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大将としての誇り

 ジェネラルオーガと冒険者ドランとの戦いは、予定通りというか、実力通りにドランが優勢だった。

 ドランは元々、Bランクという実力まで昇り詰めるまでに、多大な努力を自分に課してきた。そのおかげもあって、冒険者になりたての頃より身体は逞しく育ち、そして大きく、冒険者として体格に恵まれた。

 そして体格とパワーに恵まれたことで、まだ青かった時期だ、勢いだけでDランクに上がった後、敗北を幾度も味わう様になった。そのおかげもあり、かなり慎重に、そして冷静に戦闘に望むことを覚えた。


 パワーだけでは、基礎能力の違う魔獣には勝てないことを知り、技術を身に付けた。ソロで活動し、毎回別々の格上冒険者とパーティを組み、盗める技術は全て盗んだ。

 結果、恵まれた体格とパワーを最大限に活用する技術を身に付けたドランは、Dランクから一気にBランクまで駆け上がる。更にギルドからはAランクへのランクアップを認められてはいるが、勢いだけでランクアップすれば、痛い眼を見ることを経験で知っている。


 ドランは十分な実力を付けてからAランクに上がることを決めた。己の実力はまだBランクの領域にいる、と。


 故に強い。

 大きな力を活用する技術を覚えたドランにとって、同じパワータイプのゴブリンやオーガという相手は、かなり相性が良い。力を活用する技術があるということは、相手の力を利用することにも長けているということだ。


 棍棒を振り下ろすジェネラルオーガの真下へ落とす力を、ドランは受け止めるのではなく、逸らすことで力の行き先を『外す』。

 すると、行き場を失った力は逆に、自分へと向かってくる。つまり、外された力はジェネラルオーガの重心をずらし、体勢を崩す。結果、隙が出来る。


「おおおおおっ!!」

「ッガァァ!!!」


 先程からドランは、そういった技術を利用してジェネラルオーガの隙を作り、己の攻撃を当てていた。

 Bランクという実力が、遺憾なく発揮されている。ジェネラルオーガに、勝機は無かった。


「お前、ちょっと前の俺と同じだよ」

「ガァアアア!!」

「良いか、パワーだけじゃ……限界は超えられねぇ!」

「―――アガァ!!?」


 ドランの剣が、ジェネラルオーガの腕を斬り落とした。握られた棍棒ごと、片腕が地面へと落ちる―――前に、黒い瘴気に包まれて、棍棒を残して消えた。


「! ……なんだ、オーガはもう片付いたのか?」


 ドランはその現象を見て、背後に近付いてきた気配に笑みを浮かべた。そして、軽口を叩くようにそう聞く。

 すると、その背後の気配もフッと笑う声を出して、答えた。


「うん、まぁ大した敵じゃ無かったよ」

「そいつは結構なことで」


 やってきたのは、桔音達だ。

 ドランの視線はジェネラルオーガに向けられており、桔音達の姿を視界に捉えた訳ではないが、その気配と口調から、無事にオーガを倒したのだろうということは分かった。

 

 やっぱりHランクなんて詐欺じゃねぇか、とドランは内心苦笑した。そして、少しだけ桔音の本当の実力が気になったりして、高揚する心を抑えられない。自然と、頬が緩んでしまう。


「これだから冒険者ってのはどいつもこいつも油断ならねぇんだ」

「援護はいるかな?」

「冗談、そこで見てろHランク」

「それじゃ見学させて貰うよBランク」


 ドランは桔音の助力を拒否して、再度ジェネラルオーガに向かい合う。片腕を失ったジェネラルオーガは、武器である棍棒を取るか、それとも己の拳を握るか、迷っている様だった。

