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13.知将vs女子高生


「たった一機にやられたのか?」


 ここは「世界平和維持夢希望艦隊」旗艦ジムイの作戦会議室。

 周囲を計器類で埋めた、近未来的な作戦室である。

 艦隊の頭脳である高位将官、5名が緊急召喚されていた。


「しばらく隠しておくしかないな」

 艦隊司令のロゥイ・ドコル少将が、眉間に皺を寄せ渋い声で呟いた。


「賛成はできない、しかし反対するよりはベターだ」

 七十歳近くの老将が冷静さを失っていた。

 作戦立案の中心人物、バウア・フュジョン大佐は、心ここにあらずであった。

 ロゥイ司令のように、狼狽えてはいない。


 早く戻り、スタッフ達とこの件を詳しく分析したい。

 五十を少し回ったばかりの彼は、知的好奇心を満たしたいという要求に素直だった。


 バウアは、軍大学を首席で卒業後、作戦立案部門をひたすら歩んできた男だ。

 自分は諸葛孔明のような天才軍師ではない。と自負している。


 自分がこの地位にあるのは、優秀なスタッフとの共同作業の結果であると認識している。

 それだけに、作戦立案・実行に絶対の自信があった。


「事後処理であるが……」

 事後処理にバウアの出る幕はない。すでに彼の頭脳は、解析処理に向けられていた。


 赤いフランカーは、先の戦争での鹵獲品だろう。

 空母が丸々鹵獲されたのだ。即実践配備可能なフランカーが存在していたことは、作戦立案部でも指摘されていた事案だ。


 ただ、フランカーを運用できるシステムがない。パイロットだって子供が三名。しかも年端もいかぬ少女。

 そう結論づけていた。


 これが甘かったのだろう。

 また、どうやって爆撃作戦を正確に見抜いたのだろうかという疑問が残る。


 連中は追い詰められたネズミだ。

 極端な物言いが許されるなら、連中は夜も寝ずに訓練し、食事の暇も惜しんで警戒していたのだろう。

 あのクソ忌々しきゼクトール人は、国民を総動員し、挙国一致態勢でケティムとの戦争を継続しているのだ。


 事実、その努力に第一次攻撃軍が負けてしまったのだ。

 空を飛ぶ巨大な少女に攻撃されたという。


 ありえねぇだろ?


 バウアをはじめとした、軍の常識人は、理知的な解明を行った。

 レーダーに反応無し、との報告があった。 

 水中に没した際も、ソナーに反応無し、との報告があった。

 砲弾・ミサイルは命中したが、破壊できなかったとの報告があった。


「手品の類いだな」

 それが、およその結論の方向だ。


 例えば、プロジェクトマッピング。

 当時、天候は悪く、雨が降っていた。

 スクリーンに不足しない。


 そして、ゼクトールの若き国王は、日本出身だとの報告だ。

 艦艇の被害は、すべて喫水下の損害。


「魚雷攻撃だな」


 だとすると潜水艦か?

 問題はどこの、どんな潜水艦かだ。


 最初は合衆国を疑った。かの超大国も油田の権利を狙っていたからだ。

 正式に抗議も行った。

 しかし、その後、合衆国の打撃艦隊も損害を受けた。


 犯人は合衆国ではない。ケティムは恥を掻いた。

 この恥も、今回まとめて返さなければならない。


 艦隊司令であるロゥイ少将には、軍需品横流しのノウハウを教えてもらった、という恩義がある。

 おかげでバウアの一族は裕福になれた。娘は、カナダ国籍を持つことができた。

 この恩は返さなければならない。


 話を戻して……


 残った容疑者は日本かPRCか?


