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19.ゼクトール主力、つーか、全艦隊出撃


”常夏の国ゼクトール。南海に浮かぶ島”

 ゼクトール国歌(作詞作曲:騎旗桃果)の一節より


 翌日の午後一時。


 神殿半島の南。バナナと椰子の葉っぱで覆われた秘密ドックに、ゼクトール中の人が集まっていた。


 旗艦である駆逐艦ブレハート・ドノビを先頭に、戦術航空巡洋艦ファム・ブレイドゥ、フリゲート艦オボロ、同じくカゲロヲが順に並んでいる。

 見送りの民間人の中に、ロゼがいた。

 堂々と撮影しているのだが、誰も止めない。ゼクトールは今日も平常運転中である。


 乗艦口前に整列した全乗組員を前に、国防委員長のミウラが、短い訓示を垂れていた。

「――万難を排し、敵殲滅に努めよ! 以上!」


 ビシリと敬礼。

 ザシュッと返礼。


「全員、乗艦!」

「わーい!」

 水着にセーラー服の少女達が、わらわらと、鉄の艦に乗り込んでいく。


「では桃矢様」

「うん」

 桃矢が軽く答える。


「……もう一度進言します。乗艦を諦めてはもらえませんか? せめて下のブレハート『様』に乗艦を!」

 ミウラの綺麗な眉が下がっている。


 国王である桃矢が「軍艦に乗り」前線に出る。

 これ以上の国威掲揚はないだろう。しかし、事が事だ。危険である。

 桃矢の身に何かあれば、ゼクトールは自然と滅ぶ。


 ミウラが悩んでいるのはその事ではない。

 これ以上、ゼクトールの苦しみに、桃矢を巻き込んで良いのか否かだ。


「ミウラさん」

「はい!」


「この戦争で大勢の人が死ぬでしょう」

「はい」

 

「僕はゼクトールの国王です。だから安全な場所に籠もってるわけにはいかない。代理人や、精巧な身代わり人形をたてるわけにはいかない。それは責任の放棄なんです」


 ミウラは何も言い返せなかった。

 今回もこの少年に未来を託してしまう自分が情けない。


「そんな、情けない顔しないで。……ファムやブレハートが付いて来てくれる。桃花ちゃんの作戦も……奇策もばっちりだし」


 万全を期してくれた仲間に答えるためにも、生身の桃矢が出向かねばならない。

 それが信用というものだ。仲間を信じるという事だ。


「じゃぁ、行ってきます」

「相手は腐っても核保有国。どうかお気を付けて……」

 眉をハの字にし、潤んだ目で桃矢を見つめるミウラ。


 この人。こういう表情をすると大変色っぽい。同じ年なのに。

 桃矢は、胸をドキドキさせながら、手を振って登場口へ向かった。




「新生ゼクトール艦隊、全艦抜錨! 出撃せよ!」

 旗艦ブレハート「艦長」桃果が出撃命令を出した。


 桃果の、たっての願いと強権乱用で艦長職を取得していたのだ。

 なにせ実力だけを見れば、超弩級戦艦と呼んで差し障りがないのがこの船だ。


 ”戦艦は男のロマン” なにをいわんか……。

 桃果が、常日頃から言っていた言葉だ。ちなみに17歳女子である。


「抜錨!」

 ジャラジャラと音を立て、碇が巻き上げられる。


「楽隊!」

 ゼクトール臨時軍楽隊(ゼクトール小学校の吹奏楽クラブ)が、勇ましい吹奏楽を奏でる。


 曲目は、戦艦出撃で最も有名にして2199的なアレである。

 こんな遠くまで誰もこねぇし、パクったってわからねぇし、って事で、ゼクトール海軍正式軍歌に採用された経緯は、日本に対して極秘事項である。


 見送りにきた乗組員の家族から、声が掛かる。


「おおーい、トーヤ陛下に怪我一つさせたら、生きてかえってこれると思うなよー!」

「命を張っているのはお前一人じゃないぞ! なんかあったら、一族もろとも後を追うぞー!」

「いいか坊主、よく見ておけ。あれが男の船だ」(注・搭乗員の99.9%は女子)