 だが、棍棒は目の前のドランの背後、取りに行けば確実にもう一本腕を持っていかれる程のダメージを貰うだろう。ジェネラルオーガも、それは理解出来る。


 故に、ジェネラルオーガは棍棒を捨てた。ドランを見据え、その巨大な拳を握る。

 ジェネラルオーガには、ジェネラルオーガなりのプライドがあった。オーガの大将に生まれた己の実力と、今まで生きて来て培った、この拳がその証明だ。


「行くぜ、豚鬼野郎」

「………グルル……!」


 目の前の人間が己よりも強いというのなら、これまでの全てを掛けて、持ち得るパワーで叩き潰すのみ。


 剣を構え、Bランクとしての威圧感を静かに放つドラン。対して、その威圧感を真正面から受けることで、実力の差を知ったジェネラルオーガは一瞬怯んだ。

 しかし、その実力差は既に理解している。己の配下であるオーガ達がやられたというのに、大将が逃げるなど、出来る筈もない。


 ソレは、魔獣であるとしても変わらない。ジェネラルオーガは大きく鼻から息を出すと、魔獣とは思えない様な凛々しい顔付きで、ドランを見据えた。


 拳を握れ。相手は格上、配下のオーガを殺した人間だ。おそらくは負けるし、きっと死んでしまうだろう。



 でも、戦う理由は必要ない。



 ―――逃げない理由があれば、それで良い。



「掛かって来いやぁああああああああ!!!!」

「グルァァァァアアアアアアアアアア!!!!」



 ドランの叫びに、ジェネラルオーガが吠えた。

 両者が地面を蹴る。接触は一瞬、剣が煌めき、拳が空気を切った。


 そして―――



「お疲れさん、最後の拳は悪くなかったよ」



 ジェネラルオーガの首が落ち、ドランは鞘に剣を納めて、そう勝利宣言をした。



 ◇ ◇ ◇



「今何をしたのか見えたか? きつね?」

「え? 見えたけど、見えなかった?」

「見えたし! 全然見えたし!」


 ジェネラルオーガ、略してジェルとドランさんの戦いは、最後の一撃しか見ていなかったけれど、凄まじかった。

 ジェルの拳は、実の所ドランさんの身体に正確に吸い込まれて行った筈だった。でも、ドランさんの身体に拳が当たる瞬間、ジェルの拳を剣先で逸らした。


 いや、逸らしただけじゃない。逸らしながら身体を回転させて地面を蹴った、そしてその遠心力も使ってジェルの首を刎ねたんだ。


 一瞬でもタイミングが遅れればジェルの拳の餌食だった筈なのに、それを恐れずに行動に移す胆力と、成功させる技術の高さ。そしてジェルのパワーに対抗出来る天性の怪力。

 そのどれもがなければ為し得なかっただろう。


「見えたけどな? 見えたけど一応きつねにも確認しておこうと思ったんだ、何をしたと思う?」


 さっきからリーシェちゃんがうるさい。


 とはいえ、彼女は『先見の魔眼』も持っていないし、素の動体視力で動きを捉えないといけないから、あまり見えなかったかもしれないね。とりあえず、今さっき見た事実を教えてあげた。


「成程……やっぱりきつねもそう見えたか」

「うわ、白々しい」


 ちなみに、ステータスの『敏捷』というのは、自身のスピードも主ではあるが、その中には動体視力や三半規管、平衡感覚等のステータスも含まれている。

 やはり『敏捷』ステータスの上昇で上がった速度に、自身の感覚も付いていけなければならない以上、その部分も当然強化される。故に、相手の速度にも付いて行けるし、自身の速度にも感覚が付いていける訳だ。


 とはいえ、自身の速度を上げる為には『敏捷』と、その他に『筋力』のステータスもそれ相応になければならないから、僕の場合自分自身の速度はまだそれ程ではないんだけど、相手の速度には大分付いていける。

 まぁ幾ら相手の動きが見えるからと言って、僕の速度は大したことないから、躱せないんだけどね! 『先見の魔眼』を使ってようやく躱せるって感じかな?


