占師のテント
【文芸バトルイベント「かきあげ!」第二回イベント参加作品・テーマ『謎』】
※これは某学者をモチーフにしたフィクションです。
「ようこそ、アル」
ぼくは、プレジャー・ビーチにあるこの占師のテントに笑って入ってきた男をビックリさせないように声をひそめてあいさつをした。しかし、失敗したのは、その男が誰なのかをもう知っているんだとでも言いたげにその男の愛称をあいさつに添えてしまったことだ。その『アル』という愛称の男は、ぼくの声とそのあいさつが意味することを素早く察知して笑いを止め、ぼくを鋭く注視した。
「そんなにビックリしなくていいと思うけど」
ぼくはアルの態度に苦笑いをしたけれども、アルは凍り付いた表情と不審な目でぼくを見続けて『どうしてここにいるのか、いつここに来たのか、なぜこの場所なのか、そしてなぜ君なのか、説明してほしい』と早口で繰り返し尋ねたことに、ぼくはひどく戸惑いを感じた。
「その質問に論評はできないけど、そうだなぁ、これが【ぼくの本質】とでも言っておこうか。それよりアル、いつまでもテントの入り口に立っていないで椅子に座ってよ」
ぼくの向い側へ座るように手招きをすると、アルは不思議そうな表情をぼくに向けたままスツールをまたぐようにして腰掛けた。座ってからもアルはまた疑問を口に出したそうにイライラと指の爪をかんでいた。
「落ち着いてよ、アル。ぼくはアルをどうかするつもりはないから。むしろぼくがアルに好かれたいとばかり思っていることは、君が一番よく知っているでしょ?」
ぼくの言葉を聞いたアルは、ぎこちないけれども薄っすらとほほ笑んだ顔をぼくに向けてくれた。
「そう、その笑顔だよ。初めてぼくを見た時のアルの笑顔そのものだ。ランニングの途中で牧場の草の中に座っていた、あの時のアルと同じだね」
ぼくがうれしそうに言うと、アルは頬を赤く染めた。
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