 ……日本はないな。だとするとPRCか。


 PRCならあり得る。あの国は南海の覇権を狙っている。ゼクトールと利害は一致する。

 ケティムが戦う相手は、PRCに援助された国とみて、用心しなければならない。


 だが、ケティムが負けるとは思えない。


 両国には、戦略、戦術立案能力に大きな差が開いている。

 我々は、ゼクトール軍の弱点を把握している。


 小賢しい連中をこの掌の上で引きずり回して、こねくり回していいようにあしらってやる。


 今回の艦隊、第二次派遣艦隊とも言うべき「世界平和維持夢希望艦隊」は対潜能力を強化した編成だ。

 新型潜水艦、なにするものぞ!


 用意周到、準備万端。戦う前に勝敗は決まる。より努力したものが勝つ。


 過去から現代に至るまで、戦いの原理原則は変わらない

 今の時代、前石器時代からテロ時代まで全戦闘記録が保存されている。それを分析応用できる者が勝者となるのだ。


 それがバウアの信条。


 第一次攻撃軍のように力任せは使わない。

 頭脳戦だ。敵を適正に判断し、ケティム主導で攻勢に出る。


「では、私は早速この案件を持ち帰り、攻略作戦をもう一度揉んでみます」

 作戦室の話が途切れた頃合いを見計らい、バウア大佐は席を立った。


 バウアは、一つの作戦を密かに遂行している。

 ゼクトールのような国には、たいへん有効な攻撃手段だと思える。

 今、ケティムの知将が、冷ややかな闘志を燃やし始めた。




 ほぼ同時刻のゼクトールでは……。     


「おお、よくやった! 褒めてつかわす!」

 桃矢ではない。桃果のお言葉である。


「ははっ! 有り難き幸せ!」

 自然に礼をとるノイエ中尉、十五歳。ご存じ、赤い三連星の隊長である。


「ノイエ隊長凄いです! たった一機で爆撃機と戦闘機を打ち落とすなんて!」

 最年少のパイロット、グレース准尉がはしゃいでいる。


「しかし、機体の差とは恐ろしいものです。ミグが同じジェット戦闘機だったとは思えません」

 副隊長のタマキ少尉が、赤い機体を撫でていた。


 戦場に出たのはノイエ隊長一人ではない。残りの二人も、後方予備役という陣形で出撃していた。


「今度の機体は優秀です。わたしでも思い通りに操縦できます。思っていない動きまでします。まるで自動操縦です!」

 余程嬉しいのか、グレースのテンションが高い。


「急激な運動をしても、Gを感じません。凄いです、フランカー!」

 赤い三連星三人が、花が咲いたように笑っている。なんだか平和だ。


「トーヤ陛下、栄養満タン、ツナマヨサンドイッチをお持ち致しました」


 セクトール王宮付き料理人、ハセンとブロスの怪獣コックコンビが、ヌッとその巨体を表した。


「よしよし、後は僕たちに任せて、三人はサンドイッチ食べといで」

「わーい!」

 三人は兵舎へと駆けていく。


「まだまだ子供ですな」

 ハセンが優しい目をして、三人の少女を見送った。


「まだ銃で撃たれて事もないのでしょうな」

 ブロスは悲しそうな目をしている。ちなみにゼクトール人は普通、銃で撃たれるような生活などしていない。


「あれ? ブロスさん、銃で撃たれたことあるの?」

 桃矢が心配そうな目でブロスを見つめている。


「はい……。とは言うものの、九㎜弾以下ですと、心臓や顔面以外の筋肉を通しません。万が一の場合は陛下の盾になる所存!」


 本当だったらマジで心強い。


 ブロスは凶悪な笑顔を浮かべ、胸ポケットに手を入れた。

「万が一のため、心臓部分にコインを入れております」


 ブロスが取り出したのは、アイゼンハワーの横顔が刻された、シルバーの1ドルコインだ。

 ビットコインだったというネタだったら、どうしようかと思った。


「おっと、夕食の仕込みに入る時間だ。それでは陛下、失礼致します」

 二人は礼を尽くして下がっていった。


「うん、あの二人がいれば安心だな」