 たいがい極右だった。


 四隻編成の艦隊は、よろよろとまろびながら港を出て行く。

 この艦隊出撃情報。特に隠していたわけではなかったので、ロゼの手によって合衆国へと流れていった。


 練度の低い中古艦隊の出撃として……。




 ゼクトール沖海域にて。


 赤いフランカー・三機が空母……もとい、戦術航空巡洋艦に、危なげなく着艦した。


 当然である。外宇宙航行世代のスーパーコンピューターによる、ほぼリモート操縦だからだ。ネコの操縦でも着艦できる。


 翼を休める三機をよくよく観察すると、各機ともカラーとデザインが少しずつ違うのが見てとれる。


 一機は抜けるように明るい赤。もう一機はオレンジに近い赤。最後の一機は不吉なブラッドレッド。

 一機はノーマル。もう一機は、やたら支柱が付いている。最後の一機は、バルジが下部に四個、上部に三個も付いている。

 三機は、順次効率よく、エレベーターで格納庫へと収まっていった。


 駆逐艦ブレハートを先頭に、戦術航空巡洋艦にして事実上の空母ファム、二隻のフリゲートが続く、単縦陣であった。セオリー無視の順序だった。



 通常航行用艦橋脇の見張り台に立ち、セーラー服を靡かせる桃果。

「おぉー」

 桃果が唸っている。


 目の下の海は、透明度マックス。


「おぅおー」

 海底に落ちたブレハートの影が見える。


「むぅ」

 これは桃矢。


 桃果の後ろ姿を見ている。

 セーラー服は薄い夏服。


「むぅ」

 逆光で透けている。


 艦橋を見渡せば、上だけセーラ服で下は水着姿の環境要員。体のラインはもとより、可愛いお尻の形が丸わかり。恵まれた環境である。


 はたして、それで良いのだろうか?

 目で見える物だけが、現実なのだろうか?

 目で見える物のほうが、優れているのだろうか?


 桃矢には想像力がある。人類を今の高みに押し上げた、逞しい想像力とそこに至る努力を持つ人だった。

 見えそうで見えない。見えなさそうで見える。


 ゼクトールの始祖、ゼクト親王は、艱難辛苦を乗り越え、安住の地、地球へと人々を導いた。

 不屈の人、ゼクト。

 歯を食いしばるのが一番似合う人、ゼクト。


 桃矢には彼の血が流れている。

 逆に言えば、桃矢の血がゼクトに流れている。


 つまり、ゼクトールの始祖にして偉大なる指導者ゼクトも、逞しい想像力とそこに至る努力を持つ人だったのである!


 それ故の「むぅ」である。

 深い「むぅ」である。

 神よ――。


「上のファム様から情報伝達!」

 その神が裏切った。


「すぐ近くでゼクトールの漁船がシー・セントバーナードに漁の邪魔をされています。体当たりもされているみたいです!」

 通信当直からの報告だ。


「なんですって!」

 桃果の眉が危険な角度に吊り上がった。だが、目が嬉しそうで、かつ危ない光を帯びていた。


「どっちよ!」

「どっちというか、ここです」


 中央に置かれたテーブルに、地球の曲面に沿った三次元で位置が投影されていた。

 ちょっと、地球の技術ではナイデスネー。


「ふーん、ケティムが勝手に採掘しているガス田の近くね」

 桃果はニヤリと黒く笑った。


「自国の民間船が海賊に襲撃されつつある! ブレハート単艦で救助に向かう。残りの艦は予定通りの行動。本艦が合流するまで、ファムを臨時の旗艦とする。以上!」


「進路変更。おも舵45度。両舷全速」

 ざっくりとした命令を適切な命令に分解して、命令していく副艦長(22歳女教師風黒めがね)。

 彼女こそ、実質上の艦長職なのだ。


「オモ舵ってどっちですか?」

 操舵士の少女(14歳)が泣きそうな顔をしている。


 副長は、叱ることなく、優しく答えてあげた。

「左に45度よ」

「右よ! おも舵は右! 取り舵は左!」

 桃果の鋭い突っ込みが入った。


「紛らわしいなら、右か左で命令なさい! そっちの方が安全だわ!」

「左舵45度!」

 副館長が真っ赤な顔をして再命令を出す。


「あの、リョウゲンってなんすか?」

 今度は機関士だ。


「スクリューが両方の舷側に、一個ずつ計二個付いてるでしょう? 両方とも全力回転しなさいって意味よ!」

「さすがモモカ様!」

 尊敬の念が籠もりまくった眼をキラキラさせて、機関士がモモカを仰ぎ見る。


 こんな事で尊敬されても困る。


 ……ちなみに、駆逐艦ブレハートに搭載された、外宇宙航行世代スーパー陽電子脳は、正確に意味を汲み取っている。少女達がざっくりした操作をするだけで、正しい入力が成されるシステムを採用しているのだ。


 ちなみに、攻撃方法にも、同様のざっくりシステムが採用されているので安心だ!


 さらに。

 駆逐艦ブレハートの乗組員数は艦長副長を入れて五十九人。ヴィムと桃矢を入れて六十一人となる。


 ちなみに、合衆国あたりだと、三百人以上で同型艦を運用している。


 いちおう、戦闘科だの航海科だのが設定されているが、だいたい、一部署1~2人の受け持ちでの3交代という超緊縮人事である。


 最大の人員が、主計科とは名ばかりの艦内食堂勤務者おばちゃん十二人であったりする。

 バランスの良い食生活は大切だからね。


 てか、艦内業務のほとんどをポジトロンがやってしまうので、人数が少なくて済むのだ。

 もちろん、欠員発生など想定の外だ!


 そんなこんなで、ブレハートは大きく傾ぎながら航路を急速変更。艦尾に白く立つ泡を長く引きながら(消すこともできる)、一直線に該当海域へと向かうのであった。   




次話「蒼海の対SS戦」


お楽しみに!

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