表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/58

1.ゼクトール非民主的絶対君主主義王国とは

 今から二千年ほど前のことである。


 全長12キロに及ぶ、外宇宙航行用宇宙船タミアーラ号が、地球の引力に捕らわれた。


 とある小さな島へと突っ込み、その活動を停止した。

 乗組員達(うちゆうじん)は、その島を第二の故郷とし、過去の文明を忘れ、平和の内に世代を重ねていったという。




 南海に浮かぶ絶海の孤島、ゼクトール。


 ありとあらゆる大陸や半島や島から、離れるだけ離れている。まさに絶海の孤島。

 その面積は、日本の屋久島より小さい。


 ほぼ円形の島から西に一本、12キロばかりの岬が張り出している。一言で表現するならフライパン。

 それと柄の延長線上に小さな島が一つ。それが国土の全て。


 この国の正式名称は「武装戦闘国家ゼクトール非民主的絶対君主主義国」である。ふざけた名前だが、ちゃんとした国連加盟国である。

 最近、勢いと話の流れだけで改名された国だ。


 ちなみに、改名前は「ゼクトール民主主義国」であったのだが、いろいろとやむにやまれぬ理由があって、こうなった。


 大事なことなのでもう一度書くが、ゼクトールは国連加盟国家なのである。



 そして舞台は、日本の国会に相当するゼクトール委員長会議の場となる。


 前国王崩御に伴い、二ヶ月前に政権が委譲されたばかり。

 白いネコがゴロゴロしている広いテーブルの周りに、若き九人の重鎮達が揃っている。

 その平均年齢は、16.8歳。


 ここ、ゼクトールの法律では、13歳で成人とされる。よってなんら問題はない。

 重要な事なのでもう一度書く。何ら問題はない!


 ちなみに、委員長は全て少女。制服は、訳あって水着。


 二十一世紀になってまで、古き絶対君主制を布くゼクトールの王権は強い。

 絶対である。


 亡くなった先王が、公務員の制服を水着に代えたのだ。

 現王の時代に代わった際、制服の見直しも議論された。しかし、新しい制服を購入する予算が立てられず、仕方なしに水着を制服として追認したに過ぎない。


 色々と危ないツッコミがでそうだが、責任は先王にある。文句は死んだ先王に言っていただきたい。



「――という次第で、ロビー活動が効を成し、合衆国議会は沈静化いたしました」


 外務委員長サラの報告が終わった。ちなみにサラは委員長のなかでも最年少の13歳。長く垂らした三つ編みがよく似合う少女だ。


 13歳という年齢を差し引いても背が低い。ちっこい。水着はワンピース。白地に青の太ボーダーである。


 彼女の言う、ロビー活動要員として平均年齢13.3歳の特別チームが送り込まれた。


 ……そのこと自体がロビー活動ではないかと、心の狭い者が騒いでいたが、それは違う。

 重要な事なのでもう一度書く。それは違う!


「よくやった! さすがに二度と合衆国なんかと戦いたくないからね」


「あ、ありがとうございます! これらは全てエンスウのお手柄なんです!」

 国王トーヤ陛下よりお褒めの言葉をいただいたサラ。頬をピンクに染めている。


 さて、国王トーヤであるが、彼は生まれも育ちも日本である。

 17才の高校生だった。

 見た目も日本人。額に星形の痣がある以外、どこといってパッとしない普遍的な容姿の持ち主だ。


 ひい婆ちゃんがゼクトールのお姫様だったのを ひい爺ちゃんが見初めて結婚したのである。

 当時、日本が戦争中であった事を鑑み、どさくさ紛れである事は確実だろう。


 分家に相当するが、本家の血筋が断たれたため、桃矢の両親及び日本政府の罠で誘拐同然……もとい、協議して一時的な王となったのであるが、なんやかんや引くに引けなくなって国王絶賛継続中なのである。


「次の報告にまいります」


 議事をつとめるのは、宰相のジェベル・オルブリヒト。最年長の24歳。

 お姉様系の美人。ブラウンの長い髪。白い肌。黒縁眼鏡が知的印象を高めている。水着は大人の黒ラメワンピース。


「財務委員長、マープルさん」

「はい!」

 マープルは16歳。艶やかな浅黒い肌を持つ、お嬢様系美少女である。背は高い方だ。


「ゼクトールの主産業である切手と熱帯魚の輸出高は、横ばい状態。先の戦争の影響で、海外稼ぎ組よりの送金が一月ばかりストップしました。戦後復興のため建設費がかさむ一方です。ボランティア……もとい、全国民挙国一致により、人件費はほぼゼロですが、材料費だけでもバカになりません。本年度単体で赤字となりました」