 桃矢の顔色はたいへんよろしい。


「万が一、ケティム海兵隊が上陸したら、最後はあの二人と戦うことになるのね。……ゼクトール側の人間でよかったと心から思うわ」

 さすがの桃果も、ケティムに同情していた。


 二大大怪獣は、ひよこのアップリケが付いたエプロンの裾を颯爽と靡かせ、部屋から出ていった。


「うまくいったようだな」


 代わって現れたのは、ポイズンスライムへと進化を遂げたヴィムだ。

 体色が、這いずるような吐き気を催す色になっていた。


「一機当たり、自立思考型ポジトロン脳を三基設置したからな。最初に設定した予定に基づいて、自発的に行動する。変更や判断は、パイロットである人間が行う」


 高度な自動操縦のことらしい。


「攻撃に関してだが、超因果律型自動射撃システム搭載光推進機銃だから、貫けぬ物はない。結果を先に確定する時間横断型射撃システムであるから、パイロットは目標を選択するだけで良い。先に命中してから発射するんだ。意味解るか?」


 魔改造フランカーの射撃システムは、技術格差を通り越して魔法のレベルにある、ということらしい。


「機体全体に慣性制御結界(フィールド)が張られている。機体がバラバラになるような過激な運動をしても、自転車並みのGに落とせる。もっとも外装は、宇宙戦艦ファムの関節部に使われている軽量装甲に換装してあるから、直角ターンしたって破損なんかしないけどね」


 ヴィムは、自慢たらしく毒々しい色に変色した体を反らして笑う。


「動力は、タミアーラの技術を使用した。慣性重力推進システムだ。今の人類の技術レベルから推測すると、あと五百年以上は先のものだな」


 左右にヨタヨタと揺れる軟体生物。


「ご苦労さん。休憩に入ってもいいわよ。五時間のヨガの眠りを許可する!」

「ご、五時間ももらえるのか?」

 疲れにより判断力をなくしている模様。


「五時間の後、シャワーと簡単な運動は認めるわ。その後は、またゼクトールのため、がんばってもらうわよ! なにせあなただけが頼りなんですからね!」


「シャワーできる? 運動できる? ワタシだけが頼り?」

 早く休んだ方が良いと思う。


「が、がんばるぞ! おー!」

 なにやらブツブツ呟きながら、足を引きずるように(足はないけど)してヴィムは部屋を出て行った。


「ヴィムさん、病気にならないか心配だよね?」

 痛むのだろう、桃矢が胸に手を当てている。


「生かさず殺さず。それが用兵の基本よ」

 忘れていた。ゼクトールには鬼がいたことを。


「所詮、戦争なんて物量と火力なのよ。例えば、魏と呉と蜀の英雄と精鋭の軍団を諸葛孔明が率いて戦争を仕掛けられたら、桃矢、あなたならどうする? どんな手段をもちいて反撃しても良いわよ」


「えーとね、白旗上げる用意をするかな? 桃花ちゃんは?」

「わたしだったら、核兵器を使うわ。どんな天才軍師でも、どれだけ用意周到な相手でも、所詮刀と弓の世界。核ミサイル一個でカタつくでしょうに」


「身も蓋もないね」


「ゼクトールの軍事力をベースにしてみれば、ケティムの兵器なんて時代遅れよ。どうせ戦略とか戦術とか、過去の戦いの集積とかを持ち出してくるのが関の山。古い! 古いわ! 戦略や戦術なんてちっぽけな物、核兵器一発……もとい、タミアーラの軍事力で粉々になるわ! オーホホホホ!」


 手の甲を口に当て、桃果は高笑いしている。

 高笑いする女子高生。


 ……身も蓋もないとはこの事だろうな……。

 ……ケティムの軍師に悪いことしたな。

 桃矢はそう思った。


 問題は、いかにしてチート能力を隠しながら戦うか? という一点だけだ。

 桃矢は、この戦争が終結した後の時代に、思いを馳せることにした。





叩かれたら叩き返す。

それはケティムも同じ。


次話「カウンター攻撃」

お楽しみに!


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