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16.艦船概要(チートとは)

 その日。中継基地に集結を終えたケティム艦隊は、ゼクトールに向け、密かに出撃した。

 ゼクトール領海到達まで、あと数日。目と鼻の距離。




 同日、ここゼクトールでは――。


「まずは、これを見てほしい」

 元の緑色スライムに戻ったヴィム。紙製の筒を取り出した。


「なんなのこれ?」

 桃果が覗き込む。桃矢も興味津々だ。


 ここは新生ゼクトール艦隊旗艦、駆逐艦フブレハート・ドノビの貴賓室だ。国王の個室となる部屋だ。

 大きめのテーブルが一つ。その周囲に、ヴィムと桃矢と桃果が陣取る。


 天井には、換気扇を近未来デザインにしたような機材がぶら下がっていた。


「あれ何?」

 桃果が換気扇を指さす。


「安全装置だ。まあ、黙って見てろ」

 ヴィムが先ほどの紙製の筒をテーブルに乗せた。


「マーブルチョコレート……の筒状入れ物?」

 桃果が指をさして変な顔をした。


「うむ、そのとおり。マーブルチョコレートである」

「これがなに?」

「まあ、黙って見てろ」


 ヴィムはどこからか蝋燭を一本とりだし、マッチで蝋燭に火を付けた。


「紙は燃えるのよ? いい? 紙は、燃える、のよ?」

「モモカよ、それくらい知っている。……いいから、黙って見てろ」


 ヴィムは工具箱を取り出し、中から部材を五つばかり取りだした。

 それは、ちょっと金を出せば、どこででも手に入る物ばかりだった。


「それが何?」

「だから、黙って聞けと! この芯に、これをこうしてあれをこうして……」


 それぞれ、微妙な角度を付けながら取り付けていく。


「そして、この熱エネルギー……蝋燭の火を下から……こう……」

 マーブルチョコレートを垂直に立てて固定。筒の下から蝋燭の火で炙る。


「だから何よ?」

「黙ってみていろと……ほら来た!」


 芯の上部に、淡い光が灯る。

 と、ジェット音を立て、マーブルチョコレートと同じ直径の光が吹き出した。


「うわっ!」

 びっくりした桃矢と桃果が、互いの体を抱き合った


 エネルギーとおぼしき光の束は、天井の換気扇モドキに吸い込まれていく。


「フフフフ、びっくりしても仕方ない。これは地球に無い技術。蝋燭の炎程度の熱エネルギーを五次元理論で高効率抽出と同時に増幅するサーキットだ」


「紙の芯に取り付けたのは、地球製の小物だよね? まさか、こんな簡単な方法で……」

 桃矢は、マーブルチョコレートの筒を凝視している。


「フフフフ、着眼点の違いだな。ワタシに言わせれば、エネルギー保存の法則なんか存在しない。これは今の地球科学と別系統になる発想だ。気づく方がどうかしている。もっと驚いていいぞ!」

 ヴィムは胸を反らして自慢している。


「うわー」

 桃果は白い喉を見せ、エネルギーの束を見つめている。


「天井に取り付けたのは、……バッテリーだと思ってくれていい。あれが無いと天井に穴が空くからな」

「へぇー」

 桃果の手がニギニギしている。


「あ、間違っても筒を横倒しにするなよ。ワタシでも死ねるぞ」

「こう?」


 桃果の手がヒョイと伸び、マーブルチョコレートの筒を横倒しにした。  


「ギャース!」


 ズビィムと着弾音を立て、ヴィムの体に命中した部分が黒く炭化。体組織を貫通し、背後の壁に穴が空いた。


「アウ! オウ! 宇宙分身の術!」


 消し炭になったヴィムの体が二重にブレ、もう一体のヴィムが飛び出した。


「ば、馬鹿者! とっさに平行宇宙のワタシを召喚してデーターを受け渡したから助かったものの、一歩間違えたらどうなっていたか! 絶対に人に向けてはいけません!」

「こう?」

「アンギャース!」


 緑色のヴィムの体が二重写しとなり、青色のヴィムが飛び出した。


「あっ! 体色の違う平行宇宙! こら! 平行宇宙の数は限りがあるんだぞ! トーヤ司令! 桃果の手が動く前に蝋燭を消せ!」


「はいっ!」

 桃果の手が三度動いたが、エネルギー源である蝋燭が消えているので、事なきを得た。


「はぁはぁはぁ……。と、とにかく、このエネルギーは強大であるため、電線だとか光ファイバーだとかの原始的なブツじゃ伝達できない。専門のエネルギー伝導管が必要だ。こればかりは地球の技術で手に負えない」


 青い体色に変化したヴィム。さっさとテーブルの上を片付ける。


「とにかくっ! これが原理だ。こいつの発展系機関をこの艦の機関として装備してあるのだ!」

「へー?」

 桃矢は素直に感心していた。


「艦のスピードが出るって事?」

 桃果はジュースのストローを口にした。


「これだから……コホン! 小型軽量化、燃料タンクの小型化によるスペースの確保。そんなのはオマケ。本命は、この機関によるバカみたいな発電量だ。本気になれば、北米大陸の年間発電量を常時確保できるんだぞ。どうだ!」


