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違和感

 街に辿り着いた僕達は、いつも通り宿を取ってからギルドへと向かった。姐さんも宿を取る所までは一緒だったけれど、冒険者ではないからか、宿で別れた。

 別の部屋でも同じ宿だからいつでも話は出来る様だけれど、得にやることは無いらしいから部屋で休むそうだ。都合が良いからニコちゃんの子守りを押し付けた。ヒグルドさんも一緒だから、特に困ることは無いだろう。姉御肌の姐さんは、『ッハハ! 任せとけ』と流石の器の大きさでソレを引き受けてくれた。


 さて、それでギルドに辿り着いた僕達―――詳しく言えば僕とリーシェちゃんとレイラちゃんの三人だけど、ギルドには数名の冒険者がいた。男女比で言えば、4:6で男の方が多いけれど、女冒険者も少なくない。

 しかも、その誰もが僕達を一瞥した後、その手を武器へと伸ばした。


「……お前ら―――というか、お前とお前」


 彼らの内の一人、男の冒険者が僕とレイラちゃんを顎で示してくる。首を傾げつつも、僕は薄ら笑いを浮かべながら問い返す。


「何かな?」

「何者だ? そこの嬢ちゃんはともかく、お前とそこの女は……人間か?」


 レイラちゃんはともかくなんで僕が言われるのかな? 凄い解せないんだけど、解せないんだけど! ていうか、なんでこうも皆僕の事を人間かどうか疑ってくるんだ。リーシェちゃんのお父さんなんて僕の事『死神』とか言ってきたし、化け物を見る様な眼で見ないで欲しいなぁ。


 あ、もしかしてこの左眼のせい? 赤いもんね。


「一応人間だけど? そういう貴方は……もしかして、男?」

「何故この空気でそんなことを言えるのか俺には全く理解出来ないんだが」


 僕の言葉に、男の冒険者は若干ガクッと体勢を崩した。シリアスな空気が壊れた様で、剣から手を放したものの、まだ僕達に対する警戒を解いていない。

 とりあえず、ギルドの入り口から中に入れないこの状況をどうにかして欲しいんだけどなぁ。まぁ、会話する余裕はあるようだから、ちょっと茶化してみる。


「そこはほら、人は見た目で判断しちゃいけないっていうアレに従って?」

「その理屈でいくとお前が人間かどうかも見た目じゃ分からねぇよな?」

「……なんで僕が人間じゃないと思ったのか、教えてくれないかな?」

「匂いが違うんだよ、お前から感じる気配は……普通の人間じゃねぇ」


 なにこの言われ様。僕がなにをした!


 言われるならレイラちゃんだろこの場合。僕普通の人間じゃん、魔族の肉体で出来た左眼を持ってるけど、それ以外は純粋培養の人間じゃん。なんでさも化け物のように言われないといけないんだ。

 納得いかない。それを言うなら、Aランク冒険者だって化け物だろう。その気になれば一般人を拳一発でぶっ殺せるんだぜ? それに比べたら僕なんて大したことないじゃないか。


「ねぇリーシェちゃん、この人達凄い失礼なんだけど。なんで僕こんなボロクソ言われてんの? なんか悪いことしたかな?」

「強いて言えば普段の行いが悪いんじゃないか?」

「それ上手いこと言ったつもり? 見事に僕の心を抉ったんだけど」


 味方なんていなかった。前にも後ろにも僕の敵か、こういう人間関係的な会話にレイラちゃんは役に立たないし。

 まぁでも、仕方ないといえば仕方ないのかもしれないなぁ。『不気味体質』とか、発動した場合Aランクの騎士団長でも死神扱いだしなぁ。


 というか、今思ったけどこの状況『不気味体質』のせいじゃない? あれパッシブスキルだし、軽く常時発動しちゃってんじゃないの? 敵と思ってなくとも、初対面の人に対しては多少警戒するよね? そのせいで若干発動しちゃってんじゃないの?


