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15.ゼクトール御前戦略会議


 気づかないわけがない。


 ケティム艦隊が自港を出発した後に、別の軍港から正空母と兵員輸送艦が出発したことを。


 戦略爆撃機と戦闘機が、ゼクトールの空軍機によって撃墜された事を。


 潜水艦による追尾。軍用通信頻度による推測。その他諸々の、決して公開されぬ情報ソースにより、それらは日の目を見ていた。


 仕入れたのは合衆国。

 ただし、元が不確かな情報である。多少歪んだ内容で伝わったのは、ご愛嬌であろう。


 合衆国とその同盟国、ならびに意図的に情報をリークされた仮想敵国の専門筋は、ある一点で首をかしげてる。


 ケティムの空母と兵員輸送艦は、侵略戦争の代名詞として喧伝できるであろう?

 爆撃機撃墜。これこそ、国際社会的に利用価値の高い戦果であろう?

 なぜ、ゼクトールはその事実を公表しない?


 この事に関し、ゼクトール首脳部から、何らかの強い信念を感じる。

 それは、たぶん理解しちゃいけない類の物だ。


 ゼクトールは、この戦いに関して、何かを強く深く考えている。それを考えているのは、私達とは違う思考方法の持ち主だ。


 腐ってもケティムは核武装した大国。

 ゼクトールは、ケティム国土を灰にするような完全勝利など考えておらぬだろう。


 どこで決着を付けることで、勝ちと設定しているのか?

 そのために、どのような戦略を考えているのか?