「リーシェちゃんもこれからだよ」

「うぅ……きつねに慰められた……こんな屈辱は無い!」

「君は何? 僕のこと嫌いなの? 慰めた僕の方が慰めが必要な気がするんだけど」

「きつね君きつね君! 私が慰めてあげるよ♪」

「どうやって?」

「え? んー……えへっ♪」


 何も考えてないじゃん。笑顔で誤魔化されると思うなよ! 僕はその辺厳しいんだからね? まして、レイラちゃんなんかの可愛い笑顔で誤魔化されると思うなよ!


「仕方ないなぁ、また後でお尻叩かせてね」

「うん♪ ……うん?」


 言質取った!

 丁度僕の筋力値もレイラちゃんの耐性値に届いたことだし、良かった良かった。これも僕の普段の行いが良いからだね。普段から善良で真面目で健全な僕だからこそ、こうやってたまに良い事があるものなんだよ。


「……そろそろ良いか?」

「あ、ごめんねドランさん。忘れてたわけじゃないよ、存在感が希薄だっただけで」

「それを忘れてたって言うんだよ、殴るぞお前」


 別に殴られても痛くは無いから良いけどね。僕の耐性値はレイラちゃんの攻撃以外はこの場の誰よりも上だから。素でやばい防御力と自己治癒能力になったし、致命傷喰らっても『臨死体験』あるし、あれ? 僕結構強くない?


 えーと、それじゃ帰ろうかな。って……うわぁ……。


「ジェルも倒したことだし、早く帰ろう」

「ジェル? ……ああ、ジェネラルオーガの略か……ん、まぁ討伐部位も回収したし、帰るか」

「じゃあドランさんが先頭ね、ほら早く早く」

「お、おいなんだよ? 押すなよ……ったく、どうしたんだか……」


 うん、なんでかって言うと、背後の方でレイラちゃんがジェルの死体喰ってる。滅茶苦茶美味しそうに食べてる。死にたてだから、新鮮ってことなのかな? あれは流石にドランさんには見せられない。てか見たくもないだろう。

 ということで、ぐいぐいと彼の背中を押して、帰ることにする。レイラちゃん、後で尻叩き以外にもお仕置きが必要だな。


「ドランさん、帰ったらちょっと基礎的なことで良いから体術教えてよ」

「ん? ああ、まぁ良いが……大丈夫か?」

「まぁちょっとした身体の動かし方程度でいいからさ」

「そうか……ま、その為には帰り道も油断しないこったな」

「それは御尤もで」


 それから街に帰るまでの帰り道、雑魚魔獣が数体と、ゴブリンが数体現れた。とりあえず全部僕が倒した。瘴気変換は数が多かったからそんな暇なくて出来なかったけど、耐性に物を言わせた戦闘法は中々僕に合っているようで、ガード後のカウンターは僕の筋力以上の攻撃力が発揮された気がする。

 ちなみに、1体倒すごとにレベルを1に戻して戦ったから、まだレベルが急上昇。ステータスも急上昇したのだった。



 ◇ステータス◇


 名前:薙刀桔音

 性別:男 Lv1

 筋力:4800

 体力:17350

 耐性:32680

 敏捷:12080

 魔力:9920


 【称号】

 『異世界人』

 『魔族に愛された者』

 『魔眼保有者』


 【スキル】

 『痛覚無効Lv5』

 『直感Lv5』

 『不気味体質』

 『異世界言語翻訳』

 『ステータス鑑定』

 『不屈』

 『威圧』

 『臨死体験』

 『先見の魔眼Lv6』

 『瘴気耐性Lv6』

 『瘴気適性Lv6』

 『瘴気操作Lv5』

 『回避術Lv3(↑2UP)』

 『見切りLv4(↑2UP)』

 『城塞殺し(フォートレスブロウ)Lv4(↑3UP)』


 【固有スキル】

 『先見の魔眼』

 『瘴気操作』

 『初心渡り』


 【PTメンバー】

 トリシェ(人間)

 レイラ(魔族)

 ドラン(人間)


 ◇


ジェル、勇者より格好良かった気がする。何故だろう? 何故だろう?

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