 うわぁ、これとんでもないコミュ障スキルだよ。


「とりあえず、僕達は人間だよ。此処に来たのだって依頼を受けにきただけだし、ほらギルドカードもあるよ! 仲間仲間、僕達ナカーマ」

「……そうか。悪かったな、最近このあたりじゃ魔族が現れたって報告があったから、皆警戒してんだ」

「魔族? なんでまた?」

「知らねぇよ、だが……魔王が復活して、魔獣達も活発になってるんだ。魔族が現れてもおかしくはねぇだろ」


 そうだね、現に僕の隣にいるもんね、魔族。魔王関係無いけど、Sランクの化け物がいるもんね、僕の隣に。


「……」

「ん? なぁに? きつね君♪」

「なんでもないよ」


 軽く視線を送ったけど、僕の意図を察してくれなかったらしい。魔族ってレイラちゃん以外見たことないんだけど、皆こんな感じなのかな? だったらやだなぁ、少しくらいは知性的な魔族であって欲しい。魔王が駄々を捏ねる子供とか嫌だ。なんかこう、浪漫が無い。


 でも、魔族が現れたっていうのはちょっと気になる。詳しい情報を集めるかな、出くわして死ぬのは嫌だし。


「とりあえず、自己紹介しておくね。僕の名前はきつね、Hランクの冒険者だ」

「あ、ああ……Hランクだったのか……俺の名前はドラン、一応Bランクの冒険者で通ってる」


 なんだか知らないけど、魔族に遭う前に思わぬところで国家災害級(Bランク)の怪物に出くわしたようだ。




 ◇ ◇ ◇




 魔王とは、魔族の王にして、世界を滅ぼすことが出来る最も強力な力を持った魔族だ。その種族は、人間達は勿論、魔族達の間でも良く知られていない。

 魔王がどんな種族の魔族なのか、どんな力を持っているのか、それは魔族達の間でもあまり知っている者は少ない。


 では、何故詳細の分からない魔王に付き従うのか?


 その理由は簡単。魔王が、『魔王』だから付き従うのだ。

 魔王とは、勇者と相成す者。圧倒的な力を持ち、見る者全てを魅了する禍々しくも美しい魅力(カリスマ)を持った、最強にして最悪の存在。


 魔族達は、一目見ただけでその姿に見惚れ、その言葉に心を掴まれる。そして、魔王の強者の瞳に魅入られ、理性と本能の両方で理解する。



 ―――この方こそ、魔王に相応しい、と。



 そして、魔族が自然と膝を折り、頭を垂れる魔王という存在は、知性を持たない魔獣ですらも魅了する。まるで飼い主とペットの様に、魔獣達は魔王に従う。やはり彼らも本能で分かるのだ、この魔王という存在が、自分達の上に立つ者なのだと。


 そしてそれでもなお魔王に歯向かう者は、その圧倒的な力の前に敗北する。一撃たりとも、魔王に攻撃を与える事も出来ずに死んでいく。それを見て、更に他の者は魔王に陶酔する。


「……今代の勇者の動向は如何様になっている?」


 暗黒大陸に聳え立つ魔王の城の最奥で、魔王は呟いた。


「……はい、異世界の気配を配下の魔族に追わせています」

「うむ、奴らは異世界からの来訪者……この世界の住人とは魂の質が異なる。故に、その魂の気配を追えば、自然と勇者へと辿り着ける筈だ……殺れる様であれば、その配下とやらに勇者を殺しても良いと伝えろ。そやつが死んだ場合、その時は勇者もそれなりに力を付けているということだろうからな」

「畏まりました」


 魔王の言葉に姿を現したのは、魔王の右腕である魔族。彼もまた、Sランクの魔族であり、魔王に劣らぬ実力の持ち主だ。


「ああ、それと……魔王様に報告が」

「む? 如何した?」

「以前から泳がせていた『赤い夜』が、魔族へと進化したようです」

「ほう? あの半端者、遂に完全に魔族と成ったか……面白いではないか。とはいえ、まだ我々の領域に踏み込んだだけであろう? 確かにあの能力は脅威だが、奴自体は大した事のない相手だ。下級魔族と大して変わりは無い」


 魔王は報告に対して、不敵に笑った後、放っておけと指示を下す。魔王にとって、『赤い夜』はそれほど脅威ではないのだ。あの瘴気(ウイルス)を操る能力と、感染力は、世界を滅ぼす程の脅威があるが、実際に戦えば魔王が10回に10回勝利する。

 魔族に成ったと言っても、成っただけではまだまだだ。彼女のSランクという格付けは、あくまでその瘴気という能力の危険性の話。彼女自身のステータスは、SランクどころかCランク魔族程度でしかないのだ。


 分かりやすく示すのなら、魔王のステータスを見れば分かるだろう。



 ◇ステータス◇



 名前:???

 種族:??? Lv???

 筋力:5628200

 体力:3451400

 耐性:23000:STOP!

 敏捷:5267960

 魔力:10201820


 【称号】

 『魔王』


 【スキル】

  ???