「はっ!」

 桃果が気づいた。

「ビーム砲、撃てるじゃない!」


「もっとスマートに、重力砲で手を打っておけ」

 ヴィムが笑う。 


 久々に桃果の目が狐になった。

「グラビティ・カノン、良き精霊が宿りし言霊だこと!」


「レールガンなんざ目じゃないぞ。任意で重量を変化させられる疑似質量体を、これまた任意の速度で射出する。音速の十倍以上なんざ目盛り一つ分だ。10トンの質量体が、超音速で目標にぶつかる事により、もたらされる被害を想像するのだな。さらに因果律着弾機構採用だから理論上、外れなし。そんなところかな」


 ヴィムがほくそ笑んでいる。


「ドンドンいきましょう! 対空砲とか、ほかの兵装は?」

 桃果のテンションが上がった。


「対空砲というか、機銃は、実弾に偽装した高出力レーザーだ。調子に乗って魔改造した索敵システムを専用に設定することで、たとえターミナルフェイズの弾道ミサイルだろうと七割の確率で落とせる!」


 一連射あたりの確率が七割である。二連射すれば十割を超える。この場合、そういう計算方法だった。


「こいつは趣味……もとい、システムの相性の問題で因果律サーキットは使用していない。飽和攻撃の場合、意図的に撃ち漏らし……もとい、三割の確立で撃ち漏らしするのは仕方ないこと」


「撃ち漏らしは弾幕のロマンよね!」

 同じ趣味の少女がいた。乗組員にとって御免被りたいロマンである。


「撃ち漏らす可能性があるなら、装甲が心配よね?」

「安心したまえモモカ殿。撃ち漏らし設定……もとい、そういう事もあろうかと、見える部分の船体には超高分子皮膜が張ってある。四十六㎝クラスの砲弾による直撃は、さすがに不安だが、それ以外ならはじき返せる。喫水下の見えない部分は、やりたい放題させてもらった。この件に関しては謝罪する。しかし反省はしていない」


「いいわねいいわね! ドンドンいきましょう!」

 桃果はヴィムをあおり立てた。トーヤは本能的恐れで身を縮こませている。


「探査システムは高次元波動式……まあ、なんだ……未来予知だとか、危険感知と言った方がしっくり来るかな? 空中海中地中音響熱宇宙次元スキル時間重力生命反応、まとめて面倒見てくれる!」


 簡潔に言うと、――

 魔法探査ということだ。


「ミサイルは……飾りだな。命中率を上げたのと、多機能性を持たせただけかな? 実弾砲が発達すると、自動的にミサイルは役割を終える。大艦巨砲主義の復活だ。タミアーラが建造された頃の准恒星破壊真惑星破壊戦戦術モデルがそれだからな。遠慮なく導入させてもらった」


 なんとなくゼクトールの始祖が、あての無い長旅に出た、その経緯がわかった気がする。


「はっ! 大艦巨砲主義! 燃えるわ! 男のロマンね!」 

 女の桃果が萌えていた。いや、燃えていた。川崎のぼる先生かくや、田中先生たぶん未コピー、とばかりに瞳が燃えていた。

 この間、桃矢は一切口を開いていない。挟む隙が見切れないでいた。


「フフフフ」

 ヴィムが悪徳商人の様に笑う。


「制御システムはもっとエグイぞ。聞きたいか?」

「いいえ、やめておくわ。知らない方が良い気がするから」

 そう言うものの、桃果の目が笑っていた。


「もう少し時間があれば趣味全開、もとい……、丁寧に仕上げた製品で納入できるのですがねぇ」

 疲れていないはずだが、ヴィムの体色が黒く変色しだした。


「ヴィム。あなた相当のワルね」

「いえいえ。モモカ様には敵いませんよ!」

 ウハハハハハ!

 ワハハハハハ!


 二人揃って大笑い。

 この二匹の魔物を野放しにしてはいけない。


 桃矢は、ケティム戦争以上の危機を感じていたものの手出しができなかった。王の権力など、微々たる物だ。


「ところでヴィム」

 桃果の表情が真面目なものに戻った。


「後ろの壁、修理しといてね」

「え? でもこれモモカ殿が……」


「サッカーでもボールが場外に出た時、最後にボールに触れたチームの責任となるんでしょ?」

「え? サッカー?」

「バスケットでも良いわよ」

「え?」

「修理しといてね。明日出撃だから」

「え?」

「ケティムがゼクトールに到着するまで、あと四日よ!」

「え?」

「あんたも、同乗するのよ」

「え?」


 間もなく、新生ゼクトール艦隊出撃となるのである!



PCがヤヴァイです。

ピーって鳴ったまま動こうとしません。

古い(XP)PCでアップしてますが、いつまで保つかわかりません。


次話「特派員ロゼ・ガードナー」

お楽しみに!

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