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叱責

 桔音が、ドランと共にジェネラルオーガを討伐し、街に戻って一息付いていた頃。


 勇者達も同様に、ギルドから自分達の宿へと戻っていた。

 しばらく戦闘を繰り広げた後、ジークの体力切れとシルフィの魔力切れが来て、ステラはその隙に立ち去って行ったのだ。最後の最後まで手加減されて、攻撃すらされないまま流された。ジーク達からすれば、それはプライドを傷付けられることであったが、歯噛みしながらも、見逃された事実を噛み締めた。


 気絶した勇者と巫女は、それぞれ勇者をジークが担ぎ、巫女はルルが引き摺って運んだ。まぁ、ジークが流石に止めてやってくれと言うと、渋々担いで運んでいたが。


 お面を取り戻していることを、ジークとシルフィは何も言わなかった。ただ、お面を取り戻しているにも拘らず、自分達から離れないのかとは聞いた。

 だが、ルルは『ここで勇者達から離れた所で、社会の常識を知らない子供である自分が無事にきつね様の下へと戻れる可能性は低い』という結論の下、桔音が迎えに来てくれるのを待つ事にしたらしい。


 平たく言えば、勇者は桔音が自分達を探すのにうってつけの目印になると判断したのだ。自分から桔音の下へ帰れない以上、再会するのを待つしかない。そんな考えから来る決断だった。


「……にしても……なんだったんだ、あの白いの」

「分かりません……『使徒』、という存在も聞いたことがないですし……『きつね』という少年と一緒にいた魔族、とも言ってましたし、どうやら魔族ではないみたいですが……」


 そして、ベッドに勇者と巫女を寝かせた後、ジーク達は使徒ステラについて話していた。

 魔王を倒すべく旅をしているというのに、その道中であんな怪物に出くわすなど、不幸にも程がある。しかも、勇者が居る以上これからも事を構える可能性が高い。


 今回は特に死傷者もいないで済んだけれど、次は誰かが死ぬかもしれない。


「……もっと、強くならねぇとな……」

「そう、ですね……今のままじゃ、魔王も倒せるか危ういです」


 理解出来ることは少ない。ただ一つ分かるのは、今のままではこの先、自分はおろか勇者や巫女だって死んでしまうということ。

 強くならねば、生き残ることは出来ない。そうなれば、人々の希望だって消えてしまう。


「で、これからどうする? ナギも巫女の嬢ちゃんもこのザマじゃ……依頼を受けるのも……」

「……無理、そうですね」


 ジークがナギ達を見ながらそう呟くと、シルフィも眉を潜めて頷いた。空気が重く、この先の勇者のパーティとしての重圧が圧し掛かっている様だった。


 だが、その時だ。



「もー! 空気が重いよ! ブツブツと何言ってるか分かんないし、それでも勇者のパーティなの!?」



 フィニアがぷんすかと憤慨した様子でそう言った。

 重い雰囲気が崩壊し、ジークとシルフィは眼を丸くしてフィニアに視線を向ける。言葉が出ず、フィニアが頬を膨らませてキリッと睨んでくる視線から、眼を放せなかった。


「な……っ……」

「あのね! 最初に会った時からだけど、貴方達なんでそんなに暗いの!? 大して会話しないし、すこっしも笑わない! じめじめウジウジと息が詰まるよ!!」

「そ、それは……」

「これじゃパーティというよりも一緒に居るだけの他人だよ! 一緒に居る人とも上手く付き合えないのに、世界中の皆を笑顔に出来るとでも思ってるの!? 思いあがりも甚だしい! 勇者やめちまえ!! こんなクラスに1人は居そうなぼっちキャラを集めたようなパーティ誰も頼りになんかしないよ!」


 言いたい放題、言われているというのに、ジークとシルフィは何も言い返せなかった。

 というより、寧ろハッと気付く。

 確かに、自分達はこれまでそれほど交流していなかった。ジークは凪と訓練である程度会話するが、シルフィやセシルとはほぼ無干渉であったし、シルフィは話し掛けること自体が苦手だったし、セシルはいつも何か考えているようで、凪以外とはあまり会話しない。


 こんなチームワークの欠片もないパーティに、魔王が倒せる筈もない。


 フィニアの言葉に、そう気付かされた。


「なんでこんなゴミみたいなパーティが勇者一行なんだろう……一生親の脛齧って引き籠って死ねばいいのに」

「そ、それは言いすぎだろ……でもまぁ、その通りだな……近くに居る奴と仲良く出来もしない奴が……世界を救うとか、とんだ妄想野郎だ」

「わ、私も……魔王を倒せばいいと思って、人と会話する事を放棄してました……」

「どうでもいいよ……私は貴方達が嫌いだし、今すぐにでもきつねさんの所に戻りたい……でも、それが出来ないから此処に残ってるの」


 フィニアはゴミを見る様な視線でジーク達を見て、そう吐き捨てた。

 一緒に居る以上、暗い雰囲気が嫌だっただけ。精神汚染も真っ青な空気を、どうにかしたかっただけなのだ。ジークもシルフィも、勇者一行だからといって嫌っている訳ではないが、それでもウジウジと落ち込んでいる2人は、見ていて不愉快だった。


 フィニアはジーク達から視線を切って、少し離れた所で椅子に座っているルルの太ももの上に座った。ぷんぷんと不機嫌を隠すことなく頬を膨らませている。

 ルルはそんなフィニアを見て、苦笑した。

 一応、ルルもフィニアと同じことを思ってはいた。

 でも特に指摘することでもないかと我慢していたのだが、フィニアは耐え切れなかったようだ。まぁ、そのおかげで暗い雰囲気が多少改善された。ルルも少しだけ気が楽になった。