 【固有スキル】

  ???



 ◇



 名前や種族、スキルは、伏せてあるが、そのステータスは明らかに規格外。Sランクという領域の、頂点に立つ存在であることが、一目で分かる。迸る魔力も、その身に宿る物理的な力も、生命力も、普通ではない。どう考えても、勝てる筈がなかった。


「過去に存在した勇者は、強かった。だが、今の私は―――その勇者達よりも、遥かに高みに座している」

「……はい。間違いなく――――最強は魔王様です」

「今代の勇者がどれ程であろうが、纏めて叩き潰してくれる」


 魔王は笑う。


 魔王の城の最奥で、勇者を待つ。その身に宿す、最強の力と共に。


 世界を引っ繰り返す、その言葉を実現させる為に――――




 ◇ ◇ ◇




 そして、魔王が待つその勇者はというと、白い使徒を相手に、劣勢を強いられていた。


 青白い稲妻の槍は、剣で受け止められない。その雷そのもので出来た刀身は、打ち合った瞬間此方の剣をその身に宿す超高温の電熱で溶かしてしまうのだ。既に、今まで使っていたボロボロの剣がその犠牲になっている。


 幸いなことに、使徒の攻撃は初撃で放たれた『彗星の一撃』を除けば、今の所躱せない速度ではない。手加減されているのかは分からないが、『彗星の一撃』は至近距離での近接戦闘に持ち込めば放たれない。

 故に、凪とジークが前に出てステラと2対1の近接戦闘に持ち込む事で、攻撃の幅を狭めている。

 しかし、恐るべきはステラの実力。凪は勿論、ジークだってけして弱くは無い筈なのに、2人を相手に完全に抑え込んでいる。槍をまるで自分の手の様に振るい、凪達の攻撃は一切通らない。しかも、雷で出来た槍であるが故に、破壊は不可能、そしてその形もある程度変形させることが出来るのだ。

 躱したと思った拍子に、自分に向かって槍から鋭い棘が伸びてくることもあれば、鞭のようにしなやかな攻撃を放ってくることもある。


 全く歯が立たない。


「くっ……!」

「下がって、『炎の槍(フレイムスピア)』!」

「その風の猛威を振るい、我が障害を吹き飛ばせ―――『暴風の嵐(ゲイルストーム)』!」


 凪とジークが若干ステラと距離を取った所で、フィニアとシルフィが魔法を発動させる。物理的な攻撃が通用しないのならば、魔法を使うしかない。凪達がまだ戦闘を続けられるのは、魔法による援護があるからだ。

 だが、その魔法も槍の一振りで全て掻き消される。そして、その一振りの隙を縫って凪とジークがまた攻撃を仕掛ける。


 その繰り返しだった。じりじりと劣勢のまま戦闘が長引けば、凪達が負けるのも時間の問題。


 巫女セシルはそれを理解し、この状況を打破する為の方法を探していた。知恵を絞り、どうにか出来ないかと方法を練る。ルルはセシルが思考に集中出来るように、彼らの戦闘の余波で飛んでくる石片や、ステラの槍の一振りで生まれる雷の余波を防いでいる。


「何か……何かないの……!」

「くっ……! アンタ、異世界人である俺を狙うなら……なんできつね先輩を見逃したんだ!」

「彼は浄化するに値しないと判断しました」

「ぐあっ!!」

「ナギィ!」


 セシルは焦る。思考が纏まらない。

 そんな中、凪はステラに斬り掛かり、同じ異世界人である桔音がステラと戦った時、どうやって生き延びたのか、それを探る。


 だが、ステラの返答はそれだけで、凪はステラの蹴りによって後方へと蹴り飛ばされた。ジークが凪を受け止めたが、腹へと叩き込まれた蹴りの威力は、凪に確実にダメージを与えていた。


「げほげほっ……! っ痛ぅ……クソ、歯が立たねぇ……!」

「ああ……こいつはちと強すぎるな……一体何者だあの嬢ちゃんは……!」


 凪は膝を地面に着きながらも、上体を起こして咳き込む。そして、若干口を切ったのか口から血を流していた。手でそれを拭いながら、彼はステラを見る。

 実力差は歴然、それでもステラが進んで殺しに来ないのは、何か凪を観察しているからだろうか。露草色の瞳は、凪の心を見透かすように、凪を見ていた。


 そして、彼女は言う。



「……変ですね……貴方……勇者にしては弱すぎます」



魔王強すぎやっべー、やっぱ年季が違うわー(棒)


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