 合衆国国防総省本庁舎は、特別予算を組んで、ゼクトールの行動究明の特別チームを立ち上げた。




 ここ、ゼクトール・テント式宮殿では……。


 桃矢達、国の重鎮による戦略会議が開かれていた。

 ゼクトールの行く末が、ここで決まっていく。そんな重大な会議なのだ。


 まず、国王・桃矢からの質疑だ。

「ねえ、桃花ちゃん。爆撃機落としたの、公表しないの?」


「どうやって? ゼクトールにマスメディア入ってないでしょ?」

 桃果の応答である。


 さらに国王よりの質疑が飛ぶ。

「戦争の終わりはどこに設定してるの?」


「決まってるじゃない! ケティム国土を消し炭にするまでよ! その前に泣いて詫び入れてきても可、よ!」

 桃果の答弁はわかりやすい。


「これからの戦略なんだけど……」

「プロパガンタよ! 開設したSNSは驚くほどの炎上祭りよ! ここでもう一燃料投下するわ! ミラ! 例のものを!」


 桃果が合図を送ると、文部科学委員長のミラが、パネルを取り出した。


『立てよ国民! ジーク・ゼクトール!』

『やってみなきゃわかんねーぜ!』

『間違っていたのはゼクトールじゃない。ケティムだ!』

『今、絶対君主主義が熱い!』


 そんな危ない文言が、危ない二次元画像と共に踊っていた。

 ジークの方など、某総帥のコスプレをした桃矢。背景は二次元の合成だ。


「どう? これが最先端の戦略よ!」

 自信満々、魅力的な胸を張る桃果。 


 どうと聞かれても、答えに困る。

 いや、どこかから、もの凄く怒られそうなのだけはわかる。


「アフィで荒稼ぎよ!」


 余談であるが、某国におけるゼクトール向けの特別予算額と、ゼクトールがアフィリエイトで稼いだ金額は、ほぼ同額であった。


 これも後日談であるが、予想通り、もの凄く怒られた。


 日本人であるゼクトール・ツートップは、その方面のお怒りに脆い宿痾を持っている。

 核兵器で脅されるより効果的だった。


 ゼクトール唯一にして最大の弱点である。この辺、ケティムに突かれると総崩れとなってしまうのだが、まだ誰も気づいていない。


 なんにしろ、急遽キャンペーン中止。

 内容も――、


『隠れキャラ、スライムを探せ!』

『ネコの島。癒やしの珊瑚礁』

『めんそーれ、ゼクトール』


 そんなありきたりの観光フレーズへ変わるのに、大した時間はかからなかった。


 閑話休題。


「なんだか大幅に脱線した気がするけど、……ケティムは4つの艦隊を持っているわ」

 桃果は白版に列記していく。


①国防用途に向いた第一艦隊 

②対近接諸国上陸支援艦隊である第二艦隊

③近隣諸国恫喝用の第三艦隊

④同じく第四艦隊


「この中で……、第三艦隊が第一次ケティム艦隊だったみたいね。後でわかったことだけど」

 ペシペシと指揮棒で③の文字を叩く桃果。


「第二次ケティム艦隊は、おそらく第四艦隊を中心とした編成で望んできている筈よ」

 続いて④の文字をコリコリする。


「ケティムが出せる艦隊はここまで。本土防衛、対外圧力、維持効率を考えると、今回の艦隊派遣自体、国家的経済損失となるはず。自国労働者の福利厚生を無視した工業製品生産によって得た大量の資産が有って、初めて可能とするもの。海軍力回復に10年はかかるわね」

 桃果は、コンコンと白板を叩く。


「でも、さすがに後はないわ。これを叩けば、ケティムにゼクトールを攻撃する手段は無くなるの。――経済的な意味で!」


 所詮、戦争は経済活動の延長。実入りが見合わなければ、敗戦と同義語である。

 委員長の間から、感嘆の吐息が漏れた。

 桃果に対する信頼度はますますアップしていく。


「以上、敵勢力分析終わり! サクサク行くわよ!」

 桃果が指揮棒を乱暴に振り回している。尊敬の眼差し効果により、テンションが上がったのだ。


「次の議題、対ケティム戦プロット会議にはいるわね!」

「プロット会議ってなんだよ?」

 桃矢が新しい単語に突っ込んだ。


「もうね! あたしに言わせればね! 戦略なんて言葉はね! 古いのよ!」

 さっき戦略がどうとか、桃果らしき少女が言っていたはず。


「時代は戦略からプロットへ変わっているの! 最終目的は、ケティム全土を焼土化すること。それまでの構成を文書化する。それがプロットよ!」

「焼土化……本気なんだ……」


 聞く人が聞けば恐ろしい結果になりそうな言葉をさらりと吐いた。


「なるほど! それはわかりやすい!」

 過激な言動をさほど気にしない人がいた。ミウラだ。


「モモカ様、ご解説の続きを!」

「うむ!」

 桃果は白版に向かってマジックを走らせる。


 1、第二次派遣艦隊の返り討ち。

 2、ケティム国土防衛艦隊の打破。

 3、ケティム国土への直接攻撃。


 たった3つだけだった。

 すごく雑。

 序破急ですらない。


 なんだか、真面目に戦略を考えている兵隊さんに悪い気がする。 


 腕を組んだ桃果は、自信満々な態度で演説を続ける。


「3番目のミッションをもって戦争終了とする。各ミッション終了毎に、降伏勧告を求めることにする。3番目のミッション終了時点で降伏しない場合……」


 桃果が言葉を飲んだ。集まっている諸委員長を順番に見て回る。

 そしておもむろに口を開いた。


「4番目の案として、大気圏外から、大質量体を落とし、ケティムそのものを海の底に沈める!」


 神をも恐れぬ大量殺戮計画に、九人の委員長は凍り付いた。

 ……ファムの力を使えば可能であろうから、余計に怖い。


「みんな、聞いてくれ!」

 桃矢が立ち上がった。


「桃果ちゃんの悪魔の所行を阻止するため、あらゆる手段を用いて停戦に漕ぎつこう!」

「はいっ!」

 九人の委員長の声が被さった。


 緊張で部屋の空気が、粘ちっこいほど重い。


「はいはい! 皆さん熱心ね。ご苦労様。ここで一息入れましょう。ドーナッツができましたよ」

 ジェベルさんが、山のように盛ったドーナッツを持って入ってきた。


「わーい!」

 一気に空気が明るくなるのであった。




 ……結局、作戦の第1段階における目標は、ドーナッツを含んだ大人の諸事情で、ケティムの中継基地の無効化ということで落ち着くこととなった。




次話「艦船概要チートとは


お楽しみに!

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