 にこやかな笑顔で凄いことを報告するマープルである。

 桃矢は頭を抱えて、テーブルに突っ伏した。


「続いて、我が国の貨幣であるゼクトール・ドルですが、明日より十京ゼクトール・ドル札の印刷に入ります」


 この国ではドーナツ一個が二億ゼクトール・ドルもする。日本円で二百円だ。

 一ゼクトールドルで二億枚用意しなければいけない。物理的な意味でも肉体的な意味でも不便である。


 つまり、ゼクトール・ドルは紙切れ同然となった。――ということである。


 ちなみにマープルの水着はフリル付きの赤である。


「なんつーか……経済において、一発逆転の技はないのかしら?」

 桃矢の横で、頬杖をついて座っている美少女。

 彼女は水着を着ていない。夏のセーラー服を着ている。


 この子の名は桃果。騎旗桃果。


 桃矢と同い年の17才。幼なじみの同級生。桃矢の誘拐事件のどさくさに紛れ、ゼクトールへ入国。

 先の戦争の折、戦争素人であるゼクトール委員会の指揮をとり、見事危機を切り抜けた戦争の天才(自称)である。


 戦争ヲタク(他称)とも呼ぶ。


 肩書きはゼクトール軍事参謀長である。どさくさに紛れて自分でポストを設立。そこに納まったのである。


「このままじゃ、国連加入費も支払えないわ」


 桃果の肩書きで、国会に相当する委員長会議に、出席はおろか、発言の権利もない。ましてや、部門外の案件に関して口を挟む権利はない。

 しかし、なぜか、委員長の誰一人として、その事に言及する者はいない。


「それについては……」

 商務委員長のジムルが席を立った。


 比較的高年齢グループに所属する18歳。赤い髪と赤いアンダーフレームの眼鏡がトレードマーク。ちなみに水着は、蛍光ピンクのレースクイーンタイプ。


「……観光立国を目指し、遠浅の綺麗な海を看板に、ダイビングで観光客を誘致いたしました件が御座います」


「あー、あったあった」

 桃果が苦虫を噛みつぶしたような顔をする。


「はい。あの事案は、やはりゼクトールへのアクセスの悪さが原因だったかと……」

 ジムルの声が、だんだん小さくなっていった。


「で、主原因は?」

 怖い顔をした桃果が原因であった。


「遠浅すぎて上級者向けの海ではなかったことが一つ。島の近海は海流が激しく、エンジン付きの船でしか航行できない危険な海域であったことが災いしたことが一つ。この二つだと推測されます」


「それは推測とは呼ばないの。はっきりした原因だと呼ぶの!」

 桃果の怒りが爆発した。

 委員長達は首をすくめて小さくなった。


「そういえば、国連から正式な注意が入った経済復興策もありましたね」

 宰相のジェベルだけが、にこやかな笑顔を浮かべて、遠い方向を見ていた。


「むうっ!」

 さすがの桃果も、南国気質が人化したようなジェベルを苦手としていた。  


「あれは酷かったね」

 桃矢もミルク入りの紅茶をすすりながら、情けない顔で笑っていた。


「あれは、日本からの観光客相手に、村で手隙の幼子たちを駆りだした話でしたね」

 ジムルも遠い目をしていた。


「口コミで、日本の、何か臭くて眼鏡かけたシャイな青年達が大挙押し寄せ、ヨウジョヨウジョと謎の言葉を発しながら、お土産を爆買いしていただきました。……売り子の幼子達から……」