 フィニアはルルの苦笑を見て、ふと微笑む。実の所、フィニアの今の行動はルルの精神的負担を減らす為の行動だった。過度な訓練で肉体を酷使しているルルだ、せめて精神面位はケアしようとしたのだ。


 まぁ、実際に不愉快だったのもあるのだが。


「ありがとうございます、フィニア様」

「ん? なんのことかなっ!」

「いえ、こっちの話です」


 仲間とは、絆で通じている存在だ。今のフィニアとルルの様に、背中を預けて戦える様な、友人の様に会話出来る様な、相手の為に行動出来る様な、そんな関係なのだ。

 ジーク達の様に、互いに歩み寄れない関係は所詮他人。パーティどころか、一緒にいるだけの他人同士でしかない。実力は高いメンバーであっても、そこにはパーティとして、仲間として、重要なものが欠けていた。


「……なぁ、魔法使いの嬢ちゃん」

「……シ、シルフィ……です」

「あ、ああ……えーとシルフィ、俺はジークだ」

「は、はい……よろしくお願いします」

「あー……と、よろしくな……それで、だ……仲間として、あんたのことが知りてぇ、教えてくれ」

「そ、そう、ですね……私も、ジークさんのこと知りたいです」


 すると、フィニアに言われた通り、ジークとシルフィはまずはとばかりに、お互い歩み寄ることにした。

 だが、剣一筋で、むさい男共に混ざって修行してきたジークと、ずっと1人で魔法の研究と訓練に時間を費やしてきたシルフィ。お互い異性との付き合いなど無縁だったのだ、かなりぎこちない歩み寄り方になっていた。

 視線は挙動不審にあちらこちらへと動き、手も忙しなく頭を掻いたり、首を触ったりと明らかに異性に慣れていないのが丸分かりだ。


 その姿は好きな子を前にした少年少女の様で、とても微笑ましい物がある。


「……ルルちゃん、私これはこれで不愉快なんだけど」

「…………死ねばいいのに」

「ルルちゃん!? どこで覚えたの! そんな汚い言葉! 私か!!」


 ルルが無表情で呟いた言葉に、フィニアは驚愕しつつ自分の影響だと気付いて自己完結した。頭を抱えて、『ルルちゃんが汚れちゃった……いや、私が汚したのか? これはこれで教育ってことで……うむむ』とかなんとか呟いている。


 ルルはそんなフィニアを余所に、なんだかラブコメな雰囲気を醸し出すジークとシルフィの、お見合いの様な質問を交わす様子を、なんとなく眺めていた。




 ◇ ◇ ◇




 さて、僕はドランさんを連れて宿に戻ってきた。

 食堂に入ると、フロリア姐さんがニコちゃんと食事を取っていた。4人用のテーブルに、ニコちゃんとヒグルドさんが隣同士で座り、ニコちゃんの対面に姐さん、その隣には先に帰したレイラちゃんが座っていた。リーシェちゃんは何処かと思っていると、ヒグルドさんとレイラちゃんの横、所謂お誕生日席に座っていた。


 食べているのは、シチューの様な料理だ。良い匂いがする。空腹感が募り、お腹が鳴った。


「美味そうだな」

「そうだね……僕達も食べようか」

「おう、御馳走になるぜ」


 僕達も入り口から足を進めて、食堂に入る。


「あ♪ きつねくーん! こっちこっち♡」


 すると、いち早く僕に気が付いたレイラちゃんが手招きしてくる。でもテーブルは空いていないから、手を振り返して、レイラちゃん達のテーブル近くの、カウンター席に座ることにした。ドランさんと並んで座ると、宿の従業員が注文を取りに来る。

 この宿は、エイラさんの所とは違ってかなり大きい。部屋の数も多いし、女将さんの他に十数人の従業員が雇われているようだ。食堂には食堂の従業員が数名居て、宿泊客に対する従業員も数名いる。


「あのテーブルの料理と同じ奴を2つ」

「かしこまりました」


 僕が注文すると、従業員は一つ礼をして去っていく。


「ところで、この辺に現れた魔族ってのはどんな奴なの?」

 

 そこで、僕はドランさんにそんな質問をする。レイラちゃん達はテーブルは近いけれど、会話するには少し距離があるので、必然的に会話するのはドランさんになった。

 まぁ、魔族の事も気になっていたし、聞いておいて損はないだろう。


「ああ……情報によると、相手はCランク魔族。詳しい事は分からねぇが、この辺の村が幾つか壊滅したらしい。死傷者で言えば、もう何百人もやられてる……壊滅した村の位置関係から、今度はこの街が襲われる可能性も少なくない」

「だからドランさんはこの街に来たんだ?」

「そうだ」


 なるほど、数百人もやられているねぇ……こりゃ魔王様は更に凄まじそうだ。是非とも会いたくないや。まぁ歴史を遡れば勇者と戦い続けているようだし、僕には関係ない。会う事もないさ。

 出来れば僕が仕返しをした後に勇者を殺していただければ万々歳だよ。ああ、でも僕には関係のない所でお願いしたい。絶対僕の目の前には現れないで欲しいね。


「ま、それにしたって魔族ってだけですげぇ危険なんだ……見逃すわけにはいかねぇだろ」


 ドランさんの言葉に、僕はレイラちゃんを見ながら、


「あははー、そうだね!」

 

 棒読みで頷いた。


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