相変わらず通常艦橋に仁王立ちしたまま、ざっくりとした指示を送る桃果……艦長。
まもなく目標物を視認。たちまちに接近する。
ゼクトール所属の帆走木造漁船を鮫のマークが描かれた高速船が追いかけ回している。
それも二隻でだ。
ぴったり寄り添うように併走している。これは何度か体当たりをされているようだ。
ここからでもわかる。木造船を操っている女の子達。泣きそうな顔をして頑張っている。
これはもう、強姦罪を適用してもいいんじゃないだろうか?
「エセ環境保護団体……もとい、環境パトロン商法……もとい、人命より魚が大事と……もとい、綺麗な言葉を借りた海賊め!」
よほど腹に据えかねている事があるのか、桃果の口が汚かった。
「でもね、あたしは所詮日本出身。穏便に済ませたいわ。とりあえず音声と無線で警告しなさい」
通信士がインカムを使って警告を通達している。
……一切無視された。
危険行為は一向に収まる気配はない。
非武装の船に、発砲するとイロイロまずい。
そこを逆手に取っているのだ。おまえら撃てないだろ?
弱者ゆえの強み。
「どうするの桃果ちゃん? 放水でもする?」
桃矢が次の手を提案した。
「仕方ないわね」
桃果の命令は――
「主砲発射!」
54口径 127mm単装重力砲塔が旋回。
ばちゅん!
重力弾を発射。
命中。
SSの船から船首が消えた。
被弾した船は、ゆっくりと停止。ゆっくりと傾いていく。
「火薬積んでないから、静かなものね」
乗組員達は一生懸命、救助艇をおろして乗り込んでいってる。
残った一隻は、仲間の船を見捨て、逃走に入った。
「さすが! 依頼者は海洋生物! と豪語するだけあって、仲間の人命は軽いのね」
高速艇だけあって、逃げ足もそこそこ速い。
「罪もないゼクトールの同胞に手を出して、ただで帰れると思われちゃ困るわね」
桃果が片方の頬だけで笑った。
「現在の距離を維持して後ろを付けつつ、時々発砲」
主砲に偽装した重力砲の、最大の秘密は発射前の着弾測定技術にある。
目標を固定した後、前もって未来時間と未来空間の特定予約を入れるのである。
これで、発射前から命中が決定したことになる。因果律の確定行為と呼ぶ。
この艦と同レベルの技術をもって、時空間予約を防御・妨害されない限り、命中は決定した事実となるのだ。
そして、時空予約を妨害する技術は、今の地球に存在しない。
ゼクトールを除いては。
これは、防御にも応用できる技術である。
自艦への被弾予定をキャンセルすれば、砲弾は当たらない。ミサイルなどの誘導弾に効果は薄いが、機銃や砲弾には100%の回避率をもっている。
「SSの船が逃げるところを映像で記録できる?」
突然、桃矢が変なことを言い出した。
「大丈夫です。記録開始します」
「たのむよ。僕がいいと言うまで、回しっぱなしにしておいてね」
何を考えているのか、桃矢も裏の仕事をしだした模様。
桃果も調子に乗ってきた。
「この際だから、各武装のテストも兼ねてみましょう! 連装機関砲、当てないように掃射3秒!」
連装式37㎜砲が弾を吐き出した。
これも、反則技で……2連装のうち、1つは高出力レーザー砲である。濃霧だろうが豪雨だろうが、光速で真っ直ぐ突き進み、破壊的な熱をぶちまける優れものだ。
そんな反則技に追い立てられているとはいざ知らず、SSの高速艇は、ある方向へと向かい、一生懸命逃げている。
その方向にあるものは……。
現れたのは……。
「ケティムのガス田……」
巨大なプラットホーム。
駆逐艦ブレハートの、何百倍もの大きい鉄骨建造物が、海に複数の足を突き立てて、こちらを睥睨している。
130メートル級の駆逐艦が小さく見える。
「まるで蜘蛛の巨大クリーチャーね……」
その数、12基。
ケティムが金を出し、第三国名義で建設、採掘されているプラットホームである。
ブレハートは、プラットホーム群を周回するように大きく回り込んだ。
「海に似合わないわ」
海洋生物の生物の宝庫・南の海に、骨剥を出した魔物のようなようなプラットホームは似つかわしくない。
異世界より滲み出てきた禍々しい生物に浸食されている。
そんな題名がよく似合う絵面だ。
「SSの船は?」
桃果が探査士に問いを発する。
「右から3番目のプラットホームの下へ潜り込みました」
「やっぱりね。南海の孤島ゼクトール近海は、世界より隔離された海域。何処かに基地がない限り、長期間にわたる滞在と嫌がらせはできないはず、と踏んでいたら、案の定ね」
ケティムとシー・セントバーナードは、実行動でも手を組んでいた。
なにが非営利環境保護団体か? 我々の依頼者は海洋生物ですと?
お金じゃん。
依頼者は、お金じゃん!
桃果は笑ってしまった。何がおかしくて笑ったのか、本人も解らない。
「悪意を持つ者は、善意の行為を主張する輩が多い。てか?」
桃矢も似たような感想を抱いたらしい。
「砲撃用意! 目標、SS船。プラットホームごと優れた魚礁に変えてやるわ!」
桃果の怒りが頂点に達した模様。
「ちょっと待とうか?」
桃矢のストップが入った。
「まずは、話し合いからだ。ガス田の責任者と話がしたい。通信士、段取りしてください」
桃果が、口を尖らせて桃矢に視線を向けている。
「艦隊司令官命令だよ」
「敵さん、しらばっくれるわよ。確実に嘘をつくわよ」
桃果は不満顔だ。
「そっちの方が好都合だ。と、言っても?」
「……なんか面白そうな予感がするわね!」
桃果の目が、狐の目になったのであった。
次話「蒼海の対SS戦②」
お楽しみに!