 桃果は、その時のおぞましい光景を思いだし、背筋が寒くなっていた。


「結局、未成年どころか、六歳未満の幼児を働かせたと、全世界から総ツッコミが入って、大騒ぎになりましたわよね」

 ジェベルが柔らかい笑顔を浮かべながら、ココナツミルク入りの紅茶に口を付けていた。


「うん、あれはさすがに怖かった」

 桃矢も腕を組んで天井を見上げた。


「結局、大量の日本人観光客を見込んで作ったお土産が不良在庫として残りました。生産費を計算に入れると、あのプロジェクトは大赤字です」


 浜辺に落ちている貝殻を接着剤でくっつけて作ったカエルの置物とか、椰子の実の置物とか、ペナント、はてはゼクトール饅頭&煎餅まで。

 多品種のお土産を大量に残してしまった。


「お饅頭ばかりの日が、一週間続いた時は、さすがに勘弁してほしかったぜ」

 国土交通委員長のエレカが、渋い顔をして項垂れている。

 彼女は、ショートヘアーのボーイッシュな美少女である。


 引っ張られて、桃果も胸焼けを思い出した。

「その後に続いたゼクトール瓦煎餅強化週間も、地獄だったわね」


 お饅頭とお煎餅は、あとでスタッフが全て美味しくいただいたのである。


 テーブルの上のネコがのんびりとあくびをしている。それを見て、桃果のイライラは募る。


「結局赤字か。おかしいな。ケティムとの戦争にも勝ったし、合衆国の空母打撃艦隊にも勝ったのに、なぜ景気が上向かないんだろう?」

 桃矢が首を捻っている。九人の委員長も首を捻っている。


「……賠償金もらったんでしょうね?」

 恐る恐るといった体で、桃果が発言した。


 みんながお互いの顔を惚けたようにして見ている。


「……あ」

 九人の声が重なった。


「ばっ! バカじゃないの!」

 桃果がテーブルをひっくり返した。ネコが悲鳴を上げて逃げていく。


「が、合衆国なら、まだ支払ってくれるかも――」

「旬を過ぎた戦後補償や謝罪を求めるって? どっかの国じゃあるまいし! そんな格好悪いことできますか!」


「……どっかの国って、どこさ?」

「どっかはどっかよ!」

 桃果怒りの延髄斬りが桃矢の首筋に決まった。

 どう、と倒れ伏す国王桃矢。


 わらわらと狼狽える委員長達。


 そう、この実力(理由は察してください)こそが、ゼクトールの最高権力者達をもってして、国家の意思決定機関である委員長会議において、国王に匹敵する権限を暗黙の内に認める要因なのである!


「ケティムに関しては、嫌がらせが続いているし……」

 桃果が髪の毛をいじりだした。


 ゼクトール領内で見つかった海底油田が、前回の係争の元であった。

 最近になって、ケティムはゼクトールの領海の外、一キロの海域でボーリングをはじめたのだ。

 経済排他的水域の内側である。


「油田か天然ガスか? どっちにしろ地下で繋がっていることは、ナイショの技術で調査済み」

 とある宇宙的なナイショの技術なので、世間に公表できない。


 腐ってもケティムは大国。国際的な係争の場ではケティムの組織力が有利だ。

 国連をはじめとした国際社会でケティムの非道を訴えているが、そこは骨肉の争いの場。

 ケティムに対し合衆国や中国(PRC)、韓国や日本までが非難声明を出してくれたが、それは儀礼上のこと。軽い非難内容である。 


「ええい、どうしてくれよう」

 桃果の眉が危険な角度につり上がった。


 外務委員長のサラが悲しい顔をする。

「さすがのモモカ様も、対抗手段が……」


「対抗手段は五手ほどあるけど、どれが精神的に一番エグイかが問題よね」

 対抗手段はあるらしい。


「取りあえず、エンスウを通じてケティムの合衆国大使館に、正式な苦情を入れときなさい。立ち退かないとケティムの機材に危害を加えると!」


 その時である。


「皆の者、緊急事態じゃ! ミウラ国防委員長!」

 ノックも何も無しに委員長会議室に飛び込んできたのは、神官長のイルマ。


 地球人類にしては珍しい青白い肌の持ち主。髪飾りの付いた長い髪と独特の神官服がエキゾチックな印象を与える九歳児である。

 残念ながら、水着ではない。


 普通なら国家機密漏洩の嫌疑で、取り押さえられるところであるが、誰も気にしてない。

ゼクトールの南国気質故である。または、会議の内容が大したことないからかもしれない。

 ネコがいた時点で推して知るべし!


「イルマ殿、どうされたのだ?」

 国防委員長のミウラが眉を険しくした。


 彼女は桃矢と同じ十七歳。金髪を後ろに撫でつけたクールビューティ。アイスブルーの目が冷ややかな印象を与える美少女。ちなみに、水着は艶のない黒のワンピース。


「ケティムが艦隊を動かした。目標はこっち、武装戦闘国家ゼクトール非民主的絶対君主主義国方面じゃ!」

 全員が立ち上がった。


 桃矢と桃果が座ったままだ。

 キョトンとしている。


「どうされました? トーヤ陛下、モモカ様?」

 イルマが不審そうな顔で二人を見つめている。


「え? だって……なんで今更ケティム?」

 桃矢は、目を点にしていた。


「二ヶ月前の防衛戦で、ケティムの脅威は退けたじゃないの?」

 桃果は頭の上に、大きなハテナマークを浮かべていた。


「ケティムとの間に終戦協定は結ばれておりません」


 ミウラが説明をするも、二人の反応は鈍かった。


「あ、忘れてた。そういや、ケティムとは戦争状態のままだったっけ」

 やっと桃矢が思い出した。


「これよ!」

 桃果の反応は違っていた。


「この戦いに勝って、戦後賠償金をふんだくって国庫を補填するのよ!」


 よい子のみんなは、桃果のような問題発言をしてはいけないぞ!




作中に登場する「ケティム」は架空の国家です。

けっして某バイクメーカーを嫌っているからではありません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