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桜色の夢を話そう

作者: 武田美空





学校までの15分はなかなか貴重な時間だったりする。

足は全力でペダルをこいで、乱れる息がその激しさを物語る。

風は挨拶を交わすより先に通り過ぎ、数秒が経過する間に私は数十メートル先にワープしている。

朝のひんやりした空気の中を、ひたすら急いで駆け抜けるのだ。

春がやってきた。

通学路には桜並木が続いており、私が通り過ぎる気配に枝が揺れる。先端に花を咲かせ、

朝露に濡れた緑の中で桃色が際立っていた。いつの間にやらそんな季節がやってきていたのだ、とせわしくなく迎える毎日を振り返る。やはり思い出せなかった。

新しい季節を迎えて、自分は以前と比べてどうなっているのか、ふと疑問に思う。

顔つきは変わっただろうか。雰囲気は大人びたろうか。少しは前向きに現実を受け止められるようになったろうか。季節だけがめくるめく変わり、自分だけは永久に変化しないまま成長など迎えないのかもしれない。蕾のまま、咲かすことなく枯れてしまうかもしれない。

ひらりと鼻先をかすめた花弁に、漠然とした不安を感じた。

大人になるって難しい。

大人になるって辛い。

子供でいるのも面倒くさい。

子供扱いは悲しくなる。

変わり行くのを待ちわびながら、どこかで過ぎ行く時間を恨む。

また桜が咲くころには、私は大人の顔つきで未来を見据えているのだろうか。

ぼんやりと浮かぶ未来予想図に、身震いするほどの恐れを感じた。なぜなのだろう。

つんと痛んだ鼻の奥が、今この瞬間、確かに現実なのだと教えてくれる。子供でいられるあとわずかの時間を、私はどうやって未来と戦いながら過ごせば良いのか。

どんどんと変わって行くあらゆる世界を、私は私のままで迎えられるのだろうか。

ふと思う。

いつか私がしっかりとした意志を持てるようになって、少しは引き締まった顔つきになって、『子供』の時間にピリオドを打った時、変わらず胸の奥に今の『私』の居場所があればいいと。

辛くなった時に少しだけ勇気をくれる存在でありたい。未来の私にとって支えになれる私でありたい。

だから今は子供でもいいのかもしれない。しかし早く大人になりたい。

結局、大人になりたいと願うのは子供の証拠なのだと思う。

風に揺れる桜の枝々が春を告げる。夢見て朝を迎えるこの時は、確かに現実なのだ。

少しだけしんみりと思案する。

きっかり15分で私は一歩踏み出した。





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― 新着の感想 ―
[一言] 通学中にこれだけのことを考えられれば、大きな一歩ですね。
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